東京工科大学 応用生物学部の佐藤 拓己教授は、鳥型のミトコンドリアは、三畳紀後期のカーニアン多雨事象に生まれたことを提唱しました。
東京工科大学(東京都八王子市、学長:香川 豊)応用生物学部の佐藤 拓己教授は、鳥型のミトコンドリア(スーパーミトコンドリア、注1)は、三畳紀後期のカーニアン多雨事象(CPE、注2)に生まれたことを提唱しました。鳥型のミトコンドリアは、ゲノムDNAの急速な短縮に伴って、2億3千万年前に、ヘレラサウルスなどの最古の獣脚類ヘレラサウルスに出現したと想定されます。(図1)。また気嚢システム(注3)は、ガス交換と共に、空冷システムとして機能したと想定されます。本研究は、2026年3月3日に、MDPIの国際科学誌「The Journal of Developmental Biology」オンライン版に掲載されました。
図1. 初期獣脚類はスーパーミトコンドリアを持つ
図1の説明:最古の獣脚類、ヘレラサウルス(注4)は、鳥型のミトコンドリアを装着することによって、極端な低酸素でも運動を持続させることができ、低酸素と高温多湿のCPEの環境の中で、生態学的な覇権を握った(文献1)。
【研究背景】
鳥のミトコンドリアは、活性酸素の消去システムとして働くため、酸素を大量に消費できるのに、活性酸素の発生が少ない(文献1)。鳥のミトコンドリアにおいては、インスリンの抑制がないため、基質を完全酸化することができる。血中のエネルギー基質であるブドウ糖は4倍程度、ケトン体は20倍程度高い。このため強度の高い運動を何時間でも持続させることが可能である(図2)。本研究は、抜群の活性を長時間持続させることができる鳥型のミトコンドリアがいつ出現したのかを学際研究によって明らかにした。
図2. 哺乳類と鳥のミトコンドリアが寿命を決めている
図2の説明:哺乳類のミトコンドリアにおいては、インスリンが常に抑制しているため、基質を完全酸化することができない。補完的に、酸素を使わない解糖も動かす必要がある。哺乳類のミトコンドリアは、活性酸素を産生するシステムとして働くため、活性酸素を大量に浴びることになるから、寿命が短くなる。だから哺乳類は、鳥の寿命の十分の一程度しかない。
【研究成果】
獣脚類は、断続的にゲノムを縮小し、三畳紀の獣脚類では50%、白亜紀の小型獣脚類では40%、現在の鳥では30%程度になった(文献2)。脊椎動物では、ゲノムが小型化すればするほど運動性能が高くなると言われる。ゲノムの縮小が大きく進行したのは、大絶滅が起こった2億5千万年前と、三畳紀のヘレラサウルスが出現する2億3千万年前の間である(図3)。
図3:獣脚類のゲノムDNAの短縮と鳥型ミトコンドリアの出現
図3の説明:三畳紀の中でも、特にCPEの時期に、獣脚類が急拡大した。このとき、ゲノムの縮小、細胞の小型化、トランスポゾンの抑制が互いに促進して、初期獣脚類において、スーパーミトコンドリアを出現させたと想定される。
【社会的・学術的なポイント】
CPEの時期には、獣脚類の足跡が多く残されている(文献3)。獣脚類は、CPEの高温・多湿・低酸素に適応したからである。CPEの過酷な環境の中で、急速にゲノムを小型化して、スーパーミトコンドリアを装着したものと想定される。化石で種として同定できる獣脚類の最古のものが、CPEの直後に現れたヘレラサウルスだ。CPEの後は、獣脚類や竜脚類の生態的な優位が鮮明になった(図4)
図4:初期獣脚類はCPE直後に急拡大した
図4の説明: CPEの200万年の時間で恐竜類と獣弓類の立場が逆転した。全体の5%しかなかった恐竜類は、CPEの後には、90%を占めるに至った。一方、三畳紀中期まで生態学的に優位だった獣弓類の多くは、CPEの過酷な環境に適応できず、多くが絶滅した。
【論文情報】
論文名: Satoh, T. Origins of Avian Hyperactive Mitochondria, Genome Compaction, and Air-Sac Physiology in Early Theropods During the Carnian Pluvial Episode. J. Dev. Biol. 2026, 14, 11. (リンク »)
【参考文献】
(文献1) Satoh T. Bird evolution by insulin resistance. Trends Endocrinol Metab. 2021 Oct;32(10):803-813. doi: 10.1016/j.tem.2021.07.007. Epub 2021 Aug 23. PMID: 34446347.
(文献2) Organ CL, Shedlock AM, Meade A, Pagel M, Edwards SV. Origin of avian genome size and structure in non-avian dinosaurs. Nature. 2007 Mar 8;446(7132):180-4. doi: 10.1038/nature05621. PMID: 17344851.
(文献3)Michael J. Benton, Massimo Bernardi, Cormac Kinsella; The Carnian Pluvial Episode and the origin of dinosaurs. Journal of the Geological Society 2018;; 175 (6): 1019–1026. doi: (リンク »)
【用語解説】
(注1)鳥型のミトコンドリア(スーパーミトコンドリア):鳥と樹脚類のミトコンドリアは低酸素でも酸素消費を高く維持することができ、低酸素でも運動能力を示すひとつの根拠である。
(注2)カーニアン多雨事象(CPE): 三畳紀(2億5千万年前から2億年前の5千万年間)は一般に高温、乾燥、低酸素を特徴とする。しかし2億3千4百万年前から2億3千2百万年前の200万年間、雨が降り続いた(図5)。 (注3)含気骨などに畳み込まれた気嚢は、空気を一方向に流すとともに、空冷システムとしての機能がある。このため獣脚類や鳥は、高温の環境中で運動を持続することができ、熱中症になることは稀である。 (注4)ヘレラサウルスCPEの直後の2億3千万年前に出現した最古の獣脚類。
図5:CPEの後、獣脚類と裸子植物の拡大
■東京工科大学応用生物学部 佐藤拓己(アンチエイジングフード)研究室
ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っています。私たちの研究テーマは、活性酸素などに注目してミトコンドリアを活性化させる分子の機能を解き明かすことです。
[研究室ウェブサイトURL] (リンク »)
【リリース発信元】 大学プレスセンター (リンク »)
お問い合わせにつきましては発表元企業までお願いいたします。
