レーザー光化学(鈴木正教授)研究室の佐藤輪さん(理工学研究科 理工学専攻 化学コース 博士前期課程2年・掲載当時)の研究成果が米国光生物学会の学術論文誌"Photochemistry and Photobiology"のPhotochem. Photobiol.特集号"Topic of Nucleic Acid Photophysics"に掲載。
【研究概要】
細胞の中には核酸という物質がある。DNAやRNAという言葉はニュースなどで耳にすることがあるかもしれない。これらが核酸である。DNAは遺伝情報を蓄え、またタンパク質を作るためにその情報をRNAにコピー (転写)して受け渡すという重要な役割がある。それを構成しているメインの物質が核酸塩基である。核酸塩基には、アデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシルの5種類しかない(図1)。核酸塩基に化学的修飾をすると新たな性質を付与することができる。例えば、ウラシルの中の水素原子を一つであるフッ素原子(F)に置き換えた5-フルオロウラシルという物質は、抗がん作用があり、実際に抗がん剤として医療に用いられている。この他にも薬効のある核酸、修飾核酸(核酸塩基)がいくつも知られている。
ターゲットにした分子は、5-フルオロ-4-チオウラシルというチオ核酸塩基である。抗がん剤としても使われている5-フルオロウラシルに、さらに硫黄原子(S)を導入した核酸塩基である。チオカルボニル基を含む核酸塩基をチオ核酸塩基と呼ぶ。チオ核酸塩基は通常の核酸塩基とは異なり、紫外光(UVA光)を吸収し細胞死を引き起こすことが知られている。この特異な性質を応用して、光線力学療法(図2)というがん治療の薬剤として使うことはできるのか研究を進めている。
レーザー分光の手法を使って、5-フルオロ-4-チオウラシルの励起状態を詳細に調べ、今まで研究されてきたチオ核酸塩基よりもより多くの活性酸素種(一重項酸素)を生成することを明らかにした(図3)。この研究により5-フルオロ-4-チオウラシルが抗がん剤としての性質を持つことだけでなく、新たに光線力学療法の優秀な薬剤となる可能性を見出した。
佐藤さんの研究に対する興味と探求心、そして絶え間ない努力がこのような成果として実を結び、高く評価され、米国光生物学会の米国光生物学会の学術論文誌"Photochemistry and Photobiology"のPhotochem. Photobiol.特集号"Topic of Nucleic Acid Photophysics"に掲載。
本研究は、本学の田邉一仁教授(理工学部 化学・生命科学科)、西原達哉助教(理工学部 化学・生命科学科)、Yao-Zhong Xu准教授(School of Life, Health and Chemical Sciences, The Open University, UK)との共同研究の成果である。
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