システムの設計・開発、運用管理の良否は、顧客・従業者が利用するアプリケーションの性能によって大きく左右される。その性能が悪ければ、IT組織のみならず、ビジネスに大きな負の影響が及ぶことは避けられない。だからこそ、欧米企業はアプリケーションパフォーマンス管理(APM)に力を注ぎ、問題発生の回避と早期解決の能力を高めている。そんな欧米APM市場にあって、急速に台頭する新興企業がAPPDYNAMICS社だ。世界を代表する製造企業やネット企業、金融機関が同社の製品「AppDynamics」を採用しているという。果たして、その理由はどこにあるのか──。謎を解明する。
ナスダックも、アウディも、セールスフォースも
AppDynamics Japan合同会社
カントリーマネージャー
内田 雅彦氏
APPDYNAMICS社は、2008年設立の新興企業である。「アプリケーションインテリジェンス」という新領域の開拓を目指し、Jyoti Bansal 氏が米国サン・フランシスコで創設した。「その創設以来、文字どおりの倍々ゲームで売上げを伸長させ、製品(AppDynamics)の顧客数もすでに世界100カ国2,000社超に達しています」と、AppDynamics Japan合同会社 カントリーマネージャーの内田雅彦氏は言う。
そうしたAppDynamicsの顧客企業は、金融・証券、製造、メディア、ゲーム・エンターテインメント、小売り・通信・情報サービスなど、多業界・多業種にわたっており、その中には、ナスダック、シスコ、アウディ、ボーイング、ウォルマート、ボーダフォン、T-Systems、Yahoo!、eBay、さらにはセールスフォース・ドットコムなど、各業界を代表する企業が名を連ねている(下図参照)。
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従来アプローチの限界
AppDynamicsの売上げ急伸の背景には、企業IT環境の「爆発的な複雑化」があると、内田氏は指摘する。
旧来、企業のアプリケーションは組織内の業務効率化に主眼が置かれ、あらかじめ規定されたIT基盤・ネットワーク上でのみ動作していた。ところが近年、多くの企業が、顧客・取引先との接点強化・関係強化を目的にした「System of Engagement(SoE)」の開発に注力し始めている。それに伴い、アプリケーション基盤の多層化が進み、それに仮想化が拍車をかける格好となっている。さらに今日では、オンプレミスとクラウドのさまざまなリソース/サービスを複雑に連携させながら、Webクライアントやスマートデバイス(モバイルデバイス)用のアプリケーションを提供するケースも増えている。これにより、アプリケーションの性能上のボトルネックがどこにあるかがますますつかみにくくなっている。
その一方で、SoEの展開を図る企業には、「アプリケーションのエンドユーザー体験(ユーザーから見たアプリケーション性能)」を常時モニタリングし、性能を適切に保つことが求められている。理由は単純で、そもそも性能が悪くユーザーの不満を誘発するようなアプリケーションは"SoE"としての役割を果たせず、顧客・取引先との関係強化どころか、顧客離れやブランドイメージの低下を招く元凶となりかねないからだ。
「事実、スマートデバイス・ユーザーの9割近くが、性能の悪いアプリを一度使っただけで削除した経験があり、Webユーザーの7割強が5秒以内に画面が現れなければ、そのサイトから離脱するという調査データもあります。また、性能の悪いスマホアプリは、ソーシャルメディアで非難の的にされ、提供企業のブランドイメージが傷つけられるケースも少なくないのです」と、内田氏は指摘する。
また同様に、アプリケーションの性能問題が生じた際に即座に解決を図ることができなければ、顧客離れや顧客満足度の低下、ひいてはブランドイメージの失墜につながるおそれが強い。ところが、従来型のシステム管理・管理のアプローチでは、今日のように複雑化したIT環境下でアプリケーションの性能を適切にモニタリングし、トラブルの原因を即座に突き止めることは至難であると、内田氏は指摘する。例えば、顧客の手元にあるスマート・デバイスで企業が提供したアプリケーションがクラッシュしたとしても、アプリの提供企業側にそれを知る術はない。
「従前のアプローチは、サーバ、データベース、ネットワーク、Webなどを個別にモニタリングするタイプのものです。このようなアプローチでは、今のIT環境下でボトルネックを即座に突き止めるのは困難ですし、問題の究明までにかなりの手間と時間がかかります。しかも、従来のAPM製品では、オンプレミスとクラウドの双方を俯瞰的にとらえ、性能問題の根本原因を可視化することもできません。そのため、何かしらの性能問題が発生し、解決に向けて各システムの運用担当者やアプリケーション開発の担当者が集まっても、なかなか原因が究明できず、結局、責任のなすり付け合いに終始し、ビジネス的にまったく無意味な時間だけが過ぎていくことになるわけです。これでは、真のSoEは実現されませんし、開発サイドと運用サイドの隔絶を排してDevOpsを実現するのも無理な話と言わざるをえないのです」
可視化・分析の知性をふわりとかぶせる
AppDynamicsは、こうした問題を一挙に解決するための仕組みだ。実際、前出のナスダックでは、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境を通じて、顧客向けのアプリケーション/サービスをさまざまに展開しているが、アプリケーション構造の複雑化により、障害発生時におけるシステムの全体像の把握が困難を極めていた。その問題解決のために、ナスダックはAppDynamicsの採用に踏み切り、また、DevOpsを推進するためのツールとしても同製品に期待をかけているという。
「AppDynamicsの効果は、アプリケーションの性能監視・管理の効率化だけにとどまりません。多くのお客様が、AppDynamicsによって開発と運用の協業を促し、売上げの向上や顧客満足度の向上という実利を手にしているのです。しかも、このソフトウェアには、APM製品にありがちな導入・実装の難しさもありません。あたかも、問題を可視化するインテリジェントな"透過シート"を、既存のIT環境にふわりとかぶせるような感覚で、導入・活用が図れるのです」と、内田氏は付け加える。