デスクトップ仮想化(VDI※)が、にわかに注目を集めだした。PCやスマートフォン、タブレットなどマルチデバイスを使った働き方が広がるなか、セキュリティリスクの軽減や管理性の向上、震災時のディザスタリカバリなどを目的として、仮想化したデスクトップをサーバで集中管理する仕組みが再評価されているのだ。また、2014年4月にWindows® XPのサポート切れが迫るなか、新たに導入するクライアント環境の1つとしても急浮上してきた。では、VDIのメリット、課題、導入のポイントは何なのか。
ストレスなく利用できる、今どきの「デスクトップ仮想化」はスゴい!
宮原氏: 最近のVDIを語るうえで欠かせないのがネットワーク速度の向上です。シンクライアントやリモートデスクトップといった仕組みは昔からありますが、通信速度が課題でした。今は、LTE※やWiMAXなどを使ってローカルPCと変わらない操作感が得られます。こうした環境整備が進んだという点は、これまでのシンクライアントなどとの大きな違いですね。
※LTE:Long Term Evolution
板橋氏: おっしゃるとおりです。たとえば、2004年頃ですと1Mbpsも出ないなかで顧客先でシンクライアントのデモを行っていました。どうしても描画が遅れるので、そのタイミングを見計らって、会話を挟んだりとプレゼンにも一工夫必要でした(笑)。
宮原氏: 今はパッと見ただけではローカルPCなのかシンクライアントなのかわからないほどですよね。メモリーやストレージも大容量化、高性能化が進みました。1台の物理サーバで200台程度の仮想マシンを稼働させても、それほどストレスを感じません。
板橋氏: そうですね。データセンター側で仮想化技術などがひろがったことで、ユーザーの要望にあわせた環境を提供できるようになった点は大きいと思います。そのユーザーとして国内最大規模の事例が、実は日立なんですよ。約10年前から自社ソリューションの導入をグループで進めていて、いま使っているのは8万人。今後も、グループ約33万人に対して適用範囲を拡大して行く計画です。
宮原氏: ベンダーであり、国内最大のユーザーであると。
VDIは「攻めのIT」を支える基盤に
宮原氏: VDIに対するニーズも変化しましたよね。かつてのシンクライアントはどちらかというと、セキュリティを確保したい、社内オペレーションを簡素化したいといった"守り"の観点に立ったものでした。ところが今は、営業に機動力を持たせたい、ワークスタイルを変革したいといった"攻め"のニーズが多いと感じます。具体的には「タブレットからPCのアプリケーションを使いたいがどうすればいいか」「VDIを使ってBYOD※の仕組みが実現できないか」といった相談です。そのあたりはどうでしょうか。
※Bring Your Own Device:私物デバイスの業務利用
板橋氏: スマートフォンやタブレットの利用が広がったことで、それらを経営の武器にしようという動きは進んでいると思います。タブレットから売上レポートなどをすぐに確認できるとかなり便利になります。また、業務の用途によって使うデバイスを選択して利用しています。編集作業はPCで、簡単な確認作業はタブレットでと使い分けることで、より効率的な業務が可能です。もろちん、ローカルPCにデータを保存しないようにすることで、情報漏えいのリスクを減らしたいといったニーズも変わらず存在します。
宮原氏: なるほど。昨今はWindows® XPのサポート終了も大きなトピックになっていますよね。VDI上で一部アプリケーションを延命できるのではないかとの期待もありますが、いかがでしょう。
板橋氏: 確かに、そのようなニーズはよく聞きます。Internet Explorer® 6向けに作成された業務アプリケーション群をどうするか調べたところ、検証と手直しで数億円かかる!などといったケースは少なくありません。そうした環境向けに、必要なモジュールの動作だけを許可することで、セキュリティーリスクを最小化しつつWindows® XP向け業務アプリケーションを延命できるようにするソリューションも開発しています。
宮原氏: 日立さんの自社導入は、そもそもどういう経緯だったのでしょうか。
板橋氏: きっかけは情報漏えいの防止でした。弊社の事業は多岐にわたりますが、それぞれの社員が顧客企業の機微な情報を扱っています。当時は、ノートPCにデータを入れて持ち歩いていたのですが、万一それらを紛失するとたいへんなことになる。そこで「事故は起きるかもしれない」から「事故は必ず起こる」という発想で、2004年から経営トップ主導で業務情報を保持しない「シンクライアント」と、業務アプリケーションを安全に利用する「セキュアクライアントソリューション」を社内用に開発するプロジェクトを発足しました。
また、2006年頃からは「ワークスタイル変革」をテーマに、営業を中心にさらにユーザーを拡大し、座席のフリーアドレス化やWi-Fi導入などと並行して、どこにいても仕事ができるような取り組みを進めていきました。
宮原氏: 利用シーンは?
板橋氏: 社員それぞれの業務内容にあわせ、適切な環境が支給されています。私は、「シンクライアント」とタブレットを利用しています。ネットワークにつながる環境があれば「いつでも」「どこでも」自分のデスクトップ環境を利用することができます。海外出張など長期間オフィスに戻らない時期でも、承認作業などを停滞させることなく業務を推進できる点はとても便利ですね。