近畿大学薬学総合研究所(大阪府東大阪市)教授の角谷 晃司と、農学部(奈良県奈良市)農業生産科学科教授の松田 克礼らの研究グループは、静電気の特性を利用してウイルスなどの病原体を水に捕捉する装置を開発し、飛沫で空中に浮遊するウイルスを効率的に回収して殺菌することに、世界で初めて成功しました。
本件に関する論文が、令和3年(2021年)5月6日(木)、環境衛生学と公衆衛生学に関する国際的な学術雑誌である''International Journal of Environmental Research and Public Health''に掲載されました。なお、本件は近畿大学が全学を挙げて取り組んでいる「''オール近大''新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」の一環で実施しました。
【本件のポイント】
●静電気の特性を利用してウイルスなどの病原体を水に捕捉する装置を開発し、飛沫で浮遊するウイルスの効率的な回収に世界で初めて成功
●水に回収したウイルスは、オゾンを添加することで殺菌可能
●除菌機能をもつ空気清浄機の開発や、ウイルス量のモニタリングへの応用に期待
【本件の背景】
世界的に感染が拡大している新型コロナウイルス感染症に対し、世界保健機構は接触、飛沫、空気を介した感染に対する予防策の必要性を強調しています。最近では、特に飛沫を介した感染の予防が重要視されており、ウイルスを含む飛沫を閉じ込める手段について研究が進んでいます。
近畿大学薬学総合研究所を中心とした研究チームは、ウイルスなどの病原体を閉じ込める方法の一つとして、静電気の力を発生させる「静電場※1」に着目して研究してきました。これまでに、カビの胞子や、花粉、煙、昆虫などを捕捉できる「静電場スクリーン」という装置を開発しており、静電場を活用して飛沫(直径5μm以下)やウイルスなど、さらにサイズの小さい物質を捕捉する新たな装置の開発を進めてきました。
【本件の内容】
今回の研究は、新型コロナウイルスに構造が類似した安全なウイルス「バクテリオファージφ6※2」を使用して行いました。開発した装置は、水の入った容器の上に複数の釘を固定したプレートを設置したもので、釘側にマイナスの電圧を与えて静電場を発生させることで、水をプラスに帯電させることができます。この装置に、ウイルスを含むミスト(飛沫を模擬して吸入器で発生させたもの)を吹き付けると、装置内で発生したマイナスイオンとミストが接触することで、ミストがマイナスに帯電し、プラスに帯電した水側に捕捉されることを世界で初めて確認しました。さらに、このウイルスを回収した水は、オゾンを用いることで99%以上殺菌できることも明らかにしました。
【論文掲載】
掲載誌:
International Journal of Environmental Research and Public Health
(インパクトファクター:2.879@2019)
論文名:
A Simple Electrostatic Precipitator for Trapping Virus Particles Spread via Droplet Transmission
(飛沫感染を通して広がるウイルス粒子を捕捉するためのシンプルな静電集塵器の開発)
著 者:
角谷 晃司1、松田 克礼2、野々村 照雄2、瀧川 義浩3、高見 武志4、豊田 秀吉5
所 属:
1.近畿大学薬学総合研究所
2.近畿大学農学部農業生産科学科
3.近畿大学先端技術総合研究所
4.クリニック神宮前
5.静電場スクリーン研究会
【研究詳細】
今回開発した装置は、釘に電圧をかけると先端からコロナ放電※3 が生じる、コロナ放電生成装置(corona discharge-generating apparatus)です。この装置を用いると、下に設置している水がプラスに帯電し、「水電極」として活用することができます。装置内では、釘から水電極側に向かってマイナスイオンを含むイオン風※4 が発生し、このイオン風が接触するとウイルスを含む飛沫はマイナス側に帯電するため、プラスに帯電している水電極に引き寄せられ、捕捉される仕組みです。
研究チームは、まずこの装置の捕捉性能について検証しました。飛沫を想定し、吸入器で発生させたミスト状の粒子を装置に噴射した際、釘側に-8KV以上の電圧を加えると、ミスト粒子は水電極に取り込まれました。そこで、蛍光試薬であるFITC液をミスト化して装置に噴射し、水にどの程度捕捉されるかを測定したところ、下図のように加えた電圧に比例して捕捉能力が高くなることが分かりました。
次に、実際にバクテリオファージφ6を含む溶液を作製して、-3~-10kVの範囲で帯電した装置にミストとして噴射し、水電極に捕捉されたウイルス濃度を測定しました。捕捉されたウイルス数は、表の通り電圧の増加に相関して段階的に増加し、-8kV以上からの捕捉数はほぼ横ばいとなりました。これらの結果から、コロナ放電生成装置は-8kV以上の電圧をかけた場合、ウイルスを含むミストを十分に捕捉できると結論付けました。
最後に、水に捕捉したウイルスを、オゾンを用いて殺菌しました。ウイルスを捕捉した水に、オゾンを微細な泡で30分間流入することで、ウイルスを99%以上殺菌できることを確認しました。
【今後の展望】
今回開発したコロナ放電生成装置の捕捉は、マイナスイオンによってミスト粒子の表面がマイナスに帯電することに依存しているため、今回検証に用いたバクテリオファージ以外にも、細菌性(ジフテリア、百日咳、髄膜炎、疫病、肺炎)や、ウイルス性(インフルエンザ、髄膜炎、おたふく風疹、肺炎)、および飛沫感染によって引き起こされるマイコプラズマ病の病原体や新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)といった病原体の捕捉に適用できる可能性があり、除菌機能を持つ空気清浄機の開発に向けた応用が期待できます。
また、ウイルスや細菌をそのままの状態で水に回収できることから、空間を浮遊する病原体のモニタリング装置としての応用も期待できます。
【用語解説】
※1 静電場:空間に存在する電荷によって形成され、電気的な力が働く空間のこと。
※2 バクテリオファージφ6:Pseudomonas syringae var.syringaeに感染し、増殖するウイルス。エンベロープやスパイクタンパク質を持つRNAウイルス。構造が新型コロナウイルスに類似している。直径85nm。
Pseudomonas syringae var.syringaeは、極鞭毛を持つグラム陰性桿菌。植物種に対して特異的に病原性を示す植物病原細菌。
※3 コロナ放電:尖った電極(針電極)の周りに不均一な電界が生じることにより起こる放電。ごくわずかな電流で、火花が散る前の状態。集塵機などにも活用されている。
※4 イオン風:コロナ放電による電荷移動とともに発生する力(風)。
【''オール近大''新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト】
近畿大学は、令和2年(2020年)5月15日から「''オール近大''新型コロナウイルス感染症対策支援プロジェクト」を始動させました。これは、世界で猛威をふるう新型コロナウイルス感染症について、医学から芸術までの研究分野を網羅する総合大学と附属学校等の力を結集し、全教職員から関連研究や支援活動の企画提案を募って実施する全学横断プロジェクトです。72件の企画提案が採択され、約1億3千万円の研究費をかけて実施しています。
【関連リンク】
薬学総合研究所 教授 角谷 晃司(カクタニ コウジ)
(リンク »)
農学部 農業生産科学科 教授 松田 克礼(マツダ ヨシノリ)
(リンク »)
農学部 農業生産科学科 教授 野々村 照雄(ノノムラ テルオ)
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先端技術総合研究所 准教授 瀧川 義浩(タキカワ ヨシヒロ)
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薬学総合研究所
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先端技術総合研究所
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農学部
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▼本件に関する問い合わせ先
広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター (リンク »)
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