“顧みられない熱帯病”マイセトーマ(Mycetoma:菌腫)の 臨床試験がスーダンのハルツーム大学菌腫研究センターで開始―2017年5月9日、臨床試験の最初の対象患者の登録が行われました―

特定非営利活動法人DNDi Japan

From: Digital PR Platform

2017-05-29 12:20


約1年前の2016年5月28日、WHOにより「顧みられない熱帯病(NTDs)」の公式リストに、18番目として新たに加わったマイセトーマ(Mycetoma:菌腫)の中でも、特にアンメット・メディカル・ニーズの高い真菌性菌腫(eumycetoma)に対する新規治療薬として、日本の製薬企業 エーザイ(株)が創製した抗真菌剤ホスラブコナゾールによる臨床試験が、世界で唯一のマイセトーマ専門研究機関であるスーダンのハルツーム大学菌腫研究センター(Mycetoma Research Centre-MRC)で開始され、5月9日最初の対象患者の登録が行われました。

安価で安全で有効な医薬品による治療のためには、正しい診断、臨床試験による安価で安全で有効な医薬品の検証が緊急に必要とされており、スーダンのMRCにおける、エーザイとDNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)の共同開発による、臨床試験の結果に大きな期待が寄せられています。

【マイセトーマ治療の現状と問題点】

真菌性菌腫を含むマイセトーマに関する伝播、有病率、感染経路、および感受性などについての情報は世界的に著しく不足しており、いまだ充分な調査や研究が行われていないのが現状です。

病気の原因となる微生物には2つのグループがあります。アクチノマイセトーマ(actinomycetoma)-糸状菌である放線菌によって引き起こされる型-は、抗生物質(アミカシンamikacinとコトリモキサゾールco-trimoxazole)が奏効し、治癒率は90%です。しかし、真菌性菌腫(eumycetoma)-真菌型-は慢性皮膚感染症に進行し、治療しなければ周囲の組織や骨に侵入します。

早期治療は有効である可能性が高いのですが、患者さんは僻地の農村など診療所から遠く離れたところに住んでおり、病気が進行してから受診する傾向にあり、その頃には抗真菌治療が有効なのは25~35%に過ぎません。治療後ほとんどの場合は残存する腫瘤の外科的除去が行われ、再発の可能性が高く、多くの場合は複数回の切断手術、最終的には四肢全体の喪失につながり、合併症と死亡のリスクを伴います。

現在使用されている抗真菌剤はケトコナゾール(ketoconazole)とイトラコナゾール(itraconazole)ですが、これらには重篤な副作用があります。肝毒性に関する懸念のため、FDAとEMAはケトコナゾールの使用を制限しています。治療期間(12ヶ月)と治療費の両方が、流行地域の患者さんと保健当局にとって治療アクセスの大きな障壁となっており、その結果として治療の脱落率が高くなっています。また12カ月の投与で患者さんの約30%しか治癒しないといった課題があり、僻地の農村などで使用するための有効で安全、かつ手頃な価格の根治治療法が切望されています。

【抗真菌剤ホスラブコナゾールによる臨床試験】

日本の製薬企業 エーザイが創製した新規アゾール系抗真菌剤ホスラブコナゾールは非臨床試験において真菌性菌腫に対する強い抗真菌作用を示すことが確認されています。DNDiはシャーガス病治療薬としてのホスラブコナゾールの治療を経験した後に、マイセトーマ治療におけるこの薬剤の有効性を試験する機会を認識し、このたび、スーダンのMRC、エーザイと共同で臨床試験の開始に至りました。

 臨床試験は、スーダンにおける手術を要する真菌性菌腫患者を対象とした第II相無作為化二重盲検比較臨床試験で、ホスラブコナゾールと既存薬(イトラコナゾール)とを比較した有用性の実証と優越性の検証がおこなわれます。結果のまとめは、2019年第3四半期頃に予定されています。

DNDiはホスラブコナゾールの真菌性菌腫の患者を対象とした臨床開発を主導し、その有効性および安全性を検証しますが、エーザイはDNDiに対し、本剤に関する科学的専門知識ならびに治験用製剤を提供します。また、エーザイはDNDiの事業化パートナーとして、本剤の製造、承認申請・登録、および公的機関を通じた蔓延地域における適正価格での提供に関するオプション権を有しています。

今日、MRCはマイセトーマの治療・研究における世界的なリーダーとして、また信頼できる情報源として国際的に認識されており、WHO協力センターに指定されています。MRCの創立所長であり、マイセトーマ治療の第一人者である、ハルツーム大学の外科の教授アーメド ファハル(Ahmed Fahal)医師は、長年マイセトーマのWHOの「顧みられない熱帯病(NTDs)」公式リスト入りを呼びかけてきました。当初、プロジェクト資金を捻出するために、自らの個人的ネットワークを駆使して、ゼロからMRCの創立を実現させました。ファハル教授は、「5月9日はマイセトーマの患者さんにとって、特別な日となりました。ソバ大学病院の臨床試験ユニットに、最初の臨床試験の対象患者さんの登録が行われたことに、全チームが喜んでいます。可能な限り最も高い質を追求した手順にのっとって、全ての手はずが整ったことをたいへん嬉しく思います。患者さんの流れが滞ることなく続くことを望みます。過去10年間に渡り、私たちはこの日が来ることを待ち望み、現実となったことに大きな喜びを感じます」と述べました。

以上

注1:マイセトーマは、破壊的で進行の遅いバクテリアないしは真菌に感染する疾患、すなわち皮膚組織の慢性感染症で、治療を施さないと最終的に切断手術となります。主な症状は手足に現れる巨大な腫瘍で、症状が進行すると歩行や労働が困難になり、蔓延地域において貧困、偏見などの社会問題や経済的損失を引き起こす要因となっています。子供や若い成人がとりわけ危険にさらされています。現存の抗真菌薬や手術による治療が可能なのは、この真菌性菌腫(ユーマイセトーマ:eumycetoma)を持つ患者さん全体の35%に過ぎません。この疾患は土壌ないしは動物の糞から感染します。とげなどが皮膚に刺さることにより体全体に真菌が侵入すると考えられています。一説によると、1694年ドイツの博物学者エンゲルベルト・ケンペル(Engelbert Kaempfer)が著書「Ohservationein Exoticarum」の中でインドとペルシャで出会ったマイセトーマ患者について最初に言及しているそうです。にもかかわらず、真菌性菌腫を含むマイセトーマに関する伝播、有病率、感染経路、および感受性などについての情報は今日にいたるまで未だ世界的に著しく不足しています。

注2:主な蔓延国は、アフリカ大陸(チャド、エチオピア、モーリタニア、スーダン-特に広く蔓延、セネガル、ソマリア)、メキシコ、インド、イエメンなどの「マイセトーマベルト」という熱帯・亜熱帯地域(北緯30度から南緯15度の地帯)で、豪雨をもたらす短い雨季と暑くて乾燥した気候の地域に特有な疾患です。蔓延地域において貧困、偏見などの社会問題や経済的損失を引き起こす要因となっており、子供および若い成人、特に屋外で働く男性は最も高いリスクにさらされています。

【Drugs for Neglected Diseases initiative, DNDi :顧みられない病気の新薬開発イニシアティブについて】
1990年代後半、発展途上国の現場で医療活動に従事していた国境なき医師団のチームは、顧みられない病気に苦しむ患者を治療できないことに苛立ちを募らせていました。患者の治療に使用する医薬品の効果がなかったり、強い副作用があったり、あるいは製造中止になって使用ができないなどの問題があったためです。そこで、国境なき医師団は、1999年に受賞したノーベル平和賞の賞金の一部を、患者のニーズを重視して、顧みられない病気に対する治療薬の研究開発(R&D)に取り組むための革新的な組織の設立に充てることに決定し、スイス・ジュネーブに本部を置く非営利財団として2003年7月に正式に発足しました。DNDiはヨーロッパを中心とした多くの政府機関および私設財団から資金援助を受けて活動しています。2013年度からは日本政府も参画する公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)による資金援助も受けています。また、WHOの熱帯病医学特別研究訓練プログラム(WHO-TDR)が常任オブザーバーとして参加しています。www.dndi.org/

【DNDi Japanについて】
DNDi Japanは、2003年に日本の活動を開始し、2009年に特定非営利活動法人として東京都の認証を受けました。顧みられない熱帯病(NTDs)に苦しむ途上国の人々を援助するために日本の窓口として、DNDi本部のプロジェクトを支援し日本国内外の協力先と協働して、NTDsの治療薬開発、それに関連する能力開発、ならびに啓発活動など、発展途上国の人々の保健医療、福利厚生に貢献することを目的とした活動を行っています。www.dndijapan.org/

お問合せ:広報担当 松本眞理(mmatsumoto@dndi.org/ TEL03-4550-119

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