ノークリサーチQuarterly Report特別編3 2012年冬版(Vol 017)
調査設計/分析/執筆: 岩上由高
2012年冬の中堅・中小企業のIT投資指標
株式会社ノークリサーチ(本社〒120-0034 東京都足立区千住1-4-1 東京芸術センター1705:代表伊嶋謙ニ03-5244-6691URL:http//www.norkresearch.co.jp)では中堅・中小市場における第17回目のIT投資実態調査を行った。東日本大震災から一年が経過したが、未だ多くの方が避難生活を余儀なくされ、がれき撤去や放射能除染などの課題も山積している。今回のリリースに際して早期の復興を改めて祈念すると共に、本調査結果が日本全体のIT活用活性化に向けた何らかの一助となれば幸いである。
調査対象企業: 年商500億円未満の国内民間企業1000社の経営層および管理職
調査対象地域: 日本全国
調査対象業種: 組立製造業/加工製造業/建設業/流通業/卸売業/小売業/IT関連サービス業/一般サービス業/その他
調査実施時期: 2012年2月下旬~3月初旬
DI値は前回調査時と比べて全般的に改善、回復基調に乗せるための積極提案が大切
▼2011年11月の停滞状態から抜け出し、IT投資DIは依然マイナスながらも3.3ポイント改善
▼中堅上位企業に対しては業績改善のIT活用に加えて、「ITインフラの見直し提案」も有効
▼全9業種分類中、6業種でIT投資DIは改善、各業種の状況を踏まえたIT活用提案が重要
▼2011年11月の停滞状態から抜け出し、IT投資DIは依然マイナスながらも3.3ポイント改善
以下のグラフはIT投資DIと経常利益DIの変化をプロットしたものである。2011年11月は同8月に見られた回復傾向が急速に進む円高などの影響で停滞する形となった。2012年2月には経常利益DIは若干下降したものの、IT投資DIについては依然としてマイナスながらも改善の動きを示している。次頁以降では年商別、業種別に各DI値の傾向を詳しく見ていくことにする。
[IT投資DIの定義]
今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した「IT投資意欲指数」
[経常利益DIの定義]
前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」
▼中堅上位企業に対しては業績改善のIT活用に加えて、「ITインフラの見直し提案」も有効
以下のグラフは経常利益DIおよびIT投資DIの変化を年商別にプロットしたものである。
経常利益DIについては、年商5億円未満のSOHO/小規模企業で大幅減、年商5億円以上~50億円未満の中小企業および年商50億円以上~100億円未満の中堅Lクラス企業で微減、年商100億円以上~300億円未満の中堅Mクラス企業および年商300億円以上~500億円未満の中堅Hクラス企業で増加となっている。前頁の全体指標における経常利益DIは前回比でマイナスだが、実際にはSOHO/小規模企業の下落が大きく影響しており、中小企業および中堅企業で見れば微減もしくは増加の傾向を示している。
経常利益が増加した理由としては、「自社の販売や受注における数量が増加してきている」や「日本国内の需要が回復してきている」が多く挙げられている。また年商規模が大きくなるにつれて「人件費などの固定費削減施策の成果が出てきている」も増加する傾向にある。雇用という観点で課題は残るものの、国内経済の緩やかな回復と企業の固定費削減努力によって改善の兆しが見え始めた。
経常利益が減少した理由としては「東日本大震災による影響」が依然として多く挙げられることに加え、年商規模が小さくなるにつれて「消費者や企業の節約志向が影響している」の割合が高くなる。消費増税や年金問題などの先行き不透明な状況に起因する個人の消費抑制が規模の小さな企業の業績に提供を与えている状況といえる。
IT投資DIについては年商5億円未満のSOHO/小規模企業を除くと、いずれの年商帯においても改善している。SOHO/小規模企業における減少要因は「現状を維持する以外、特にITに対して投資をする必要はない」が過半数を占め、IT活用ニーズ自体の不在が依然として最大の障壁となっている。他年商帯における増加の要因としては「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」が最も多く、業績を引き上げるIT活用提案を行うことができれば、投資の余地は十分あることがわかる。
また、年商規模が大きくなるにつれて「中長期視点でITコストを削減するため、現システムの変更が必要」や「企業の存続や信頼維持を目的としたセキュリティ対策が必要」も多く挙げられており、中堅上位企業に対しては「既存ITインフラの見直し提案」も有効なソリューションとして検討する価値がある。
▼全9業種分類中、6業種でIT投資DIは改善、各業種の状況を踏まえたIT活用提案が重要
以下のグラフは経常利益DIの変化を業種別にプロットしたものである。経常利益DIについては卸売業、加工製造業、建設業で減少、小売業で横ばい、流通業(運輸業)、サービス業、IT関連サービス業、組立製造業で増加となっている。業種毎の傾向は以下の通り。
卸売業:
経常利益の減少理由としては「震災によって影響を受けた企業からの発注減少」が多く挙げられ、同業種においては東日本大震災の影響が依然として残っていることがわかる。中長期的には取引先の拡大や変更に迅速/柔軟に対処できる受発注システムなどの提案が求められてくる可能性がある。
加工製造業:
経常利益の減少理由としては「原材料高が自社の利益を圧迫している」が多い。イラン核開発問題や各国の金融緩和政策による原油市場への資金流入などによる燃料調達コスト増が影響していると考えられる。こうした状況が長期化すれば、厳しい状況下においても実施可能であり、かつ生産効率を上げることのできるIT活用提案が求められてくると予想される。
建設業:
経常利益の減少理由としては「自社の販売や受注における数量が減少または横ばい状態である」が多い。がれきの撤去も進んでおらず、復興需要が中堅・中小建設業の発注増には繋がっていない現状がうかがえる。
小売業:
経常利益の減少理由としては「消費者や企業の節約志向が影響している」が多く、一方の経常利益増加理由では「人件費などの固定費削減施策の効果が出てきている」が多い。経常利益DIは横ばいだが、経費削減効果による要因が少なくない。節約志向の中でも消費を喚起できる認知や集客にITをどう生かせるか?をユーザ企業と共に模索する取り組みが必要と考えられる。
流通業(運輸業):
経常利益の増加理由としては「自社の販売や受注における数量が増加してきている」が多く挙げられている。だが、経常利益の減少理由において「取引先からの自社に対する値下げ圧力が強い」が他業種と比べて多く、利益率向上に寄与するIT活用提案などが求められる状況といえる。
サービス業:
経常利益の増加理由としては「自社の販売や受注における数量が増加してきている」が多く挙げられているが、経常利益の減少理由においては「消費者や企業の節約志向が影響している」も多く、小売業と同様に節約志向の中でも「差別化できるサービスの提供」という観点においてITをどう生かすか?を引き続き模索している必要がある。
IT関連サービス業:
経常利益の増加理由としては「自社の販売や受注における数量が増加してきている」に加えて、「日本国内の需要が回復してきている」も他業種と比べるとやや多い。データセンタ需要や自治体におけるシステム刷新(クラウド活用など)といった新たな要素が下支えをしている状況と考えられる。
組立製造業:
経常利益の増加理由としては「自社の販売や受注における数量が増加してきている」が多い。経常利益の減少理由としては「タイの洪水に端を発する影響」が他業種と比べて多いが、時間の経過によって経常利益DIをさらに押し下げる状況は回避できている。
以下のグラフはIT投資DIの変化を業種別にプロットしたものである。IT投資DIについては卸売業、組立製造業、建設業で減少し、それ以外の業種では増加となっている。各業種の傾向は以下の通り。
卸売業:
IT投資の減少理由としては「現状を維持する以外、特にITに対して投資をする必要はない」と「IT投資の必要性は感じているが、それだけの資金余力がない」が多くを占めている。だが他業種と比べると「IT投資の必要性は感じているが、何をすべきか判断できない」が多く、ITを提供する側による積極的な提案が求められる状況といえる。
組立製造業:
IT投資の減少理由としては「IT投資の必要性は感じているが、それだけの資金余力がない」が最も多い。経常利益DIの減少は避けられたものの、タイ洪水の影響によって設備投資への取り組みが一時的に停滞している状況と考えられる。
建設業:
IT投資の減少理由としては「現状を維持する以外、特にITに対して投資をする必要はない」が最も多い。中堅・中小の建設業が収益を挙げられない要因の多くは公共事業も含めた案件そのものの減少など、個々の企業による努力では対応しきれないものも多いため、ITによる課題解決というマインドを持ちにくい状況といえる。
加工製造業:
IT投資の増加理由としては「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」が多く挙げられている。他業種と比べて「法改正に起因するシステム投資が必要」という理由が多く、国内外での化学物質/有害物質の取扱いに関する法制度への対応が必要となっている状況がうかがえる。
流通業(運輸業):
IT投資の増加理由としては「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」に次いで、「地震などの自然災害に備えるための事業継続対策が必要」が多い。様々な情報を収集して災害発生時にも輸送経路を確保するなど、新たなIT活用の提案が求められてきている。
小売業:
IT投資の増加理由としては「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」が最も多い。一方、IT投資の減少理由として「IT投資の必要性は感じているが、管理/運用する人材がいない」が他業種と比べて多くなっている。ITスキルや人数が限られた状況においても利用できるソリューションの提供が求められている。
IT関連サービス業:
IT投資の増加理由としては「取引先や顧客のニーズ変化に追随するためのシステム投資が必要」や「中長期視点でITコストを削減するため、現システムの変更が必要」が挙げられ、自社業務を遂行するためのIT基盤整備としての事由が多くなっている。
サービス業:
IT投資の増加理由としては「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」が多く、個々の業態に応じたIT活用提案が求められる。
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