芝浦工業大学(東京都江東区/学長 村上雅人)工学部 情報工学科の米村俊一教授が、小説執筆時に何から書き始めてよいかわからない初心者でも容易にあらすじを作ることができる小説創作支援ソフトを開発した。研究では、認知心理学の手法とプロの小説家の助言をもとに、文章構造や語彙を可視化。書き手が各文節の例文を選択して組み合わせるだけで、あらすじの創作が可能となるシステムを構築した。
現在も改良中で、ソフトの公開は未定であるものの、今後はスマートフォンやタブレット端末などで簡単に操作ができるソフトを開発し、小説本体の執筆までサポートすることを目指す。
■新システムの主要機能
●文節単位で表現を例示(アイデア出しを支援)
小説の中でよく用いられる表現を「例文」として表示。書き手が例文を選んでいくことで文章を組み立てられるように支援する。
●「あらすじの文型」を表示(アイデアの洗練を支援)
あらすじを13行の“ログライン(=物語上の重要なシーンを端的に説明する短い1文)”で構成し、それぞれの文節を表示することで、アイデアの洗練を支援する。
●「章構成」を表示(ストーリー全体の質を高める支援)
起承転結を色分けして明示し、ストーリーの型作りを支援。小説の章立てと編集結果が常に反映表示されるため、あらすじ全体のバランスを俯瞰しながら創作することを可能にする。
[添付画像1:新システムの操作画面と概要]
■経緯
これまで作家の構成力や想像力に委ねられていた「物語の作成手法」を形式化することが近年、小説の創作現場において試みられている。また、インターネットの普及により、簡単に投稿が出来るようになったことで、初心者が小説を書き始める機会が増えてきた。その一方で、小説の創作を支援するシステムは存在しなかった。
このため、米村教授は2014年に認知心理学で用いられる手法を用いて、プロの作家の思考パターンを抽出することで、小説家の執筆支援をシステム化。書き手がソフトのガイドに沿ってアイデアを記入していくことで、頭の中にある断片的な思考をつなぎ、一つのあらすじにまとめることができるソフトを開発した。
しかし、先行開発したソフトには、創作経験やアイデアが豊富なプロにはたやすく使えても、語彙や経験が乏しい初心者には難しいという課題があった。そこで、この課題を解決するため、「創造的活動の認知モデル(Geneplore Model)」に基づいて以上3つの主要機能を備えたシステムを新たに構築した。
■従来のシステムの概要
先行研究では、プロの作家の思考パターンを抽出することで、小説家が創作を行う過程における「いつ」「何を」「どのように考える」といった認知プロセスを解明。この結果に基づいて、あらすじ作成プロセスをモデル化し、創作支援ソフトの開発につなげた。
従来のソフトは、これまで作家が頭の中で行っていた「創作の手順」をソフトがナビゲーションするものだった。各項目は自由記述方式で、書き手が、物語が動く「きっかけ」や「試練」など11項目の質問に答えていくことであらすじが作られ、主人公の性格など30項目に回答することでキャラクターも設定される。
しかし、小説の文型やアイデアが頭の中にあれば書けるが、書きすぎてまとまらないこともあった。また、それらが少ない初心者は書き出しからつまずいてしまい、時間がかかるという課題があった。
[添付画像2:従来システムの画面と概要]
■従来手法との比較実験結果
被験者(学生10名)に「従来手法」および「提案手法」の2つのシステムを用いてあらすじを創作してもらい、実験終了後のアンケートと所要時間の計測により、初心者の使用において以下3つの目標を達成できたかを評価した。
【達成目標】
(1)あらすじをつまずかないで書ける
(2)効率的に創作を進めることができる(所要時間比較)
(3)出来上がったあらすじに満足ができる
[添付画像3:従来手法との比較実験結果(グラフ)]
【被験者の感想】(抜粋)
・あらすじ全体の流れが分かり易かったため物語の山場といった起伏のある物語らしい文章を書くことができた。
・従来手法だと入力に制限がないため、必要以上のアイデアを書き込んでしまい、物語としてまとめることができなかったが、ログラインの文型に当てはめるという制限があったことで、アイデアをまとめられた。
【総括】
アンケート評価と所要時間から、提案手法を使用した方が半分以下の時間でつまずかずに創作を行うことができることが明らかになった。その上、あらすじの出来映えの満足度は両手法でほぼ変わらないという結果が出た。
▼本件に関する問い合わせ先
芝浦工業大学 経営企画部企画広報課 担当:長井
TEL: 03-5859-7070
E-mail: koho@ow.shibaura-it.ac.jp
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