らせん状にねじれたオリゴフェニレンによる円偏光発光色素を開発 ~ 円偏光有機LEDやバイオイメージング材料への応用に期待 ~ 北里大学

北里大学

From: Digital PR Platform

2020-12-10 14:05




北里大学理学部の長谷川真士講師、佐藤賢太大学院生、真崎康博教授と近畿大学理工学部の今井喜胤准教授、および大阪大学大学院理学研究科化の西内智彦助教の研究グループは発光特性に優れたオリゴフェニレンを「らせん状にねじって輪にする」という単純な設計でヘリカルな不斉構造を導き、強い円偏光発光を示す緑色蛍光色素の開発に成功しました。
本研究成果は、2020年10月20日に欧州化学誌「Chemistry - A European Journal」電子版に掲載され、Hot PaperならびにFront Cover(表紙)に採用されました。




 北里大学理学部化学科の長谷川真士講師、佐藤賢太大学院生、真崎康博教授と近畿大学理工学部応用化学科の今井喜胤准教授、および大阪大学大学院理学研究科化学専攻の西内智彦助教の研究グループは発光特性に優れたオリゴフェニレン【注1】を「らせん状にねじって輪にする」という単純な設計でヘリカルな不斉構造【注2】を導き、強い円偏光発光(Circularly Polarized Luminescence: CPL)【注3】を示す緑色蛍光色素の開発に成功しました【図1】。新しく合成したこの分子は、鮮やかな緑色蛍光発光を示し、ヘリカルな不斉構造に由来した顕著なCPLを示します。特にポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いて作成した薄膜ではより強く発光することがわかりました。今回の発見により、CPLを示す蛍光色素材料を用いた円偏光有機EL材料への展開が可能となり、円偏光を利用した三次元表示ディスプレイ【注4】の開発が加速します。
 本研究成果は、2020年10月20日に欧州化学誌「Chemistry - A European Journal」電子版に掲載され、Hot PaperならびにFront Cover(表紙)に採用されました。



■研究成果のポイント
・不斉を持たない単純なオリゴフェニレンをねじって不斉構造を実現する分子設計を開発。
・PMMAなどのマトリックス中にて、発光強度の増大と顕著なCPLを発現することを発見。
・この結果は、ホスト分子中で駆動する有機EL材料に応用可能。


■背景
 キラル【注5】な構造を持つ有機蛍光色素は、右回転または左回転のどちらかに回転方向が偏った円偏光を発光として示します(円偏光発光:CPL)。CPLは発光がすでに円偏光であるため、円偏光フィルターを必要としない光学デバイス設計が可能です。従って、三次元表示ディスプレイの表示素子や、セキュリティー関連で使用される潜像インクなどへの応用が可能とされ近年注目を集めております。三次元表示ディスプレイは現在内視鏡手術等における立体視に欠かせない表示デバイスとなっておりますが、CPLに基づく表示デバイスはこれらをより鮮明化させる他、より簡素な構造設計を可能にします。しかしながらCPLは分子の励起状態に起因する現象であるため、その予測が非常に困難であり、優れたCPLを示す分子の合理的な設計指針は未解明でした。


■研究成果
 本研究ではベンゼン環が繋がったオリゴフェニレンをキラルなビナフチルに連結し、環状構造に組み込んだ分子を新しく合成しました。不斉構造を持たないがよく光るオリゴフェニレンをキラル分子に連結させることで、ベンゼン環がらせん状に並んだヘリカルな不斉構造を生み出すことに成功しました。  
 オリゴフェニレンは強い蛍光発光を示します。今回合成した分子も溶液、固体およびPMMAマトリックスによって作成した薄膜において強い緑色蛍光を示すことがわかりました。いずれの状態もらせん構造に由来した顕著なCPL特性を示すことがわかり、オリゴフェニレンを「ねじる」「環状にする」の2つの分子設計がCPLの増幅に対し効果的に寄与していることを示します【図2】。また、PMMA中でも高い量子収率を保ちながらCPLを示すことがわかり、円偏光を発する有機ELデバイス等の開発への応用が可能となりました。


■論文情報
・掲載紙:Chemistry - A European Journal(Hot Paper、Front Cover(表紙)に採用)
・論文名:Circularly Polarized Luminescence of A Stereogenic Curved Paraphenylene Anchoring A Chiral Binaphthyl in Solution and Solid State(キラルなビナフチルに固定された湾曲型パラフェニレンの円偏光発光特性)
・著 者:佐藤賢太(北里大学大学院理学研究科修士課程2年)、長谷川真士(北里大学理学部講師、責任著者)、野島裕騎(北里大学大学院理学研究科博士後期課程1年)、原伸行(近畿大学大学院総合理工学研究科博士後期課程3年)、西内智彦(大阪大学大学院理学研究科助教)、今井喜胤(近畿大学理工学部准教授)、真崎康博(北里大学理学部教授)
・DOI:10.1002/chem.202004283(論文)、10.1002/chem.202004854(Front Cover)


■用語解説
【注1】オリゴフェニレン(Oligophenylene)
 ベンゼン環が複数繋がった構造を持つ化合物またはユニット。強い蛍光発光を示す。

【注2】ヘリカルな不斉構造(Helical Chirality)
 一方に偏ったらせん構造による不斉。自然界ではアサガオのつるや生物細胞内にあるDNAの構造などに見られる。

【注3】円偏光発光(Circularly Polarized Luminescence: CPL)
 光(自然光)は、右回転と左回転の偏光を等しく(50:50)含んだ光で構成されている。このうち、どちらか一方に回転方向が偏った光を「円偏光」といい、発光現象がどちらかの円偏光に偏りがある場合を円偏光発光という。

【注4】三次元表示ディスプレイ(3D Display)
 内視鏡手術など三次元表示が欠かせない場面において使用されるディスプレイで、立体視しつつ作業を行う場合に威力を発揮する。偏光フィルターにて液晶ディスプレイからの光を円偏光に変換し、偏光メガネを用いて左右の眼に入る光に視差を生み出すことで三次元構造を再現する。表示素子の進化に併せてより高解像度、より高い立体再現度を持つディスプレイの開発が求められる。

【注5】キラル(Chiral)
 右手と左手のように鏡像関係にあるもの。

 本研究は科学研究費補助金 基盤研究(C)(課題番号 JP18K05092)によって実施されました。


▼問い合わせ先
[研究に関すること] ※メールアドレスは _at_を@に変換してください。
○北里大学理学部 講師 長谷川真士(研究総括)
 TEL: 042-778-8158
 E-mail: masasi.h_at_kitasato-u.ac.jp

○北里大学理学部 教授 真崎康博(研究総括)
 E-mail: mazaki_at_kitasato-u.ac.jp

○近畿大学理工学部 准教授 今井喜胤(CPL測定総括)
 E-mail: y-imai_at_apch.kindai.ac.jp

○大阪大学大学院理学研究科 助教 西内智彦(スペクトル測定)
 E-mail: nishiuchit13_at_chem.sci.osaka-u.ac.jp

[報道に関すること]
○学校法人北里研究所 総務部広報課
 TEL: 03-5791-6422
 E-mail: kohoh_at_kitasato-u.ac.jp

○近畿大学 広報室 担当:坂本
 TEL: 06-4307-3007
 E-mail: koho_at_kindai.ac.jp

○大阪大学理学研究科 庶務係
 TEL: 06-6850-5280
 E-mail: ri-syomu_at_office.osaka-u.ac.jp


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