松岡功の一言もの申す

SAPの新ERPが示唆する「SaaS時代の到来」

松岡功

2015-02-10 12:30

 SAPが主力のERPを中心とした業務アプリケーション群の新製品をSaaS形式で提供すると発表した。この動きは今後のクラウドサービス市場に大きな影響を与えそうだ。

SAPが「HANA」と一体化した新ERPを発表

 SAPジャパンが2月6日に発表した新製品は「SAP Business Suite 4 SAP HANA(以下、S/4HANA)」。主力のERPを中心とした業務アプリケーション群で、従来の「SAP Business Suite」やERPパッケージ「SAP ERP」「SAP R/3」の後継となる製品だ。ERPとしては23年ぶりに刷新したもので、独SAPが米国時間2月3日に米国で大々的に発表した。


(左から)独SAPエグゼクティブボードメンバーのRobert Enslin氏、SAPジャパン社長の福田譲氏、
独SAPエグゼクティブバイスプレジデントのWieland Schreiner氏、
同シニアバイスプレジデント&ゼネラルマネージャーのMarkus Schwarz氏

 日本での発表会見では、来日した独SAPエグゼクティブボードメンバーのRobert Enslin氏が「S/4HANAは従来製品の単なるアップグレード版ではない。エンタープライズアプリケーションの新たな未来を開くものである」と強調した。

 SAPジャパン社長の福田譲氏も「S/4HANAはOLTP(オンライントランザクション処理)とOLAP(オンライン分析処理)を融合するとともにモバイルなどにも対応し、完全なリアルタイム処理を追求した次世代のビジネススイートだ」と力を込めた。

 新製品の詳細な内容は関連記事を参照いただくとして、注目されるのは、SAPが提供するインメモリデータベース「HANA」と一体化を図っていることと、オンプレミスよりも先にまずSaaSとして提供されることだ。

 データベースについては、従来製品ではOracleやMicrosoftなどの他社製データベースも利用できたが、新製品ではHANAのみを適用。HANAの特性を生かしてアプリケーションとの最適化を図ることによって、ビッグデータやモバイル、クラウドに対応した「新生ビジネススイート」に仕立て上げた形だ。

 また、オンプレミスより先にSaaS形式で提供するのは、SAPがこのところ注力している「クラウドファースト」の姿勢を主力製品で鮮明に打ち出した格好だ。

今後増加しそうな「PaaSを内包したSaaS」

 これまでERP市場をリードしてきたSAPの新たな製品戦略は、今後のクラウドサービス市場に大きな影響を与えそうだ。というのは、アプリケーションとデータベースを一体化させたS/4HANAは、クラウドサービスでいえば「PaaSを内包したSaaS」と見て取れるからだ。今後はこうした形のSaaSが増えていくかもしれない。

 パブリッククラウドサービスが今後着実に普及していくことを前提に考えると、ユーザー企業から見れば、さまざまな業務に対応したハイコストパフォーマンスで使いやすいSaaSを適用できれば、それで事足りる。もし、そのSaaSに連携させたいアプリケーションを作りたければ、そのSaaSの基盤となっているPaaSを利用すればよい。その際、IaaSは何でも構わない。

 この考え方は以前からあったが、SAPの新たな製品戦略は改めてその方向を示唆しているのではないだろうか。

 ただ、見方を変えれば、SAPの新たな製品戦略は、垂直統合型モデルでベンダーロックインの形になる。しかし、今回SAPが投入したS/4HANAを見ると、他社製データベースを除外したというよりも、アプリケーションとデータベースを一体化することによって、より革新的な製品を提供したいという意図が強く感じられた。

 ましてや、それをSaaS形式で提供するとなると、垂直統合型モデルにならざるを得ない。ベンダーロックインの懸念については、ユーザー企業から見れば、SaaS側に預けたデータをいつでも移行できるようにあらかじめベンダーと契約しておくのが望ましい。

 これまでパブリッククラウドサービスをめぐる論議は、IaaSが中心だった。だが、これからはPaaSやSaaSが注目されるようになると見る向きが多い。中でもユーザー企業の業務遂行という観点からすれば、サービスのメインになるのはSaaSである。今回のSAPの発表は、そんな「SaaS時代の到来」を予感させるものだった。

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