フリービットは2016年、レッドハットのOpenStackディストリビューション「Red Hat OpenStack Platform」を活用しプライベートクラウド基盤を構築した。OpenStackの採用でフリービットのインフラにどのような変革がもたらされたのか。またその変革にレッドハットのサービスはどう生かされたのか。OpenStackの導入を指揮したYourNet事業部 副事業部長の井口幸一氏に話を聞いた。今後、複数回にわたってその詳細をお届けする。
サービス開発に専念できるインフラ作りを目指して
インターネット事業者のビジネス支援を目的に2000年に設立されたフリービット──。現在、同社の事業領域は全国約300のISPやマンションに対して高速インターネットのバックボーンを提供するブロードバンド事業をはじめ、MVNE(仮想移動体通信サービス提供者)としてMVNO(仮想移動体通信事業者)を支援するモバイル事業、IaaSやSaaS、VPNなどを展開するクラウド事業、さらには、マーケティング支援のためのアドテクノロジー事業などと多岐に及んでいる。
そんな同社は2016年、ブロードバンド事業やモバイル事業で利用するインフラをOpenStackによるプライベートクラウド環境に移行させ、インフラ構築・運用のあり方を「Infrastructure as Code」へと切り替える取り組み──つまりは、プログラミング(コード)によってインフラの構築・運用を自動化する取り組みを始動させた。
このインフラ刷新の背景にあったのは、ハードウェアの老朽化と運用負荷の増大だ。さまざまな領域で新しいサービスを展開する中でシステムが複雑化、それらの老朽化が進行したことで、運用管理に時間と手間がかかるようになっていた。
「そうした運用管理の負荷を下げながら、我々の本来業務であるサービス開発に専念できる環境をどう構築するか──。それが最大のテーマでした」と、インフラ刷新のプロジェクトを指揮したYourNet事業部 副事業部長の井口幸一氏は振り返る。
このテーマに沿って井口氏らは、2015年8月から複数の選択肢を模索する。
井口 幸一氏
フリービット株式会社
YourNet事業部 副事業部長
「刷新の大きな方向性として決めていたのは、物理環境を仮想化環境へ移行させるという一点のみで、あとは白紙の状態でした。ですから、商用か、オープンソースソフトウェア(OSS)かにかかわらず、ハイパーバイザーやクラウド(仮想化環境)のオーケストレーションツール(※1)などをさまざまに検討したのです」(井口氏)。
この検討のすえに同社が行き着いたのが、レッドハットのOpenStackディストリビューション「Red Hat OpenStack Platform」(以下、RHOSP)の採用であったという。
※1:クラウド(仮想化環境)上のリソース配置/システム構成を定義し、システムの構築・運用を自動化するためのツール
採用の決め手はベンダーのサポートにあり
RHOSPの採用を決める以前、井口氏らが比較検討の土俵に乗せていた技術には、VMware(「VMware vSphere」)やKVM、さらには「CloudStack」などが含まれている。
このうちVMwareは、他事業部のインフラでも活用されており、当初は最も有力な候補であったという。それでもVMwareの採用を避けた理由について、井口氏はこう話す。
「VMwareは、きわめて高いレベルの可用性を担保しなければならないインフラの運用には向いています。ただ、我々のインフラ上で動くサービスは、主にDNSやWebサーバ、メールサーバなど高可用化が容易でインフラ自体の可用性は重要視されないものです。したがって、必ずしもVMwareのHA(ハイアベイラビリティ)機能は必要とされませんし、『vCenter』の管理機能も含め、VMwareの機能は我々にとって価格と機能のバランスとして"トゥーマッチ"だったのです」
こうした判断から、VMwareに代わる候補としてKVMが浮上したが、運用管理負荷の軽減という目的を果たすうえでは、KVMと併せてオーケストレーションツールの導入が必要との考えに至った。そこで、CloudStackとOpenStackの比較検討に着手、結果として、OpenStack採用の意志を固めた。理由は、「OpenStackのほうが、日本でのディストリビューターの数やサポートの充実度が上だった」(井口氏)からだ。そして井口氏らは、約半年をかけてOpenStackディストリビューターの選定を行い、「マルチベンダのハードウェア環境に対し高い互換性を有し、かつインフラの提案・構築から運用までの一貫したサポートが受けられる」との理由から、レッドハットを選択したという。
「我々の目的はOpenStackを使うことでも、OpenStackのエキスパートになることでもなく、あくまでも運用管理の負荷軽減です。ですから、OpenStackという新技術の導入に際しては、ディストリビューターから品質の高いサポートが受けられるかどうかがとても重要でした。具体的には、OpenStackに何か障害が起きた際に、こちらで問題の簡単な切り分けを行うだけで、あとのすべてを任せられるようなサービスをディストリビューターに求めたのです。その要求にこたえられるのがレッドハットだったということです」(井口氏)。