2023年4月25日
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) (リンク »)
ポイント
■ 昼夜を問わず、あらゆる方向の大気中の水蒸気と風を同時観測可能な水蒸気差分吸収ライダーを開発
■ NICT独自のレーザ光の波長制御技術により、高精度な水蒸気観測を実現
■ 豪雨発生場所の予測精度向上に大きく貢献すると期待
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)は、電磁波研究所において、昼夜を問わず、あらゆる方向の大気中の水蒸気と風を同時に観測可能な差分吸収ライダーの開発に成功しました。NICT独自のレーザ光の波長制御技術を使って開発した装置を用いることにより、水蒸気量を誤差10%以下で観測する技術を実証しました。この水蒸気と風の観測値を天気予報の数値予報モデルに取り入れて解析を進めることで、線状降水帯などの発生場所の予測精度向上に大きく貢献することが期待されます。
本成果は、2023年4月24日(月)(米国東部時間)に、米国科学雑誌「Optics Express」に掲載されました。
背景
NICTは、ゲリラ豪雨や線状降水帯など大雨をもたらす気象現象に対する防災・減災を目指し、マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダなど雨を観測する技術の研究開発を進めています。大雨をもたらす気象現象の予測精度向上には、大雨が発生する前の大気中の水蒸気と風の情報が重要です。それぞれに様々な観測装置が開発されていますが、目に安全でないレーザ光を用いる装置は鉛直方向の水蒸気観測に限られることや、昼間の観測においては太陽背景光の影響を受けてしまうことなどが課題としてあり、昼夜を問わず、あらゆる方向の水蒸気と風を同時に観測可能な装置はありませんでした。
今回の成果
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今回開発した水蒸気差分吸収ライダー(図1参照)には、NICTがこれまで培ってきた目への安全性が高い波長2ミクロン帯の赤外線レーザ光を用いているため、任意の方向にレーザ光を射出することが可能です。また、波長2ミクロン帯はライダーに用いられる他の波長帯に比べて太陽背景光の影響が小さいものの、それに加えて、狭帯域な受光システムを用いることにより、太陽背景光の影響を大きく抑制します。これら二つの技術により、昼夜を問わない大気中の水蒸気と風の連続観測を実現しました。
さらに、この水蒸気差分吸収ライダーに、NICT独自のレーザ光の波長制御技術(関連する特許及び論文参照)を組み込むことにより、水蒸気量の多い夏季の実観測において、観測結果がラジオゾンデと良い一致を示すことと、気象予報モデルへのデータ同化に要求される測定誤差10%以下を達成できることを実証しました(図2参照)。また、地表付近の水蒸気と風の水平観測を行い、地上気象観測と良い一致を示す結果が得られました(図3参照)。
水蒸気の観測値を、天気予報の数値予報モデルへデータ同化することで、線状降水帯の予測精度が向上することはこれまでの研究でも示されています。このライダーは、さらに、風の同時観測も可能なため、水蒸気と風を同時にデータ同化することで、線状降水帯の発生位置の予測精度が更に向上することが期待されます。
今後の展望
今後は、水蒸気と風の更なる高精度、高頻度かつ長距離観測のための高出力パルスレーザ開発を行い、このレーザを用いた水蒸気差分吸収ライダーの精度検証を行い、気象予報の精度向上に貢献していきます。また、この水蒸気差分吸収ライダーの社会普及を目指し、安価なシステム開発を行っています。
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図2 (左)水蒸気差分吸収ライダーとラジオゾンデで観測された水蒸気量の比較 (右)16台のラジオゾンデとの比較(色はそれぞれのラジオゾンデのデータに対応する。)
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図3 (上)水蒸気差分吸収ライダーで観測された水平距離ごとの視線方向風速の時間変化
(中)水蒸気差分吸収ライダーと風速計で観測された視線方向風速の比較
(下)水蒸気差分吸収ライダーと地上気象観測装置で観測された水蒸気量の比較
論文情報
掲載誌: Optics Express
DOI: 10.1364/OE.485608
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論文名: Evaluation of a coherent 2-μm differential absorption lidar for water vapor and radial wind velocity measurements
著者名: Hironori Iwai and Makoto Aoki
関連する特許
・特願2021-025706 「波長制御装置、波長制御方法、差分吸収ライダー装置」
関連する論文
・M. Aoki and H. Iwai, "Dual-wavelength locking technique for coherent 2-µm differential absorption lidar applications," Appl. Opt. 60, 4259-4265 (2021).
関連する過去のNICTの報道発表
・2005年5月19日 「波長2ミクロン帯の伝導冷却型レーザで世界最高出力を達成」
(リンク »)
・2008年1月30日 「レーザセンサを用いて温室効果気体CO2の濃度計測に成功」
(リンク ») (リンク »)
・2022年6月29日 「線状降水帯の水蒸気観測網を展開」
(リンク »)
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