クラウドとモバイルが切り開く未来
もちろん、関電システムソリューションズのForce.com採用が、関西電力グループにすんなり受け入れられたわけではない。
「逆に、セキュリティに対する懸念から、Force.com(クラウド・サービス)の利用なぞ、ありえないという意見が大勢を占めていた」と鈴木氏は振り返る。
しかし、ITコストを劇的に下げるうえでは、旧態依然のスクラッチ開発の継続は不可能で、それに固執していては開発の生産性を増すこともできない。また、セールスフォースのサービスは、日本の金融機関や日本郵便を含む多くの企業での導入実績がある。また、関西電力のセキュリティ・ガイドライン上、国外データ保存は許されていなかったが、セールスフォースは2011年に国内にデータセンターを開設しており、ガイドライン面での要件も満たすことができた。
これら種々の実績としての材料を踏まえ、日本の電力会社としては異例とも言えるコスト削減を実現するための手段として、一部業務へのクラウド・サービス活用が、関西電力グループで始まったのである。
実のところ、医療データも国外保存は認められていない。したがって、コニカミノルタのポータルサービスにしても、セールスフォースが国内にデータセンターを保有していなかったら実現されていなかったと言える。また、医療データのセキュリティを担保するために、コニカミノルタのポータルサービスでは、IPsecによる暗号化通信を採用しているほか、ハードウェアルーターやSSL-VPNなど、いくつかのセキュリティ・オプションも用意。それを持って各ユーザーとSLAを結ぶようにしている。

「現場の医師の方々にとって、診断は真剣勝負。いち早く患者の状態や過去のデータを確認することが重要」と、上田氏は語り、こう続ける。
「その意味でも、医師の方々によるサービスの操作時間は短ければ短いほどいい。今のところ、サービスの操作性に対する不満は聞かれていないが、医師の方々による診断・診療をよりスピードアップするようユーザー・インタフェース作りを目指していきたい」
ユーザー・インタフェースの強化と併せて、上田氏は、在宅診療向けITサービスの今後の展開を次のように構想する。
「現在、医療機器のハンドヘルド化・デジタル化が進んでいる。今後は、それらのデータもスマートデバイスに取り込み、Salesforce1 Platformのアプリケーションで解析し、在宅診断を支援していきたい」

一方、関電システムソリューションズの鈴木氏は、スマートデバイス(モバイル)とクラウドによる業務改革の方向性をこう示す。
「モバイルは、PCの代替ではなく、新たな可能性を持った機器で、ウェアラブル化や音声認識機能の高度化など、今後ますます進化していく。それをクラウドサービスの特徴とうまく組み合わせれば、さまざまな業務の効率性を飛躍的に高めたり、業務のスタイルそのものをガラリと変容させたりすることができる。今後もその可能性を追求していきたい」
さらに鈴木氏は、以下のような構想も示す。
「今後の電力小売自由化を見据え、既に200社以上の電力小売事業が乱立する。我々は、それをビジネス・チャンスととらえ、これまでの業務ノウハウを生かしたITソリューションをそれら事業者に提供していくつもりだ。Salesforce1 Platformはそのソリューション・プラットフォームの有力候補の1つであることには間違いない。電力小売事業社は、業界特有のシステムを活用していくことになる。そうしたシステムを早く、安く提供するうえでは、クラウドのサービスが最適なのだ」
一方は電力、一方は医療。上記2社がターゲットにしている業界は大きく異なるが、ともに現場業務の改革を目指し、結果として、スマートデバイス(モバイル)とクラウドのサービス・プラットフォームSalesforce1 Platformの採用・活用に行き着いた。現場視点/エンドユーザー視点の改革を実現するには、この2つの採用が最適解と言えそうだ。

(左から) 関電システムソリューションズ 江守 隆 氏、鈴木 久充 氏、コニカミノルタ 上田 豊 氏