「クラウドファースト」--今、クラウドありきでIT化を進める考え方が、企業の中に定着しつつある。
ただし、その主眼がITインフラの保守管理コストの削減だけに置かれているとすれば、クラウド化が常に最善の策とは言い切れない。ともすれば、オンプレミスのほうが安上がりで済むという結論に至り、旧態依然のIT環境がそのまま維持されるかもしれない。
しかし、もし企業がビジネス・スピードの向上を強く求めているならば、クラウドは常に最良のソリューションを提供しうる。言い換えれば、ビジネスの俊敏性やイノベーションのパワーを高めることこそ、クラウド化の本来価値であり、その視点から、クラウド化の戦略を立て、クラウド・プラットフォームの良否を判定することが重要と言える。
こうした観点を踏まえ、本稿ではセールスフォース・ドットコムの「Salesforce1 Platform」にスポットを当て、その全容とメリットを3回に分けて掘り下げていく。同プラットフォームは、ITオペレーションの合理化ではなく、ビジネス・イノベーションの実現に主眼を置いたサービスだ。
クラウド化の本来目的は、ビジネスの俊敏性の獲得にある--このシンプルな考え方の下に設計されたセールフォース・ドットコムの「Salesforce1 Platform」。果たしてそれは、いかなるプラットフォームなのか。またそれは、どのようなメリットを利用者にもたらすのか。本連載の1回目は、セールフォース・ドットコムへのインタビューを通じ、その基本的な部分を掘り下げていこう。
セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 ディベロッパープログラムマネージャー 岡本 充洋氏 |
セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアマネジャー 伊藤 哲志氏 |
イノベーションのプラットフォーム
昨年来、セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)は、「Salesforce1(セールスフォース・ワン)」というコンセプトを強く打ち出している。
背景には、M&Aの施策で手に入れた新技術と従来製品との統合化を推し進め、1つのサービス商品--つまりは、「Salesforce1」--として訴求しようとするねらいがある。と同時に、Salesforce1のコンセプトは、CRMを基軸にビジネスを展開してきた同社の次の方向性を示すものでもある。
「世の中がスマートデバイス(モバイル)やIoT(Internet of Things)の時代へと本格的に突入していく中で、セールスフォース自体もビジネスのあり方を変えていかなければならない。その考えが、Salesforce1 のコンセプトの根底にある」と、セールスフォースのマーケティング本部プロダクトマーケティングシニアマネジャー、伊藤哲志氏は説明する。
そんな「モバイル・シフト」を意識したSalesforce1の下、新たに構成されたプラットフォームが、「Salesforce1 Platform」となる。そのため、ときとして、Salesforce1 Platformは単なるモバイル・アプリケーションの開発プラットフォームと誤解を受けることがある。また、「Salesforce1」の冠が付いたモバイル・アプリケーション群(Salesforce1 Application)が、アップルの「AppStore」やグーグルの「Google Play」にアップされていることも、Salesforce1 Platformの位置づけに対する混乱を招いているかもしれない。