2005年の東北大学に始まり、2012年には東京大学がWeb上での合格発表を開始するなど、近年、Webサイトでの合格発表が広まっています。2013年の入試では、国公立大学169校中(注1)、半数弱の74校(注2)がWeb上でも合格発表を行いました。この背景には、インターネット接続環境の整備といったインフラ面の変化に加え、受験生の利便性確保や、迅速に合格発表を行いつつキャンパスの混雑緩和を図りたい学校側の事情などさまざまな要因があります。学校Webサイトの中で、1年で最もアクセスが集中するのが入試期間といわれています。本稿では、合格発表日のアクセス殺到に対する備えを充分に行い、入試シーズンを安全に乗り切るための方策を紹介します。
■ インターネット合格発表トラブル例
Web上での合格発表は、受験者の居住地に関わらず、合格発表会場に出向くことなく、また時間を問わず入試結果を確認することができる利便性が評価されていますが、一方で個人のブログや掲示板などでは、これにまつわるトラブルも報告されています。たとえば、以下のような事例があります。
① 受験番号一覧の縦横を読み間違えて受験番号を見落とし不合格と勘違いした
② 誤った受験番号が合格者として発表されていた
③ Webサーバーのレスポンスが低下し、正常に表示されるまで数時間を要した
ヒューマンエラーも含めて、トラブルの原因は多岐にわたります。本来、合格発表におけるWeb発表の位置づけは、「受験者の便宜を図るための補助的な手段」と謳われていることがほとんどですが、Webサイト自体が重要な情報発信源としての役割を果たしています。レスポンスの低下やWebサイト自体のダウンは自校のブランドイメージや信用の低下にもつながることから、合格発表のように事前に予想可能なリスクには可能な限りの対策を講じる必要があります。
■ 受験生1名=最大8名の閲覧者
合格発表Webページへのアクセスは、受験生1人あたり最大8名の閲覧者が想定されます。本人と両親、父方と母方それぞれの祖父母、それに塾・予備校を加えて「1+2+2x2+1=8」という計算です。少子化を背景に子供や孫の受験に対する注目度は自然と上がり、入学試験は家族の一大イベントになります。第一志望校の合格発表ともなれば、遠方に住んでいる親族がパソコンやモバイル端末を手に、発表の瞬間を待ち構えているというようなこともあるかもしれません。
さらに、Webサイトのユーザーエクスペリエンスを示す指標が、インターネットの高速回線の普及と共に「8秒ルール」から「3秒ルール」に代わっています。閲覧者がコンテンツの表示を待てる時間はかつての半分以下に短縮されているということです。
調査会社のPhoCusWrightによると、ECサイトでページロードにかかる時間が3秒を超えると、57%の消費者はそのサイトを去るそうです。通常のWebサイトであれば表示を待ちきれない閲覧者は別のサイトに移動しますが、合格発表の場合はそのページでしか情報を得られません。このため、閲覧者が同じページに留まりコンテンツが表示されるまで更新ボタンを連打することが容易に予想され、このリクエスト要求が更なるレスポンス低下を生み出します。
仮想空間に飛び火した受験熱に対応し、事前にWebシステムの可用性確保のための対策を講じている学校もあります。たとえば、Webサイトの冗長化やバックアップサイトによる処理能力の向上、合格発表専用のWebサイトを通常のWebサイトとは別に開設し、受験者には専用ページに直接アクセスするよう誘導することによる通常サイトへのアクセス集中回避や、入試期間中のメンテナンスページへのアクセス制限といった対策です。
■ 合格発表ページの安定稼働に向けて
Webサーバーの可用性向上とサーバーレスポンスの改善を図る手段としては、ロードバランシング(負荷分散)に代表されるアプリケーション配信機能を備えたアプリケーションデリバリーコントローラー(ADC)が有効です。負荷分散を行うことによって、特定のサーバーに集中するアクセス要求に対してパケットの内容を精査するとともに、処理能力に余裕のある別のサーバーに振り分けることが可能になります。これにより、合格発表時のアクセス集中時にもレスポンスの低下やWebサイトのダウンを防止するとができます。
特に、CMS(Content Management System)を導入している場合は、同時接続に注意する必要があります。宮崎大学では、2012年度にWebサイトをCMSに移行し1台のサーバーで運用を行っていまし
たが、合格発表時には1秒間に180件のアクセスがあり、サービスが停止してしまうという問題が発生しました。従来のHTMLベースのWebシステムであれば問題ないアクセス数でしたが、CMSではページ構成が動的なため、トラフィックの急激な増加にサーバーが耐え切れきれなかった事が原因です。
その後宮崎大学では、翌年以降の入試に備え、Webサーバーの構成を見直し、Webサーバーを3台構成に変更すると共にADCを導入しました。ADCでは、「URLスイッチング機能」により指定された
URLの情報をもとに複数のサーバー間で負荷分散を行うほか、万一すべてのサーバーがダウンしたり、処理ができない状態になった場合には「Sorry」ページを表示するという対策を取りました。この結果、2013年3月は1秒間に390件という前年を上回るアクセスがあったにも関わらず、余裕をもって合格発表を乗り切ることができたそうです。加えて、定期的に各サービスのステータスを確認したり、アクセス状況を分析するなど、ADCの導入が運用効率の改善にも役立っているそうです。
また、入学試験のスケジュールはあらかじめ決まっており、アクセスの集中する期間は限定されていることから、ADCの恒常的な導入は初期投資や運用コストの捻出が難しい場合があります。このような場合には、クラウドサービスの利用も有効な選択肢となります。従来であればWebサーバーを所有し、負荷分散環境を自ら構築する必要がありましたが、クラウドサービスによる負荷分散サービスを利用すれば、サーバーリソースを自校で購入する必要はなく、広域負荷分散(GSLB)によるパフォーマンス向上と予想外のトラフィック増への対応も視野に入れた、安定したWebサービスを短期間、低コストで提供することが可能です。
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用語解説
(注1)出典:文部科学省ウェブサイト (リンク »)
(注2)当社調べ
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