法政大学の島野智之教授と東邦大学の脇司准教授らの研究グループが、絶滅危惧鳥類ヤンバルクイナの羽から、その羽を掃除するウモウダニを発見し新種として記載しました。絶滅危惧鳥類ヤンバルクイナが新種記載されて43年目。学名は「agachi」とし、昔からヤンバルクイナがこの地域で親しみを込めて呼ばれていた名前「アガチ(あわてんぼう、せっかちな人の意)」から命名しました。ヤンバルクイナのウモウダニにこの学名がつくことで、ヤンバルクイナに対する地域での愛称も永遠に残すことができました。本研究は、国際誌「Species Diversity(ISSN 0287-0223)」に2024年4月24日に掲載されました。
【発表のポイント】
1.ヤンバルクイナは、1981年に新種として記載された沖縄島北部の固有種で国指定の天然記念物、環境省レッドリストでは「絶滅危惧IA類(CR)」、IUCNレッドリストでは「危機(Endangered: EN)」となっています。ヤンバルクイナは飛ぶことができないことから、外来種のマングースの捕食などにより絶滅の危機にさらされてきました。現在、さまざまな対策により個体数が回復傾向にあります。
2.ウモウダニは、鳥の羽に付き、その羽の古い油やそこについた菌類やバクテリアなどを食べて生活しています。鳥の生きた血を吸ったり組織を食べたりすることはないことから、一般に鳥の羽の汚れを取る相利共生者と考えられます。
3.研究グループは、2008年から2020年にかけて集められて冷凍保管されていたヤンバルクイナの標本の羽(約300枚以上)を調べました。その結果、ヤンバルクイナにだけ寄生する新種ヤンバルクイナウモウダニ(学名:Metanalges agachi(メタナルゲス・アガチ))を発見し、新種として記載しました。ヤンバルクイナがいなければ、もちろん、ヤンバルクイナウモウダニは生きていくことができません。ウモウダニも同様に(あるいは宿主よりも高いリスクで)、絶滅が危惧されています。
◆発表者名
島野 智之(法政大学自然科学センター/国際文化学部国際文化学科 教授)
脇 司(東邦大学理学部生命圏環境科学科 准教授)
セルゲイ ミロノフ (ロシア科学アカデミー)
中谷 裕美子(NPO法人 どうぶつたちの病院 沖縄)
長嶺 隆(NPO法人 どうぶつたちの病院 沖縄 理事長)
◆発表内容
ウモウダニは鳥の羽に付きますが、体の皮膚を食べたり血を吸ったりすることはなく、その羽についている菌類、バクテリア、ゴミ、そして花粉などを食べて生活します。この点からウモウダニは、鳥の羽のゴミを取り除く相利共生者としてヤンバルクイナの役に立ってきたと考えられます。
ウモウダニにはさまざまな種が知られていますが、特定の鳥の種やグループにしか寄生しないものが多く含まれています。この特性のため、宿主鳥種の個体数が大幅に減ると、その鳥のウモウダニも同様に(あるいは宿主よりも高いリスクで)絶滅が危惧されます。例えば、同様に法政大学の島野智之教授と東邦大学の脇司准教授らの研究グループが研究発表を行なったトキウモウダニCompressalges nipponiae Dubinin, 1950は、トキNipponia nippon(Temminck, 1835)にしかつきません。トキと同様に1属1種で、トキとともに長い間進化を遂げてきたと考えられています。このトキウモウダニは、宿主トキの日本を含む極東個体群(日本、韓国、ロシア南東部)が絶滅したことで、同時に絶滅したと考えられています(現在日本で野生化したトキは中国の個体群由来のため、トキウモウダニはついていません)。
日本の国指定の天然記念物であるヤンバルクイナは、1981年に新種として記載された沖縄島北部の固有種で(図1)、IUCNレッドリストでは危機(Endangered(EN))、環境省レッドリストでは絶滅危惧IA類(CR)となっています。この鳥は脚が発達しており、歩いたり走ったりするのは得意ですが、羽ばたいて飛翔することができません。このため、外来種のマングースなど、人によって沖縄島に持ち込まれた捕食者に襲われたり、交通事故などの危険にさらされたりしてきました。現在、外来種の捕食者の防除、ヤンバルクイナの保護・育成などのさまざまな対策によって、ヤンバルクイナの個体数は回復してきています。
研究グループは、2008年から2020年にかけて保管されていたヤンバルクイナの冷凍標本を調べました。その結果、ヤンバルクイナの羽から変わった形のウモウダニを見つけました(図2)。研究の結果、そのダニの形態はこれまで知られていたどのウモウダニとも異なることが明らかとなったため、新種Metanalges agachi(和名:ヤンバルクイナウモウダニ)として記載されました。学名の「agachi」は、ヤンバルクイナが昔から地元で親しみを込めて呼ばれていた名前「アガチ(あわてんぼう、せっかちな人、の意)」に基づいています。
宿主であるヤンバルクイナがいなければ、ヤンバルクイナウモウダニは生きていくことができません。一般的にウモウダニのような共生生物は、その個体群を維持するためには正常に水平伝搬できる密度の宿主個体群が必要です。それが保たれなければ、宿主よりも先にウモウダニの方が絶滅してしまいます。宿主のヤンバルクイナは、環境省レッドリストに絶滅危惧IA類(CR)で掲載されており、個体群の縮小とそれに続く絶滅が心配されています。このダニもヤンバルクイナと同様に、あるいはそれ以上に、絶滅が心配される生き物といえるでしょう。
生態系そのものは、生き物の命と命が繋がっているということを示しています。不要な生物など生態系には存在しません。絶滅危惧鳥類であるヤンバルクイナが新種として記載されてから43年が経ったにもかかわらず、ヤンバルクイナと共に進化を遂げ、ヤンバルクイナの役に立ってきたウモウダニが、今ようやく見つかって新種として名前がつけられたのです。まだまだ、沖縄の自然(生態系)には見つかっていないたくさんの生き物がいる証です。このような沖縄の貴重な自然を、これからも守っていかなければならないものであることも示しています。
◆発表雑誌
・雑誌名: 「Species Diversity」 (2024年4月24日)
・論文タイトル: A New Feather Mite Species of Genus Metanalges (Acariformes: Analgidae) from the Okinawa Rail, Hypotaenidia okinawae (Gruiformes: Rallidae), in Okinawa Island, Japan
・著者: Tsukasa Waki, Sergey Mironov, Yumiko Nakaya, Takashi Nagamine, and Satoshi Shimano
・DOI: (リンク »)
・論文URL: (リンク »)
▼本件に関する問い合わせ先
法政大学自然科学センター・国際文化学部
教授 島野 智之
メール:sim@hosei.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター (リンク »)
お問い合わせにつきましては発表元企業までお願いいたします。