がん細胞の増殖を阻害する化合物「ACA-28」の仕組みを解明 副作用の少ないがん治療薬の開発に期待

近畿大学

From: Digital PR Platform

2021-01-29 14:05




近畿大学薬学部(大阪府東大阪市)創薬科学科教授の杉浦 麗子らの研究グループは、がん細胞のみに細胞死(アポトーシス)※1 を誘導する化合物「ACA-28」のメカニズムを解明しました。多くのがん細胞では、増殖のアクセルである「ERK MAPキナーゼ(以下ERK)※2」の働きが活発になり、それに対抗するためブレーキ役をするがん抑制因子「DUSP」が大量に作られ細胞のバランスを安定させます。研究グループは、化合物「ACA-28」が、がん抑制因子「DUSP」のタンパク質量を減少させることにより、がん細胞のバランスを崩して細胞死を誘導し、増殖を阻害することを見出しました。




【本件のポイント】
●がん細胞に対して選択的に細胞死を誘導する化合物「ACA-28」の仕組みを解明
●ACA-28は、がん抑制因子を壊す働きにより、がん細胞の細胞死を誘導し増殖の流れを阻害
●がん細胞のアクセルではなく、ブレーキを標的にした副作用の少ない抗がん剤の開発に期待

【本件の内容】
近畿大学薬学部創薬科学科教授の杉浦 麗子(専門:ゲノム創薬)らの研究グループは、これまでに、「悪性黒色腫(メラノーマ)※3」などの''がん細胞選択的''に細胞死を誘導する化合物「ACA-28」を取得し、その作用を探っていました。がん細胞の最大の特徴は「非常に活発な増殖」であり、多くのがん細胞で''増殖のアクセル役''をするERKという酵素が活発に働いています。一方、がん細胞の多くでは、活発なアクセルの働きに対抗するため、「ERK」にブレーキをかけるがん抑制因子「DUSP」が大量に作られ、バランスを取っています。
研究グループは、ACA-28がDUSPのタンパク質を減らすことにより、均衡状態をくずし、がん細胞選択的に増殖を阻害することを見出しました。アクセルの働きをする酵素を阻害する抗がん剤の場合、アクセルの働きを阻害しても効果が十分でない、あるいは使い続けるうちに抗がん剤の効果が弱まるなどの問題があります。しかしブレーキを標的とするACA-28の場合、がん細胞で大量に増えているブレーキに働きかけ、バランスを壊すという新しい作用によって、選択的にがん細胞の細胞死を誘導するため、「副作用の少ない」がん治療薬の開発が期待されます。

【論文掲載】
掲載誌:
Genes to Cells(インパクトファクター:1.922)
論文名:
Down-regulation of dual-specificity phosphatase 6, a negative regulator of oncogenic ERK signaling, by ACA-28 induces apoptosis in NIH/3T3 cells overexpressing HER2/ErbB2
(新規抗がん剤シーズACA-28によるERK MAPKホスファターゼDUSP6の抑制はHER2/ErB2過剰発現細胞の細胞死を誘導する)
著 者:
神田 勇輝(近畿大学大学院薬学研究科博士課程)
水野 綾美(近畿大学大学院薬学研究科博士前期課程)
高崎 輝恒(近畿大学薬学部)、佐藤 亮介(近畿大学薬学部)
萩原 加奈子(兵庫医療大学薬学部)、益子 高(近畿大学薬学部研究員)
遠藤 雄一(近畿大学薬学部)、田邉 元三(近畿大学薬学部)
杉浦 麗子(近畿大学薬学部)

【研究詳細】
がん細胞では、増殖を司るERKの働きが活発になっていることから、ERKの働きを阻害する抗がん剤の開発が精力的に行われてきました。杉浦らの研究グループは、独自の創薬手法により「ACA-28」という化合物を取得し、ACA-28が悪性黒色腫(メラノーマ)などのERKが活性化しているがん細胞を特異的に細胞死に誘導することから、その作用を探っていました。そこで、がん細胞ではERKの活発な働きに拮抗するために、ERKの働きにブレーキをかけるDUSPという酵素の量が増えることに着目。ACA-28とDUSPの関係を調べました。
その結果、ACA-28は、DUSPのタンパク質分解を介して、DUSPのタンパク質量を減少させていることがわかりました。ACA-28は、DUSPが高発現しているがん細胞の増殖を阻害するのに対して、正常細胞に対する影響は限定的でした。一方、DUSP遺伝子をノックダウンし、DUSPタンパク質発現を減少させることでも、ACA-28同様に、がん細胞選択的な増殖阻害が起こりました。現在までの抗がん剤開発は、がん細胞で活発になっている「アクセル」の働きを止める薬剤の開発が主流でした。今回の発見は、がん細胞の「ブレーキ」であるDUSPの発現量を制御することにより、副作用の少ない新たながん治療戦略につながることが期待されます。

【用語解説】
※1 細胞死(アポトーシス)
調節された細胞の自殺、つまりプログラムされた細胞死。例えばオタマジャクシからカエルに変態する際に尻尾がなくなるのもアポトーシスによる。臨床で用いられている抗がん剤の中には、アポトーシスを引き起こすことでがん細胞を死滅させる効果を持つものが多く存在する。
※2 ERK MAPキナーゼ
ヒトのMAPキナーゼの一つであるERK MAPキナーゼの調節に関わる情報(シグナル)伝達経路。メラノーマなど、ある種のがんにおいてはERK MAP キナーゼシグナルが異常に活性化しており、がん化やがん細胞の増殖、転移と深く関わる。
※3 悪性黒色腫(メラノーマ)
シミやホクロの色素成分である「メラニン」を産生する細胞であるメラノサイト(皮膚や粘膜などに存在)が「がん化」したもの。早期に転移し、悪性度、致死率が最も高いがんの一つ。

【関連リンク】
薬学部 創薬科学科 教授 杉浦 麗子(スギウラ レイコ)
(リンク »)
薬学部 創薬科学科 教授 遠藤 雄一(エンドウ ユウイチ)
(リンク »)
薬学部 医療薬学科 教授 田邉 元三(タナベ ゲンゾウ)
(リンク »)
薬学部 創薬科学科 講師 高崎 輝恒(タカサキ テルアキ)
(リンク »)
薬学部 創薬科学科 講師 佐藤 亮介(サトウ リョウスケ)
(リンク »)

薬学部
(リンク »)

▼本件に関する問い合わせ先
広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


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