ベトナムでビジネスをする

事業進出先としてタイはベトナムより好条件か - (page 2)

古川浩規(インフォクラスター)

2015-06-07 07:30

タイはベトナムよりも良い条件がそろっているのか

 ベトナムで事業を展開していると、その国家体制が日本とは大きく異なるため戸惑うことも少なくありません。その点タイは、日系企業がより古くから進出し、タイ王室と日本の皇室の親密度に代表されるように、国家体制も日本と似通っており、日系企業にとってより良い事業環境がそろっているのではないかと考えていました。


日本でもよく知られているようにタイでは王室が敬愛されている。街中だけではなく、指折りの名門理工系大学であるキングモンクット工科大学トンブリ校といったところでも、王室の誕生日をお祝いするために肖像画を掲げる(写真は現国王の王女の一人、シリトーン王女)

 しかし、今回の訪タイで話を聞いてみると、必ずしもそうとは言い切れないのではないかと感じました。

 例えば法整備について、ベトナムでは段階的に外資系企業に対する規制を緩和してきていますが、タイでも外資系企業に対する制約は大差がないように感じました。お目にかかった幾人かの事業家の方からは、在タイの日系企業であっても外資系企業であることに変わりはないため、その活動については各種の制約が生じてくるという困りごとを耳にしました。

 また、法令自体も十分整備されているとは言えないようです。ベトナムでも法律の施行時に各種下位命令の整備が十分ではない場合もあるため、外資系企業にとっても悩みの種となっていますが、タイでも程度の違いこそあれ、その状況は似通っているように感じました。

 特に、2014年に起こった軍事クーデター以降、軍事政権が法令上の解釈を厳格に行うようになり、法令未整備の対象においても、これまで問題がなかった行為に対する当局の解釈変更によって対応を変えざるを得なくなるという事態も散見されるようです。


タイの最高学府であるチュラロンコーン大学。元はタイ王室立ということもありその権威はタイでも随一。キャンパスもバンコクの中心街に広大な敷地を持ち、学内には巡回バスが4ルートもある。ここまで広大な敷地を持つ単一の高等教育機関は、現在のところベトナムにはない。

 一方、各種コストについては、進出する企業の業務形態次第でトータルコストとして進出メリットがあるかどうかの判断が分かれるのではないでしょうか。

 市中の物価を日本と比較した場合、体感的にはベトナムは1/7程度、タイは1/3程度です。平均賃金もこれを反映しているようで、(独)日本貿易振興機構(JETRO)のデータでも、ベトナムでの平均賃金は各職階においてタイの1/2程度のようです。

 そうなると、より労働集約度合いの強い産業はベトナムを指向することになります。実際、ベトナムでは軽工業寄りの企業が、タイでは重工業寄りの企業が進出してきているように感じました。

 ただし、タイではすでに日系企業間であってもサプライチェーンが確立されている雰囲気も感じられ、これからタイへ進出し、現地で日系企業のサプライチェーンに参画しようとすることは容易ではないでしょう。一方で、ベトナムにおいても「大手は一通り出尽くした。後はSupporting Industryとしてどれだけの日系中小企業の進出があるか」という段階に来ていますので、現地で日系サプライチェーンに参画するチャンスはベトナムの方が有望だと感じます。

IT産業育成の動きを耳にしない

 それではIT産業についてはどうでしょうか。残念ながらバンコクで質問をさせていただいた方々からは、タイへのオフショア開発に新味があるということも含め、タイのIT産業の優位性を伺うことはできませんでした。個別の事例として日系企業がバンコクでオフショア拠点を開設したというケースを紹介されることはありましたが、ベトナムのように国策としてIT産業を育成するという動きは耳にすることはありませんでした。

 これは大学における高等教育についても同じようです。タイでは、第10次経済社会開発計画などで、人口1万人あたりのR&D人口を10人に増加させることを目指し、大学の基盤整備などを掲げて高等教育の経済への貢献を期待しています。

 しかしベトナムが国策として、IT産業育成の一環として大学でITエンジニア養成を進めているように、タイの大学で産業振興策を背景としたある特定の分野の技術者養成を積極的に推進するという取り組みはなされていないようです。

 なお、タイの高等教育に造詣の深い方からは、タイの高等教育がより一層発展することへの期待も聞かれましたが、高等教育情報機関のアジア大学ランキングや、OECD(経済協力開発機構)のPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査を見てみると、確かに理工系に強い国民性であるとは言えないように思います。

 むしろPISAの結果を見ると、ベトナムとタイの差は非常に大きく、ベトナムの比較優位が際立つという結果にもなっています。

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