腸内細菌へのケトン体の供与が酪酸菌を活性化する 新しいプレバイオティクスを提唱

東京工科大学

From: Digital PR Platform

2022-09-07 20:05




東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)応用生物学部の佐藤拓己教授は、バクテリア由来の生分解性プラスチックの一種であるポリヒドロキシ酪酸(PHB)(注1)が、酪酸菌優位の腸内細菌叢(注2)を誘導する可能性が高いことを証明しました。腸内細菌にケトン体を与えて酪酸菌を活性化し、腸内環境を改善する新しい「プレバイオティクス」の手法(図1)として期待されます。
本研究は、2022年9月6日に米国のオンライン学術誌「Journal of Biotechnology and Biomedicine」(インパクトファクター5.3)にレビュー論文として掲載されました。




【研究背景】 
 佐藤教授は、2017年頃からPHBを哺乳類にケトン体を供与するものとして注目し研究を続けてきましたが、哺乳類の腸内細菌叢を酪酸菌優位に変えることを発見し、新しいプレバイオティクスとして''ケトバイオティクス(注3)''を提唱するに至りました。哺乳類の消化酵素はPHBのエステル結合を加水分解できないため、PHBはそのまま小腸を通過し大腸に到達します。これを腸内細菌が取り込み、腸内細菌自身の酵素でPHBをケトン体に加水分解します。すなわち腸内細菌はケトン体をエネルギー基質として利用し、特に酪酸菌の増殖が促進されると考えられます。またケトン体は大腸管腔にも放出され、大腸上皮から哺乳類の体内に吸収されます。その結果哺乳類の血液中のケトン体の濃度も一定程度増加します(図2)。

図1.ケトン体のポリエステルであるPHBは腸内細菌の酵素によって加水分解され、 酪酸菌などを活性化する。その結果、酪酸が大腸管腔内に放出される
図2.PHBは大腸内でケトン体を放出させ、腸内細菌のエネルギー基質となる。放出されたケトン体は哺乳類の大腸から吸収され、血中のケトン体濃度を増加させる


【研究内容】
 動物モデルとして生後90日齢の小型のミニブタ(注4)に2%のPHBを混餌で与え、糞便中の酢酸、プロピオン酸、酪酸及び乳酸の濃度を測定したところ、酢酸、プロピオン酸及び酪酸の濃度が有意に増加しました(図3)。またpHは有意に低下しました。このほかラットにおいても、PHBはロゼブリア属などの酪酸菌が有意に増加することが報告されています(文献2)。



図3. 小型のミニブタ(注4)にPHBを混餌で与えたところ、 糞便中の酢酸、プロピオン酸及び酪酸濃度が増加


【社会的・学術的なポイント】
 健康長寿の高齢者の腸内細菌叢の遺伝子解析調査において、酪酸菌が有意に多いことが報告されています(文献1)。またげっ歯類の動物において、酪酸優位な腸内環境が大腸がんを抑制することが報告されています(文献2)。これらおよび本研究成果から、PHBの持続的な投与が、ペットや家畜など動物の理想的な腸内環境の維持に寄与する可能性があります。またPHBは、ヒトの消化管の健康を保つ有効な手段としても応用が期待されます。
 従来のプレバイオティクスは、腸内細菌の栄養として食物繊維などが用いられたのに対し、「ケトバイオティクス」ではケトン体が腸内細菌の直接エネルギー基質として働くため、食物繊維などよりもはるかに効率のいい栄養素として、より短時間で腸内細菌叢を変化させる可能性があります(図5)。また、現在までケトン体の生理学が哺乳類に限られてきたことから、原核生物への明確な生理作用であるという点において、これまでとは一線を画すケトン体研究の新たな地平を開くものであると考えます。さらにケトン供与体の社会実相への第一歩となることが期待されます。



図4. ポリヒドロキシ酪酸(PHB)の化学構造
図5. ケトバイオティクスのエッセンス


【論文情報】
論文名: Ketobiotics by Poly-3-Hydroxybutyrate: A Novel Prebiotic Activation of Butyrate-Producing Bacteria through 3-Hydroxybutyrate Donation to the Microbiota
U R L: (リンク »)

【参考文献】
(文献1)Naito Y, et al, Gut microbiota differences in elderly subjects between rural city Kyotango and urban city Kyoto: an age-gender-matched study. J Clin Biochem Nutr. 2019 Sep;65(2):125-131.
(文献2)Fernandez J, et al, Antitumor bioactivity and gut microbiota modulation of polyhydroxybutyrate (PHB) in a rat animal model for colorectal cancer. Int J Biol Macromol. 2022 Apr 1;203:638-649.



【用語解説】
(注1)ポリヒドロキシ酪酸(PHB): 3-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)のポリエステルであり(図4)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)の一種。発見以来生分解性プラスチックとしての機能が注目されてきましたが、最近では食品への応用も期待されています。ハロモナス属などのバクテリアによって容易に合成でき、高い純度の無味無臭の粉末にすることが可能。
(注2)酪酸菌優位な腸内細菌叢:腸内の理想的な環境は弱酸性であり、弱酸性に保つためには、腸内細菌が酢酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸を産生する必要がある。このうち酪酸を優位に生産するものを酪酸菌と呼ぶ。
(注3)ケトバイオティクス:佐藤拓己教授が提唱する新しいプレプレバイオティクスの呼称。
(注4)ミニブタ(大きさ40Kg程度)をさらに小型化(同20Kg以下)したもので、日本において新しい実験動物として開発された。商標名は「マイクロミニブタ」。

■東京工科大学応用生物学部 佐藤拓己(アンチエイジングフード)研究室
 ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っています。私たちの研究テーマは、活性酸素などに注目してミトコンドリアを活性化させる分子の機能を解き明かすことです。
[研究室ウェブサイトURL]
  (リンク »)



■応用生物学部WEB:
  (リンク »)


【研究に関する問い合わせ先】
 片柳学園 コミュニケーション企画部
 担当:大田
 TEL: 042-637-2109
 E-mail: ohta(at)stf.teu.ac.jp
 ※(at)は@に置き換えてください。

【リリース発信元】 大学プレスセンター (リンク »)
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