ストレージ業界アナリストの見る「良い買収、悪い買収」 - (page 2)

藤本京子(編集部)

2005-07-22 17:19

--ところで、ストレージ関連企業の間で買収がさかんに行われていますが、これらの買収について意見を聞かせてください。まず、SymantecによるVeritas Softwareの買収について、どう思われますか。先ほどストレージにはデータセキュリティが重要だと述べられましたが、Symantecはどちらかというとネットワークセキュリティを提供する企業です。データセキュリティを提供できるのでしょうか。

 もちろんできるでしょう。Veritasが強いとされているバックアップの分野は、現状ではセキュリティに強いと言えないかもしれませんが、Symantecのセキュリティ技術はVeritasのバックアップ製品に十分活かされると思います。

 この買収で重要なのは、これまでどちらかというとコンシューマー市場に強かったSymantecが、エンタープライズ市場に入り込めることでしょう。Veritasはエンタープライズ市場に非常に強いですからね。エンタープライズ市場でのVeritasの販売チャネルやブランドは、Symantecにとって非常に魅力的です。Symantecにもブランド力はありますが、デスクトップ上のソリューションというイメージが強いですからね。今後Symantecは、同社のセキュリティコンポーネントをVeritasのバックアップ関連ソリューションに組み込んで販売していくでしょう。

 ユーザーがデータセキュリティを求めていることは確実なため、この2社の合併は大きな意味を持ちます。EMCの中でバックアップやアーカイブなどのデータ保護関連ソフトを扱うLegato製品チームも、この2社の合併を黙って見ているわけにはいかないでしょう。近々セキュリティ分野でEMCが何か発表する動きも見られます。

--他の買収についてどう見ていますか? 良い買収、悪い買収に分けるとすると、どの買収がどちらに当てはまるでしょう?

 Sun MicrosystemsのStorageTek買収はあまりいい買収とは思えませんね。テープストレージは市場が縮小する一方ですから。ただ、SunのCFOであれば、「2つの会社を統合し、重複している人員を削減すれば、買収しても全くお金がかからなかったことになる」と言い訳するでしょう。財務管理的な観点からすると正しい考えですが、市場的に見るとこの買収はどう考えても良いとはいえません。

 一方、Network Appliance(NetApp)が6月に発表したDecruの買収は、とても戦略的でいい買収だと言えます。Decruは暗号化技術でデータ保護を実現している企業ですが、データ保護に対するニーズは非常に高まっていますから。NetAppはこの買収により、ストレージシステムに暗号化技術を導入できることになります。また、2004年12月に発表されたEMCのSMARTS買収もすばらしいですね。SMARTSは、ネットワークシステムの管理ソフトを提供する企業です。この2つの買収は、現在注目されている分野の製品を手に入れるためで、顧客にも利益をもたらすものです。

--ただ、DecruはNetAppだけでなく、EMCなど他のストレージベンダーとも提携しています。ライバル企業に買収されたことで、今後この提携関係に影響は出ないのでしょうか。

 NetAppが言うには、Decruのビジネスに関してはEMCがVMwareを買収したケースと同じように扱うとしています。つまり、DecruはNetAppのグループ内には入るものの、これまで通り別企業として独立したビジネスを営むため、顧客や提携先に影響はないということです。EMCがVMwareを買収しても、VMwareとIBM、VMwareとHPといった買収前の提携関係は、買収後も変わらず続いていますしね。

--しかし、富士通の子会社でストレージ関連ソフトを提供するSoftekは、1ベンダーの縛りから逃れて独立性をより高めるため、スピンアウトしましたね。

 確かにそうです。ただし、Softekがスピンアウトしたのは、独立性を求めたのも理由のひとつですが、もうひとつの理由は株式公開するためです。McDataがEMCからスピンアウトしたのも同じ理由です。McDataはいったんEMCに買収され、再びスピンアウトして株式公開を実現しましたからね。

--ところで、ストレージベンダー各社はILMというキーワードを基に、さまざまなソリューションを提供しています。実際のところ、ユーザー企業はILMをどの程度重要だと考えているのでしょうか。

 一般企業にILMが浸透しているかというと、まだその段階には至っていませんし、ILMに対する優先順位も、ベンダーが期待するほどには高くないのが現状です。ただし、ベンダーがユーザー企業の中で決定権のあるCIOにたどり着けていないことも事実です。今後ベンダーがうまくマーケティングできるようになれば、企業におけるILMの優先順位は間違いなく高まります。ILMが重要であることには変わりないですからね。

 ILMはテクノロジーの話ではありません。プロセスが重要なのです。そのため、ILMソリューションを提供するベンダーは、ビジネスプロセスも含めた総合的なコンサルティングができなくてはなりません。アプリケーションだけでなく、各ユーザー企業の業界知識なども必要となってくるでしょう。また、ストレージ業界では常に新しい言葉が出現しますが、ベンダーとユーザー間で同じ言語を話し、理解し合うことが重要となりますね。ユーザー企業は、こうした視点でベンダーを選ぶべきでしょう。

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