国内大手ITベンダの中堅・中小向けグループ企業再編に関する調査報告
分析および執筆:岩上由高
株式会社ノークリサーチ(本社〒120-0034 東京都足立区千住1-4-1東京芸術センター1705:代表伊嶋謙ニ03-5244-6691URL:http//www.norkresearch.co.jp)は、国内大手ITベンダの中堅・中小向けグループ企業再編に関する調査報告を発表した。
※グラフにつきましては下記URLをご参照ください
(リンク »)
従来から中堅・中小企業を顧客に持つ販社/SIerとの協調関係が成否を握る
▲依然として既存の販社/SIerへの依存状態は続くものの、ユーザ企業側の期待度は高い
▲ユーザ企業では安心/信頼や幅広い提案への期待と、大手であるがゆえの不安が混在
▲既存の販社/SIerは商材の紹介/提供などの実質的なメリットを求めつつも警戒を高める
2009年から2010年にかけて起きた大きな変化の一つがNECや富士通といった国内大手ITベンダにおける中堅・中小市場に向けたグループ企業の再編である。親会社とグループ会社とで役割を明確に分け、中堅・中小市場への訴求力を高めようとする取り組みだ。中堅・中小のユーザ企業や、それらを顧客とする販社/SIerはこうした動きをどのように捉えているのか?本調査はそれをテーマに実施した調査結果のダイジェストである。
調査対象抽出条件:500億円未満の国内民間企業800社の経営層および管理職
調査実施時期:2010年11月
▲依然として既存の販社/SIerへの依存状態は続くものの、ユーザ企業側の期待度は高い
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小ユーザ企業に対し、「国内大手ITベンダの中堅・中小向けグループ企業からIT活用提案があった時の対応」を尋ねた結果を年商別に集計したものである。つまり、国内大手ITベンダのグループ企業が既存の販社/SIerに代わり、中堅・中小のユーザ企業がITを活用する際の主要なパートナとなり得るか?を示したものといえる。
中堅・中小のユーザ企業は既存の販社/SIerへの依存度が高い。そのため、年商5億円未満では約70%、年商5億円以上~500億円未満では40~50%程度が「IT活用における新たなパートナとなる可能性は低い」と回答している。だが、「IT活用における新たなパートナとして検討をしてみたい」とする回答も20~40%程度存在しており、ユーザ企業の期待も決して低くないことがわかる。以下では、中堅・中小のユーザ企業とそれらを顧客とする販社/SIerが国内大手ITベンダのグループ企業再編をどう捉えているか?の調査結果を通じて、ユーザ企業、販社/SIer、ベンダの三者にとってプラスとなる取り組みとは何かを探っている。
▲ユーザ企業側は安心感/信頼感や幅広い提案への期待と大手であることへの不安が混在
以下のグラフは年商500億円未満のユーザ企業に対し、「国内大手ITベンダの中堅・中小向けグループ企業からIT活用の提案を受けた場合にメリットと考えられるもの」(3つまで複数回答可)を尋ねた結果を年商別に集計したものである。「大手ベンダのグループ企業であることでの安心感/信頼感がある」「ハードウェアからソフトウェアまで、トータルでの提案が期待できる」といった回答が目立ち、『規模の大きさからくる安心感や提案の幅広さ』をメリットと感じているユーザ企業が多い。
一方、以下のグラフは年商500億円未満のユーザ企業に対し、「国内大手ITベンダの中堅・中小向けグループ企業からIT活用の提案を受けた場合にデメリットと考えられるもの」(3つまで複数回答可)を尋ねた結果を年商別に集計したものである。「自社の業態/業務について十分理解してもらえない可能性がある」が最も多く、「従来利用していたソリューションに比べて割高になるような気がする」「特定ベンダの商材やサービスへ依存し過ぎてしまう可能性がある」といった回答が続いている。つまり、規模の大きさからくる安心感や提案の幅広さをメリットとして認識しつつ「多くの中堅・中小企業を対象とする結果、自社に固有の業態/業務まで細かく見てくれないのではないか?」「トータルソリューションは歓迎だが、自グループの製品やサービスに提案が偏り、結果的に割高になるのではないか?」といった不安も同時に抱えている状況といえる。ユーザ企業に固有の業態/業務を理解した上でのきめ細かな提案は、これまで地場の販社/SIerが担ってきた役割でもある。地場の販社/SIerの持つきめ細かさと国内大手ITベンダとそのグループ企業が持つ「規模のメリット」をうまく使い分けることができれば、中堅・中小企業のIT活用にも大きな進歩が期待できる。だが、「従来取引のあった販社/SIerとの使い分けが難しくなる」という回答が20%弱存在することからもわかるように、ユーザ企業が自ら判断をして使い分けるという形は難しいと考えられる。両者のメリットをうまく融合するためには国内大手ITベンダの中堅・中小向けグループ企業と地場の販社/SIerが協調してユーザ企業に接するスキームが必要となる可能性が高い。
▲既存の販社/SIerは商材の紹介/提供などの実質的なメリットを求めつつも警戒を高める
以下のグラフは中堅・中小企業を主な顧客とする販社/SIerに対し、「国内大手ITベンダの中堅・中小企業向けグループ企業再編が自社にもたらすメリット」(3つまで複数回答可)を尋ねた結果を業態別に集計したものである。
業態1: 直販型ISV、二次販社、SIer(ユーザ企業に対し、システム構築/運用の提案を直接行う立場)
業態2: 間接販売型ISV(システムの開発/提供を行うが、ユーザ企業とは直接接することが?ない立場)
業態3: 一次販社、IT機器卸売業(IT関連商材の流通を担う立場)
「再編された企業に自社が持たない機能(運用/保守など)を補完してもらえる」、「再編された企業から新たな商談を紹介してもらえる可能性が高くなる」、「再編された企業を通じて自社の製品/サービスを拡販することができる」、「再編された企業が提供する商材/サービスを再販する機会を得られる」といった回答が目立つ。中堅・中小のユーザ企業におけるIT投資抑制が続く中、それらを顧客とする販社/SIerが新たな顧客獲得や商材の拡大に自ら取り組むことは容易ではない。そうした状況がビジネスにおける具体的な商材や商談のやりとりを期待する要因の一つになっていると考えられる。一方、「再編された企業から販売時における支援/サポートが受けられる」、「再編された企業から運用/保守時における支援/サポートを受けられる」「製品/サービスの調達/取扱いにおける契約条件などが緩和される」といった間接的な支援のニーズは低く、商流上の優遇策は必ずしも販社/SIerとのパートナシップ強化に有効とはならない可能性がある。
また業態1や業態2では「特にメリットは感じられない」とする回答も30~40%程度存在しており、この状態のまま同一の顧客に双方がアプローチすれば互いに競合関係に陥る恐れもある。これらは独立性の高い販社/SIerである可能性が高く、こうした販社/SIerをうまく巻き込んでいくことが国内大手ITベンダのグループ企業にとっては重要な課題の一つになってくると推測される。
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