旭化成株式会社(本社:東京都千代田区、社長:工藤 幸四郎、以下「当社」)は、医薬品原薬等を含む有機溶媒※1を、非加熱・非加圧で脱水するための独自の脱水膜システム(以下、「本脱水膜システム」)を開発し、さらに本脱水膜システムの医薬品製造プロセスへの適用に向けた検証のため、小野薬品工業株式会社(本社:大阪府大阪市、社長:相良 暁、以下「小野薬品」)との共同評価を開始したことをお知らせします。
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1. 開発背景・目的
医薬品製造プロセスでは、禁水反応※2や晶析※3等を行うために、医薬品原薬やその中間体※4を含む有機溶媒を脱水し、溶媒中の水分量を管理する必要があります。しかし、従来の脱水技術である減圧蒸留法※5は加熱を必要とするため、「熱に弱い医薬品中間体等の品質が低下する」「所要時間が長い」「エネルギー消費量が大きい」といった課題がありました。
当社は、ウイルス除去膜や水処理膜等のサプライヤーとして蓄積してきた独自の中空糸膜技術※6を活かし、このたび、医薬品製造プロセス用途の「有機溶媒の脱水」に適した中空糸膜を用いた脱水膜システムを新たに開発しました。本脱水膜システムは、テトラヒドロフラン(THF)※7、トルエン、メタノール等の有機溶媒にも使用可能であり、非加熱・非加圧の状態で、熱に弱い医薬品中間体等の品質低下を抑制して有機溶媒から脱水できます。また、新たに開発した脱水に適した構造を持つ中空糸膜により、医薬品中間体等の膜透過による収率低下の抑制が可能です。さらに、従来技術である減圧蒸留法に比べて、所要時間の短縮やエネルギー消費量の大幅な低下が可能になります。
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本脱水膜システムは、中空糸型の半透膜を通して、液体が濃度差によって移動する正浸透現象を活用しています。正浸透膜モジュールと誘導溶液の開発により、高い選択性で有機溶媒中の水を分離することが可能です。
本脱水膜システムの性能まとめ
・非加熱で有機溶媒の脱水を実現(脱水後の水分濃度を1,000ppm以下に低減可能)
・熱に弱い医薬品中間体等の品質低下やロスを抑制
・アルコール類(メタノール等)、エーテル類(THF等)、エステル類(酢酸エチル等)、
炭化水素類(ヘキサン、トルエン等)といった多様な有機溶媒で使用可能
2. 今後の展望
現在、顧客に貸し出し可能なラボ評価用テスト機を小野薬品へ貸し出し、小野薬品において医薬品中間体等を含む溶液を用いた評価を開始いただいております。小野薬品との共同評価により、本脱水膜システムの医薬品製造プロセスにおける適用可能性を見出し、医薬品製造プロセスの効率化に寄与する新しい脱水技術の構築を目指していきます。当社は、非加熱・非加圧で、医薬品中間体等の品質低下やロスを抑えて有機溶媒を脱水できるという本脱水膜システムの特長を活かしたさらなる適用場面を見出し、2027年の販売開始を目指します。
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※1 有機溶媒:医薬品原料等の物質を溶かす性質をもつ、常温常圧で液体の有機化合物の総称です。
※2 禁水反応:水分を避ける必要がある化学反応。系中に水分が存在すると望ましくない反応が生じ、反応収率が低下するため、反応液中の水分量を管理する必要があります。
※3 晶析:化合物が溶けている溶媒に対して、化合物に対する溶解力が弱い貧溶媒を添加したり、低温にして化合物の溶解力を低下させることで、化合物を結晶化して分離精製を行う操作。溶媒中に水が存在すると化合物の溶解性が変化するため、溶媒中の水分量を管理する必要があります。
※4 中間体:医薬品を製造する過程で経由する化合物。一般的に医薬品は原料を反応させ、複数の中間体を経て、医薬品となります。
※5 減圧蒸留法:蒸留器内の気圧を下げて蒸留を行う方法。水分を除くためには、一般的に50 ℃程度の加熱が必要となります。
※6 中空糸膜:ストロー状の形状の分離膜。ストロー状の壁部分を分離膜として用います。
※7 テトラヒドロフラン(THF):常温・常圧では芳香を持つ無色の液体です。自由に水と混和し、多くの有機化合物・高分子を溶解するため、各種材料の溶解や反応溶媒として幅広く利用されています。
プレスリリース提供:PR TIMES (リンク »)
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