現場に使いやすいものを
ERPパッケージは使いたいユーザー企業にとってはもはや当たり前のものになり、新規に導入する企業はかつてほどは多くない。ERPパッケージ市場は成熟しつつある。
そうした市場動向をとらえて、ERPパッケージベンダーは、ERPパッケージを中心に据えつつも、企業として成長するため、同じ基幹系のサプライチェーン管理システム(SCM)、あるいはERPに蓄積されるデータを分析するためのビジネスインテリジェンス(BI)やデータウェアハウス(DWH)に戦線を拡大することがよく見られる。
ワークスでも、SCMパッケージを提供しているが、BI/DWH領域に拡大することはなかった。新たにHUEを提供することを決めている。この決定の背景には何があったのだろうか? 牧野氏は3~4年前にコンサルタントの友人などの会話からある疑問を抱くようになった。
「企業の業務で使うエンタープライズアプリケーションはほとんど進化していないのではないか。25年前に流行していたのは在庫や受注のリアルタイム処理だったが、それから数年内にできあがった。ホストからミニコン、UNIX、オープン系とIT環境は変わったが、エンタープライズアプリケーションそのものはあまり進化していないのではないか」
ここで牧野氏は、ERPなどの業務アプリケーションのユーザーには2種類がいると解説する。システムを変えることで業務を改善したいというIT部門や経営企画部門、導入プロジェクトのマネージャーなどの上位層と、実際にシステムへの入力を業務とするエンドユーザー層だ。
「ERPは、業務を改善したいという上位層が満足している。でも、実際にシステムをオペレーションする側にとっては(ERPを)入れ替える度に覚えなきゃいけないことが多くある。例えば、CLIがGUIに変わったとなると“使い方をまた覚えないといけない”。これは物凄く大変なこと。何かおかしいのではないか」
ERPのエンドユーザーは「楽しく使っていない」。牧野氏にはそう思えた。
企業ITはほとんど進化していないと思える牧野氏に、個人ITの領域は急激な進化を遂げているように見えた。「最初のブレークスルーはGoogleだと思いますが、パーソナルユースのITはとにかく便利。スマートフォンの地図アプリは歩きながら、次の行動を取れる。実際に使う人にとって便利なものだから」
企業ITと個人ITを比較する牧野氏は「なぜエンタープライズアプリケーションは進化できないのか」という思いから「現場の方が使いたいと思えるものを開発したい」としてHUEの開発を決断している。
そして2011年にワークスは経営陣による株式買収(MBO)で上場を廃止した。ワークスの上場廃止については、2008年のリーマンショック後のIT投資抑制から成長力が鈍化しており、上場維持コストが負担とみられている。だが、牧野氏は、上場廃止について「(HUEを開発して)Googleのように(使って)喜ばれたい。上場している以上、赤字を出すことは許されない」と言及した。
IaaS/PaaS+パッケージ
ERPをクラウド上で利用するといったことは珍しくはない。ワークスでも2012年からIaaS/PaaS「Amazon Web Services(AWS)」でCOMPANYを利用するというサービスを展開している。ユーザー企業の要望を受けての対応だ。
パブリッククラウドで利用できるようにするのは、コストメリットがあるからだが、使い方によっては高くなるケースもあり得る。パブリッククラウドにパッケージを置いてSaaSとして利用することについて、牧野氏は「劇的な改善ではない」と感じた。より劇的な改善を求めた牧野氏は、新しいERPであるHUEではクラウドでの分散処理を基本的なアーキテクチャにすることを決断している。
2015年内に提供を予定しているHUEは、2014年10月に発表された。HUEでの重要テーマの1つが、入力を限りなく快適にすることだ。システムの出力と処理はすでに自動化されているが、入力という業務は今でも手作業だ。HUEはこれを改善しようとしている。