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海外ベンダー「驚いた、悔しい」--RDB脱却のクラウドERP:ワークス牧野CEO - (page 3)

田中好伸 (編集部)

2015-02-12 18:20

 HUEには、Googleの検索候補のような自動補完、オートコンプリートなどの機能が搭載されている。入力を限りなく快適にするという“インプットレス”では、業務ごとに最適化された独自のIMEを搭載して、キー操作をできる限り少なくしようとしている。

 HUEには、各業務と表計算ソフトを融合した「Enterprise Spreadsheet」を搭載している。表計算ソフトは業務の現場で良く活用されているが、どれが最新版なのか分からなくなるなど非効率な事態を招いているとも指摘されている。Enterprise Spreadsheetは、業務シーンごとにHUEに表計算ソフトを取り込んだり、複数で同時に編集できたりなど、表計算ソフトをより効率的に業務で活用できるようにしている。

 HUEでは、SNSのタイムライン的にエンドユーザーのすべての業務活動を記録する機能も搭載している。ビジネスSNSとしての役割も担うことを狙っている。

RDBから脱却

 HUEは、分散処理を基本とするが、その目的は高速化と利便性の向上だ。検索候補などの機能は、この高速化と利便性によるものだ。そこでワークスはリレーショナルデータベース(RDB)からの脱却を決定した。「RDBから脱却しない限り速くできない」と牧野氏は背景を説明した。

 ERPに限らず、企業ITはこの数年でシステムのボトルネックという壁の前で戸惑っていると言える。CPUやネットワークの速度は向上しているが、ハードディスクの速度がそれに付いていけないという実態だ。そこで、RDBの速度向上策の1つとして活用されているのがすべてのデータをメモリ上に格納するというインメモリデータベース(DB)だ。

 システム全体の速度向上策として活用されるインメモリDBだが、牧野氏は「どんどん大型になってしまう。分散処理には向かない」と見る。インメモリDBは、いわば中央集権的にデータベースを一元管理するところが基本であり、このことはHDDをベースにしたものと何ら変わらない。HUEは、より高速化を図るために、インメモリDBとは別のアプローチとして分散型キーバリューストア(KVS)をベースにしてRDBからの脱却を決意した。

 「3年前からKVSを研究してきた」という牧野氏は、次世代のERPのベースをRDBではなく、KVSを選択した。これに対して、社内の技術陣は不安を感じたという。曰く「RDBを使わないとなるとトランザクション処理をどうするのか」。牧野氏は技術陣と議論を交わす。

 「RDBのメリットは何か」

 「“ACID特性”がある。すべてのデータを一元管理できる」

 「エンドユーザーにとって何が便利なのか。RDBは作っている側にとって便利というだけ。使う側にとって便利か」

 ACID特性とは、トランザクション処理で求められる、“Atomicity(原子性)、Consistency(一貫性)、Isolation(独立性)、Durability(耐久性)”のことだ。

 牧野氏は「RDBは作っている側の論理であって、エンジニアにとって楽なもの。エンジニアはRDBに依存しすぎている。分散型KVSは実際に使う側にとって速度というメリットがある。分散することでスケールできるというメリットもある」として社内の技術陣の説得を続け、分散型KVSの採用を正式なものとした。

 ERPをはじめとする業務システムのデータベースの基本に分散型KVSを選択したというのは、あくまでも実際に業務の現場で入力するエンドユーザーの使いやすさを優先した。この決断は、最近の“ユーザー体験(UX)”を踏まえていると表現できる。

 2007年の「iPhone」登場以降、ITコンシューマライゼーションの波が企業ITに寄せるようになっている。その中の1つが、使いにくいシステムをより使いやすくというUX重視の流れだ。

 UX重視では、既存システムのユーザーインターフェース(UI)のデザインをどうするかということに議論が流れる。これは当然の成り行きだが、HUEでの決断は、UX重視のために基本アーキテクチャのデータベースそのものを変えたと言い表すことができる。牧野氏は個人ITと企業ITを比較してこう語る。

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