M&A(買収・合併)では、優秀な人材の引き留め(リテンション)がうまくいくかどうかが、M&A全体の成功を左右すると考えられている。世界最大級の人事・組織コンサルティング会社マーサー(本社ニューヨーク)の「M&A リテンション/トランザクション・プログラム調査」では、長期的な成功のために重要とされる経営者の70% がリテンション・プログラムの対象であり、統合作業に不可欠な中核社員の場合は53%が対象との結果が得られている。
海外企業を対象とするクロスボーダーM&Aの場合では、リテンション・プログラムの採用率はさらに高まり、経営者では80%、中核社員では 60%であった。
マーサーは、リテンション・プログラムとトランザクション・ボーナス・プログラムがどの程度広く活用されているか調査した。リテンション・プログラムは、ディール中やディール終了後に社員を引き留める施策として広く受け入れられている。これに対し、トランザクション・ボーナスは、ディール中にディールの完遂を動機付けるためのものであるが、それほど頻繁には実施されていない。
「買い手はまず自社の買収戦略を見て、対象会社の優秀な社員が退職しないよう、リテンション・プログラムが必要かどうかを決めなければいけません。必要と判断された場合にはさらに、対象者、付与額、支払のタイミングや構成、業績の状況、そして全体コストなどの検討が必要となります」とマーサーM&Aアジア中東地域代表のエイク・アヤウォングスは述べている。
マーサーの「M&A リテンション・トランザクション・プログラム調査」では、M&Aに積極的に携わる全世界42の企業から得られた情報を分析した。これらの企業において過去3年間に完了した70以上のディールに関し、リテンション・プログラムとトランザクション・ボーナス・プログラムを詳細に調査している。
リテンション・プログラム
リテンション・プログラムは、統合プロセスに不可欠である経営者やシニア・マネジメントの引き留めに用いられる。調査の結果、過去3年間に完了したディールのほぼ3分の2 (62%) でリテンション・プログラムが採用された。デューデリジェンスのプロセスの早い段階でリテンション・プログラムが必要かどうかを判断し、その後ディールのクロージングが近づいた時に対象者を決定するのが一般的である。
リテンション・プログラムは、ディールのタイプによって使い分けられる。例えば、売却側よりも買収側のほうが、より頻繁にリテンション・プログラムを提供している。買い手企業の半分以上 (57%) が、長期的成功のために重要な経営者を常にリテンション・プログラムの対象とする、と回答している一方、売り手企業の場合は、これらの経営者を常に対象とすると回答したのは 44%であった。
国ごとの差異も明らかになった。基本給に対する割合でみると、米国とカナダの企業はヨーロッパやアジア・パシフィックの企業に比べてより多額のリテンション・プログラムを提供している。(表1参照)
「どんな状況にも合うようにリテンション・プログラムを設計するのは、無理と言うものです」と アヤウォングスは語る。「一般に共通する原則もありますが、リテンション・プログラムの設計はディールの規模や複雑さ、ディールのタイプ、業界やクロスボーダーM&Aであるか否か等により変わってきます。戦略的にリテンション・プログラムを活用しようと思ったら、市場ベンチマークをきちんと行い、さらに自分達の独自のニーズを分析することが重要です。」
トランザクション・ボーナス・プログラム
トランザクション・ボーナスの対象は、一般的にCEO、その他の経営者やディールチームのメンバーである。マーサーの調査では、CEOがトランザクション・ボーナスの対象となったディールは全体の31%、CEO以外の経営者の 場合は42%、ディールチームのメンバーの場合は33%であった。
また、ヨーロッパやアジア・パシフィックの企業では、米国やカナダの企業よりもCEO等の経営者にトランザクション・ボーナスを付与することが多い。また、ヨーロッパの企業はディールのチームメンバーにトランザクション・ボーナスを付与するが、アジア・パシフィックではそのようなケースは見られなかった。(表2参照)
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