数万量子ビットの量子コンピュータでも、現行コンピュータを超える速度で実用アルゴリズムを実行する方法を確立

富士通株式会社

From: PR TIMES

2024-08-28 16:16

エラー訂正に基づく独自計算アーキテクチャの計算規模を大幅に拡大

大阪大学(注1)量子情報・量子生命研究センター(以下、大阪大学)と富士通株式会社(注2)(以下、富士通)は、このたび、量子コンピュータの早期実用化に向けて、共同で開発を進めている高効率位相回転ゲート式量子計算アーキテクチャ(注3)「STARアーキテクチャ」について、位相回転(注4)操作時の位相角の精度を向上させる技術、および量子ビットの効率的な操作手順を自動生成する技術を開発しました。



これらの新技術により、量子コンピュータの計算規模を飛躍的に拡大させ、誤り耐性量子計算(FTQC(注5))で現行コンピュータの計算速度を超えるのに典型的に必要と言われていた規模よりも1桁少ない6万量子ビットを用いて、現行コンピュータで約5年かかる物質のエネルギー推定計算をわずか約10時間で実行可能になることを示し、量子コンピュータの早期実用化への道筋を確立しました。この6万量子ビットは、早ければ2030年頃に実現すると期待されている規模です。

これらの成果は、2030年頃に到来すると予期されるEarly-FTQC時代(注6)において、量子コンピュータが現行コンピュータよりも速く問題を解決できるという量子優位性の実現方法を初めて示すものであり、将来的には電力インフラの送電ロス削減などにもつながる可能性のある、高温超伝導体(注7)開発のためのハバードモデル(注8)のより大規模な解析が可能になるなど、材料開発や創薬などの様々な分野で、技術革新を加速させることが期待されます。今後両者は、「STARアーキテクチャ」をさらに発展させるとともに、世界に先駆けて実用的な量子コンピュータを実現することで、脱炭素化や新規材料の開発コスト削減などの社会課題解決への貢献を目指します。

【背景とこれまでの取り組み】
量子ゲート式の量子コンピュータは創薬や暗号、金融などの分野で現行コンピュータよりもはるかに高速に問題を解けると期待されています。しかし、計算中にエラーが発生しやすいという課題があり、正確な計算を行うためには、大量の量子ビットを使ってエラーを防止する必要があります。そのため、実用的な計算を現実的な時間内で行うためには、典型的には100万量子ビットが必要(注9)と言われていますが、その実現には相当な年月がかかるとされていました。

大阪大学と富士通は、量子情報・量子生命研究センター(Center for Quantum Information and Quantum Biology)内に2021年10月1日に設置した「富士通量子コンピューティング共同研究部門」において、富士通が推進する「富士通スモールリサーチラボ」(注10)の一環としてエラー訂正に基づく量子計算技術の研究開発に取り組み、量子コンピュータの実用化を早める「STARアーキテクチャ」を2023年3月23日に発表しました。この技術は量子コンピュータの基礎的な計算の仕組みを刷新するものであり、量子計算に欠かせない位相回転操作を効率的に実行することで、これまで提案されているFTQCアーキテクチャよりも少ない量子ビットと短い時間で計算を実行できる可能性をもたらしました。

ただし、「STARアーキテクチャ」の実用化には2つの課題がありました。1つ目は、「STARアーキテクチャ」は位相回転ゲートのエラーを訂正しない代わりに精度を高く保つ工夫をしていますが限定的であり、計算可能な規模に限界があること、2つ目は、具体的な計算問題を解く際に、「STARアーキテクチャ」自体の基本的な計算ルールである論理ゲートは明らかになっているものの、その計算問題に適した量子ビットの操作方法である物理ゲートの手順が確立されていないことでした。

これら2つの課題に対し、このたび、大阪大学と富士通は、「STARアーキテクチャ」の位相回転操作時の精度を向上させる技術と、量子コンピュータにおける量子ビットの効率的な操作手順の確立に成功し、計算可能な規模を、実用アルゴリズムを解ける範囲まで拡大しました。これによりEarly-FTQC時代における量子コンピュータの実用化に向けて大きく前進しました。

【位相回転操作時の精度向上:エラー耐性を強化した位相回転技術について】
「STARアーキテクチャ」での計算規模は位相回転操作における位相角の精度で決まるため、精度が落ちないように、エラー耐性を強化した位相角の準備方法を再構築し、エラーを1,000分の1に抑制する新しい位相回転の技術を開発しました。これにより、材料物性計算において1,000倍の計算規模拡大に成功し、これまでこのアーキテクチャでは不可能だった複雑な計算、例えば、将来的には電力インフラの送電ロス削減などにもつながる可能性のある、高温超伝導体開発のための理論モデルであるハバードモデルのエネルギー推定計算が可能になりました。

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【量子ビット操作手順の確立:量子回路ジェネレータの構築について】
また「STARアーキテクチャ」に基づいた、量子ビットの具体的な操作手順を自動生成するシステムである量子回路ジェネレータを構築しました。このシステムでは、量子計算の基本的な操作である論理ゲートから、実際に量子ビットを操作する物理ゲートまでを一気通貫に変換し、さらに量子ビットの操作手順を動的に変更することにより、計算時間を極限まで短くする高速化技術が搭載されています。これにより、「STARアーキテクチャ」を使って様々な計算問題を解くための、具体的かつ効率的な方法が明らかになりました。
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【2つの新技術による効果:実用アルゴリズムにおいて、6万量子ビットで量子優位性が実現できることを試算】
今回の計算規模拡大と量子回路ジェネレータの高速化技術を駆使し、「STARアーキテクチャ」でハバードモデルを計算する際に必要となる量子ビット数と計算時間の分析を行ったところ、6万個の量子ビットがあれば、現行コンピュータが約5年かかる8×8結晶格子ハバードモデルの計算を、わずか10時間で計算実行可能なことが分かりました。これはFTQCで現行コンピュータの計算速度を超えるのに典型的に必要とされていた100万量子ビットに比べると1桁小さく、2030年頃に到来が予期されるEarly-FTQC時代に実現可能な規模です。

より大規模なハバードモデルの計算が解けると、他の解析手法との組み合わせで超伝導物質の電子状態のより詳細な分析が可能になり、高温超伝導体などの産業用材料の開発を加速させることが期待されます。今後はこのアーキテクチャの計算規模をより拡大させるとともに、世界に先駆けて量子コンピュータ実機を用いた、より複雑な材料物性計算や量子化学計算、量子機械学習などの実現を目指します。
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なお、本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェア研究拠点」(JPMJPF2014)、JST ムーンショット型研究開発事業 ムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」 研究開発プロジェクト「誤り耐性型量子コンピュータにおける理論・ソフトウェアの研究開発」(JPMJMS2061)、および、文部科学省 光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)「知的量子設計による量子ソフトウェア研究開発と応用」 (JPMXS0120319794)による助成を受けて行われました。

【商標について】
記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。

【注釈】
注1 大阪大学:
所在地 大阪府吹田市、総長 西尾 章治郎

注2 富士通株式会社:
本店 神奈川県川崎市中原区、代表取締役社長 時田 隆仁
(補足:掲載先メディアや閲覧環境の仕様によっては、「隆」の文字が正しく表示されない場合があります。正しくは、「隆」の「生」の上に「一」が入ります。)

注3 高効率位相回転ゲート式量子計算アーキテクチャ:
“Space-Time efficient Analog Rotation quantum computing architecture (STAR architecture)”
量子コンピュータの実現に不可欠な任意の角度の位相回転に必要な量子ビット数を大幅に低減することで、現行コンピュータの計算性能を超える量子コンピュータの実用化を早めると期待される量子計算アーキテクチャ

注4 位相回転:
量子コンピュータが真価を発揮するために必須とされている、量子ビットの任意の位相角を回転させる操作

注5 FTQC:
Fault-Tolerant Quantum Computationの略語で、量子エラーを訂正しながら誤りなく量子計算を実行すること

注6 Early-FTQC時代:
数万程度の量子ビットしか実装できておらず、誤り耐性量子計算が十分に実現できないと考えられている時代

注7 高温超伝導体:
液体窒素の沸点以上の温度で電気抵抗がゼロになる現象を示す物質

注8 ハバードモデル:
材料物性計算の理論モデルの一つであり、高温超伝導などの強相関電子系の記述に用いられる

注9 典型的には100万量子ビットが必要:
FeMoco(酵素活性中心)のエネルギー推定問題をエラー率0.1%の条件下で解くために必要な量子ビット数を試算した結果(出典: Reiher et al, PNAS, 114 (29) 7555-7560 (2017))から引用

注10 富士通スモールリサーチラボ:
富士通の研究員が大学内に常駐または長期的に滞在し、共同研究の加速、新規テーマの発掘、人材育成および大学との中長期的な関係構築を目指す取り組み

注11 N. Yoshioka, et al., npj Quantum Inf 10, 45 (2024). を参考に作成

【関連リンク】
・大阪大学量子情報・量子生命研究センター
( (リンク ») )
・Fujitsu Quantum
( (リンク ») )
・富士通スモールリサーチラボ
( (リンク ») )
・大阪大学と富士通、誤り耐性量子コンピュータの研究開発体制を強化(2021年10月1日 大阪大学、富士通連名プレスリリース)
( (リンク ») )
・量子コンピュータの実用化を早める新たな量子計算アーキテクチャを確立(2023年3月23日 大阪大学、富士通連名プレスリリース)
( (リンク ») )

【記者会見資料】
2024年8月28日開催
・富士通 説明資料
( (リンク ») )

【本件に関するお問い合わせ】
国立大学法人大阪大学
世界最先端研究機構 量子情報・量子生命研究センター(QIQB)
共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)量子ソフトウェア研究拠点
電話:06-6850-6878 FAX:06-6850-8452
E-mail:coi-next@qiqb.osaka-u.ac.jp

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