世界初!肝臓癌の新規治療法の有効性・安全性を大規模臨床試験で実証

近畿大学

From: Digital PR Platform

2018-01-18 20:05




近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)内科学教室(消化器内科部門)主任教授の工藤正俊が主任研究者として主導した研究グループが、国内33施設で実施した全国規模の臨床試験において、切除不能の肝細胞癌(肝がん)における肝動脈化学塞栓療法(TACE)と分子標的薬ソラフェニブ(バイエル株式会社)の併用療法による有効性・安全性の実証に世界で初めて成功しました。

この臨床試験の成果は、世界最大の癌の臨床系学会である米国臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウム(ASCO-GI・開催地米国サンフランシスコ)で口頭発表されます。今回のASCO-GIで、採択総演題数950題のうち、肝胆膵癌領域における最も評価の高い4題の口頭発表の一つに工藤らの研究成果が採択されました。これにより肝がんに対する新しい標準治療法の確立が期待され、肝がん患者にとって非常に大きな朗報となります。




【本件のポイント】
●肝がんに対するTACEと分子標的薬の組み合わせ治療により、がん無増悪生存期間※1が延長
●中等度進行肝がん治療において過去10年間で世界で初めて成功した唯一の臨床試験
●新規治療法が標準治療法として確立されれば肝がんの患者にとって大きな朗報


【本件の概要】
今回、工藤正俊が研究代表者を務める研究グループが、平成22年(2010年)から平成29年(2017年)にかけて国内33施設において行った臨床試験において、TACEにソラフェニブを併用することで主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の延長を確認することに、世界で初めて成功しました。本臨床試験が成功したポイントは以下の3つの点にあると考えられます。(1)肝がんに対し世界の標準治療となっているTACEが初めて開発されたのは1980年代の日本であり、日本のTACEの技術が世界の中でも取り分け優れていたこと、(2)これまでの失敗した臨床試験が一般の化学療法の効果判定基準であるRECIST基準を用いているため「肝臓内に新病変が出現」しただけで「TACE治療の不成功」すなわち「病勢の増悪」として試験を打ち切る、という方針であったのに対して、TACEの経験が深い日本の本研究グループは「肝内新病変はTACE治療の場合は治療の不成功でもなく病勢の増悪でもない」との方針に基づき臨床試験計画が立案されたこと、(3)結果として過去にソラフェニブを併用した3試験の治療実施期間(Post TACE試験(試験名)17週間,TACE-2試験17.1週間,SPACE試験21週間)に比較してはるかに長いソラフェニブ治療期間を達成しえたこと(38.7週間)が挙げられます。

【発表学会】
学会名:「ASCO-GI」 米国臨床腫瘍学会が主催する消化器癌シンポジウムで世界の消化器癌学会の中で最高峰の学会 概要はJCO(インパクトファクター:24.008 @2017)にonline掲載予定[2018年1月16日(火)17:00PM
EST(米国東部時間)※日本時間平成30年(2018年)1月17日(水)7:00AM ]
論文名:Randomized, Open Label, Multicenter, Phase II Trial of Transcatheter Arterial Chemoembolization (TACE) Therapy In Combination with Sorafenib as compared with TACE Alone in Patients with Hepatocellular
Carcinoma: TACTICS Trial
(切除不能肝細胞癌に対するTACE・ソラフェニブ併用療法とTACE単独治療の無作為化割り付け比較多施設共同オープンラベル第2相臨床試験: TACTICS試験)

著者:Masatoshi Kudo1,Kazuomi Ueshima1, Takuji Torimura2, Nobukazu Tanabe3,Masafumi Ikeda4, Hiroshi Aikata5, Namiki Izumi6,Takahiro Yamasaki7, Shunsuke Nojiri8, Keisuke Hino9,Hidetaka Tsumura10, Norio
Isoda11, Kohichiroh Yasui12,Teiji Kuzuya13, Takuji Okusaka14,Junji Furuse15,Norihiro Kokudo16, Kiwamu Okita17, Kenichi Yoshimura18,Yasuaki Arai14, and TACTICS study group
1Kindai University Faculty of Medicine, Osaka; 2Kurume University Hospital,Fukuoka; 3Sendai Medical Center, Miyagi; 4National Cancer Center Hospital East, Chiba; 5Hiroshima University, Hiroshima; 6Musashino Red Cross Hospital, Tokyo; 7Yamaguchi University, Yamaguchi: 8Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Aichi; 9Kawasaki Medical University, Okayama; 10Hyogo Cancer Center, Hyogo; 11Jichi
University, Tochigi; 12Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto; 13Nagoya University, Aichi; 14National Cancer Center Hospital, Tokyo; 15Kyorin University Hospital, Tokyo; 16National Center for Global Health and Medicine, Tokyo; 17Shunan Memorial Hospital, Yamaguchi; 18Kanazawa University, Ishikawa



【本件の背景】
肝がんは現在、世界で毎年約75万人が亡くなる難治性のがんであり、我が国でも毎年約3万人が亡くなる極めて予後の悪いがんです。その治療法として、がんが肝臓内に限られている場合は切除、ラジオ波治療(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)などがありますが、これらの治療法で効果が得られない、もしくは遠隔転移などをきたして進行がんになった場合には全身的な薬物療法が主たる治療法となります。薬物治療に使用する抗がん剤は、平成19年(2007年)に有効性・安全性が証明されたソラフェニブ(商品名:ネクサバール)が唯一の薬剤であり、我が国でも「切除不能肝細胞癌」に対する適応を平成21年(2009年)に取得し、承認されています。TACEは中等度進行肝がん患者に対する標準治療として確立されていますが、治療後の再発が極めて多いという問題を抱えています。その一因として動脈血流が遮断されると酸素の供給が少なくなることから癌が低酸素状態に陥り、血中への血管新生因子※2と呼ばれる癌の腫瘍血管形成を促進させる因子が大量に血中に放出されます。結果として癌が高率に再発・転移しやすい状態になるとされています。このようなことから平成18年(2006年)(post TACE 試験)から、血管新生抑制薬剤であるソラフェニブやその他の血管新生抑制剤をTACEに併用することでTACE後の再発を抑えることができるのではないか、という仮説のもと、数多くの組み合わせ治療の大規模臨床試験が行われてきました。論文発表されたものだけで5つの臨床試験がアジアやヨーロッパなど世界規模で行われてきました(前述の3試験以外にORIENTAL試験、BRISK-TA試験がある)が、そのすべての臨床試験が失敗に終わりました。本試験は試験デザインを全く新しく工夫したことにより臨床試験を成功させその有効性を検証し得た世界初の成果であり、この成果が世界の標準治療となる道を切り開いたと言える画期的な研究です。

【研究詳細】
この多施設共同国内比較試験は、切除不能中等度進行肝がん患者に対し、TACEとソラフェニブの組み合わせ治療と、TACE単独治療とを無作為化割り付けをして安全性・治療効果を比較検討したものです。その結果、主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)※1は組み合わせ治療群25.2ヵ月に対してTACE単独治療群は13.5ヵ月でした(ハザード比 0.59, p=0.006)。2次評価項目である無増悪期間(TTP)※3は組み合わせ治療群24.1ヵ月に対してTACE単独治療群は13.5ヵ月(ハザード比 0.56, p=0.004)、TACE治療不能までの期間(TTUP)※4は組み合わせ治療群26.7ヵ月に対してTACE単独治療群は20.6ヵ月(ハザード比 0.57, p=0.002)、奏効率※5は組み合わせ治療群が71.3%、TACE単独治療群が61.8%と統計学的に有意な差をもって全ての副次評価項目がTACE単独治療群を上回りました。この効果は臨床的にも大変意義のある差であり、今後、この組み合わせ治療法が切除不能の中等度進行肝がんに対する標準治療として重要な役割を果たすに足る充分な結果であることが認められます。



【今後の展開】
本法は世界の標準治療となり肝がん患者様にとっては非常に大きな朗報となると期待されます。本臨床試験の主要評価項目は無増悪生存期間とともに全生存期間※6も主要評価項目に入れるGate keeping strategyという特殊な解析手法をとっていますが、Gate keeping法のもう一つの主要評価項目である全生存期間の延長を示すことができれば、さらに重要な臨床医学の進歩となる試験結果になるものと思われます。この全生存期間に関しては引き続き予め統計学的に定められた死亡イベントに達するまで臨床経過を追跡いたしますが現時点では良好な結果が得られています。       

【用語解説】
※1■無増悪生存期間 PFS(progression-free survival)
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標であり、試験登録日もしくは治療開始日から病勢増悪もしくは死亡が確認されるまでの期間と定義される。中央値を代表値として表現することが多い。



※2■血管新生因子 VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)など
血管を新しく作る因子。血管新生を促進する作用を持った増殖因子である血管内皮増殖因子(VEGF)は癌細胞などにより産生されることが知られている。癌の進展は第1段階(イニシエーション、不死化)、第2段階(プロモーション、増殖)、第3段階(プログレッション、転移および浸潤)の過程を経る。癌細胞は栄養不足、低酸素状態になると低酸素誘導因子(Hypoxic inducible factor: HIF)-1αが働きVEGFなどを誘導して血管新生や癌の浸潤・転移を促進するようになる。

※3■無増悪期間 TTP (time to progression)
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標であり、試験登録日もしくは治療開始日から病勢増悪までの期間と定義される。中央値を代表値として表現することが多い。

※4■TACE治療不能までの期間 TTUP (Time to TACE Untreatable Progression)
今回の臨床試験で新たに作成したTACEによる増悪(Progression)の基準。試験登録日もしくは治療開始日から、以下のいずれかの基準に該当するまでの期間と定義された。(1)肝臓内標的病変の25%以上の増大、(2)肝機能がChild-Pugh Cという非代償性肝硬変に達した場合、(3)脈管浸潤の出現、(4)肝外転移の出現

※5■奏効率 ORR (Objective Response Rate)
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標であり、治療前の腫瘍サイズに比べ、最大の腫瘍縮小効果(もしくは腫瘍壊死効果)が100%(腫瘍の完全消失もしくは完全壊死)の場合を完全奏効(complete response: CR)と呼び、30%以上の腫瘍縮小効果(もしくは腫瘍壊死効果)が得られた場合を部分奏効(partial response: PR)と呼ぶ。奏効率とは全体集団の中でのCR+PRの症例の割合を表す言葉であり、高ければ高いほど抗腫瘍効果が強いとされている。

※6■全生存期間 OS (Overall Survival)
抗がん剤の治療成績の評価に一般的に用いられる指標。対象となる患者さんの試験登録日もしくは治療開始日から死亡が確認されるまでの期間と定義される。中央値を代表値として表現することが多い。

【工藤(くどう)正俊(まさとし)プロフィール】
生年月日:昭和29年(1954年)2月5日生まれ(63歳)
所   属:近畿大学医学部内科学教室(消化器内科部門)主任教授
学   位:博士(医学)
専   門:肝細胞癌の診断(超音波・CT・MRI)および治療(ラジオ波治療、肝動脈塞栓療法、動注化学療法、分子標的治療、免疫療法)
社会における活動:世界肝癌学会創設理事、アジア肝癌学会理事長、日本肝癌研究会常任幹事・事務局代表、世界超音波医学会前理事長、アジア超音波医学会理事長、日本超音波医学会理事長、日本肝臓学会理事、米国肝臓学会肝癌領域運営委員会委員、日本肝臓学会肝癌診療ガイドライン策定委員会委員

▼本件に関する問い合わせ先
総務部広報室
住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1
TEL:06‐4307‐3007
FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


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