現代の企業に必要なのは消費者行動を捉え、
そこにつながるデータ活用
1990 年代にデータ・ウェアハウス(DWH)が登場してから約 30 年にわたり、企業は DWH を中心に据えたデータ活用に取り組んできた。「これにより、『データを DWH に集めて利用する』ということに関してはある程度習熟したものの、それをあるべきデータ活用として実践するまでには至っていません」とアクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部 データグループ日本統括 マネジング・ディレクターの三原哲氏は指摘する。
その背景には、いくつかの要因がある。例えば、消費者行動の変化だ。
スマートフォンや SNS の浸透により、消費行動は大きく変わった。今日の消費者の多くは、スマートフォンで SNS などから得る他の消費者の消費行動で消費意欲を刺激されると、自らもスマートフォンで消費行動を行い、その内容や感想を SNS などを通じて他の消費者に伝播していく。
アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部
データグループ日本統括 マネジング・ディレクターの三原哲氏
「こうした消費者行動を、どれだけの企業が捕捉できているでしょうか。スマートフォン上で行われる消費行動、SNS 上で飛び交う消費者の声など、今日ではすべての消費者行動をデータによって捕捉することができます。それらのデータを使うことで、消費者行動をリアルタイムに把握できるだけでなく、その後に起きる消費者行動を予測し、そこに積極的に働きかけていくことも可能なのです」(三原氏)
データの収集に関する課題もある。消費者行動を捉えるためには、社外も含めてさまざまな場所にあるデータを迅速かつ効率的に集めて活用しなければならない。これまでのように日次の夜間バッチで集めていたのでは遅いのだ。集めるデータの量も膨大であり、予測を超えるペースで規模が拡大する可能性があるため、それに対応できるスケーラビリティも必要だ。
さらに、消費者に積極的に働きかけていくためには、データを企業内で活用するだけでなく、消費者など社外に対してタイムリーに提供していく必要もある。
「消費者が SNS で知りたいと思っている情報を、企業も積極的に提供していくのです。例えば、『あなたと同様の趣向を持った方々はこんなサービスも利用されています』『あなたと同程度の収入を得ている方々はこんなレストランで食事されています』といったリコメンドを提供するといった具合です」(三原氏)
すべての企業が持つべき
「エンタープライズ デジタルツイン」
このように、消費者行動など現実世界を正確かつリアルタイムに捕捉しながら、状況に応じて迅速に対応し、将来に対して正確な予測を立て、ニーズを捉えて新たなサービスを提供していくためのアプローチとしてアクセンチュアが提唱しているのが「エンタープライズ デジタルツイン」だ。
「デジタルツインとは、企業活動や消費者行動などの現実世界をデータによってデジタルに写し取った世界です。その中でさまざまな分析や予測を行い、次に何が起きるのか、それに対して何をどう行うべきかを検討し、その結果をリアルタイムに現実世界にフィードバックしていきます。顧客やパートナーも含めた自社のビジネスエコシステムを “ミラーワールド” あるいは “エンタープライズ デジタルツイン” として再現し、それを使って事業のコントロールや将来予測、サービス提供などを行っていくことが、今日の企業が目指すべき究極のデータ活用だと言えます」(三原氏)
これまで、企業の営業やマーケティング、生産、流通などの各部門は “点と点” の関係に過ぎなかった。エンタープライズ デジタルツインにより、これらの点をデータによってつなぎ合わせることが可能となる。例えば、ある商品に対する消費者の反応を SNS などで測って来週に生産すべき量を予測し、それをサプライチェーンにフィードバックして生産計画を調整するといった一連の仕組みをエンタープライズ デジタルツインとして作り、現実を捉えたデータに基づいて企業活動をリアルタイムにコントロールできるようになるのだ。
アクセンチュアは、エンタープライズ デジタルツインを実現するためのさまざまなコンポーネント(システム機能)を提供しているが、それらを組み合わせて利用するプラットフォームとしてはパブリック クラウドを前提にしている。
「エンタープライズ デジタルツインのプラットフォームには、パブリック クラウドの柔軟性が不可欠です。なぜなら、データレイクや DWH に蓄積するデータは時間の経過やビジネスの拡大とともに増えていきますし、時間当たりの処理量も増加します。それに、初めは小さく始めて投資対効果を見ながら拡大していくスモールスタートのアプローチも必要です。これらに最適なプラットフォームはパブリック クラウドのほかに考えられません」(三原氏)
また、エンタープライズ デジタルツインでは、“データ デカップリング” のアプローチにより、データ レプリケーション技術を用いて基幹システムをはじめとする各システムからデータを取り出してデータハブに蓄積し、活用する。これにより、開発期間を大幅に短縮し、データ活用に専念できるようになるわけだ。