2011年5月26日
ノークリサーチQuarterly Report特別編2
調査設計/分析/執筆: 岩上由高
東日本大震災に関する調査結果報告その2
中堅・中小企業における震災に起因した新たなIT活用ニーズについて
株式会社ノークリサーチ(本社〒120-0034 東京都足立区千住1-4-1 東京芸術センター1705:代表伊嶋謙ニ03-5244-6691 URL:http//www.norkresearch.co.jp)は、東日本大震災が中堅・中小企業に与える影響についての包括的な調査を実施した。本リリースはそのうちの「中堅・中小企業における震災に起因した新たなIT活用ニーズ」に関する結果をまとめたものである。
調査対象企業: 年商500億円未満の国内民間企業1000社の経営層および管理職
調査対象地域: 東日本大震災の被災地を含めた日本全国
調査対象業種: 組立製造業/加工製造業/建設業/流通業/卸売業/小売業/IT関連サービス業/一般サービス業/その他
調査実施時期: 2011年5月
※図表につきましては下記URLをご参照ください
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節電対策を起点とし、平常時にも何らかの効果が得られるソリューション提案が重要
▼震災に起因する新たなIT投資に最も深く関係するのは電力供給の不足
▼状況によってはIT投資の見直し/変更をする企業が3~4割弱に達する
▼災害時だけでなく通常業務でも効果のあるITソリューションが求められる
▼既存システム構成を維持した節電対策が主体だが、ニーズは多種多様
【回復への最重要事項】震災に起因する新たなIT投資に最も深く関係するのは電力供給の不足
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業1000社に対し、「東日本大震災による経済環境の悪化が回復するために最も重要な事柄」を尋ねた結果である。消費マインドの低下につながる原発事故の一刻も早い収束に次いで、電力の安定供給が企業活動にとって極めて重要であることがわかる。逆にいえば、今夏にも予想される電力供給の不足に備えることが必須であり、震災によって生じたIT投資の変化についても再度実施されるかも知れない計画停電への備えが主体となってくる。その際の企業の取り組み状況は年商/業種といった通常の分析軸に加え、「電力会社の管轄地域」という視点が必要となる。そこで、次頁以降の分析結果では以下のような電力会社の管轄地域別の集計結果も取り入れている。
東京電力の管内: 群馬、栃木、茨城、埼玉、東京、千葉、神奈川、山梨
東北電力の管内: 青森、秋田、山形、岩手、宮城、福島、新潟
中部電力の管内: 長野県、愛知県、静岡県、岐阜、三重
関西電力の管内: 京都、大阪、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、
北陸電力の管内: 富山、石川、福井
中国電力の管内: 広島、山口、島根、鳥取、岡山
四国電力の管内: 香川、徳島、愛媛、高知
九州電力の管内: 福岡、長崎、大分、佐賀、宮崎、熊本、鹿児島
北海道電力の管内: 北海道
沖縄電力の管内: 沖縄
※一つの県が複数の管轄地域に跨る場合もあるが、その際は最も広く含まれる管轄地域に分類している。
【管轄地域別の傾向】状況によってはIT投資の見直し/変更をする企業が3~4割弱に達する
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業1000社に対し「東日本大震災が2011年5月以降のIT投資に影響を与えるかどうか」を尋ね、その結果を電力会社の管轄地域別に集計したものである。計画停電を既に経験し、オフィスの規模も比較的大きい東京電力管内は「IT投資の大幅な見直しに迫られている」ないしは「IT投資項目の幾つかに変更が生じる」といった回答が最も多くなっている。同じく計画停電が実施された東北電力管内や、浜岡原子力発電所の停止によって今夏の電力不足が懸念される中部電力もIT投資への影響が見受けられる。また、中部電力への電力融通や原子力発電所の点検を控えている関西電力管内も無関係ではなく、電力供給不足に起因するIT投資の見直し/変更の意向は中国/四国/九州/沖縄を除いた地域で2割弱存在していることがわかる。
以下のグラフは上記の設問において「影響はあるものの、震災前のIT投資をそのまま継続する」と回答した企業に対し、その理由を尋ねた結果である。「計画停電や節電対策の必要性を踏まえてから判断したい」とする回答が5割弱で最も多くを占めている。つまり、東北/東京/中部/関西/北陸の各電力会社管轄地域で2割弱存在している「震災前のIT投資をそのまま継続する」という現状維持派の半数弱は今後の電力供給状況によっては節電対策などを目的としたIT投資へ踏み切る可能性がある。その際には同地域でのIT投資の見直し/変更に取り組む企業の割合は最大で前述の2割弱から3割弱(東京電力管轄地域では最大で4割弱)へと増えることになる。
いずれにしても、今後の電力供給状況や節電対策の必要性が、中堅・中小企業におけるIT投資の変更/見直しの是非を大きく左右すると予想される。ITソリューションを提供する側としては、これらの状況を注視しながら中堅・中小企業の取り組み状況を逐次把握しておく必要がある。
【IT投資で重視する事柄】災害時だけでなく通常業務でも効果のあるITソリューションが求められる
以下のグラフは「東日本大震災を踏まえた今後の災害対策や節電対策などに関連したIT投資の取り組み状況」を尋ねた結果を電力会社の管轄地域別に集計したものである。(中国/四国/九州/沖縄は現状維持が多くを占めているため割愛している)
「予算を確保した上で既に実施に取り組んでいる」と「予算を確保した上で具体的に取り組んでいる」を合わせた結果では東京電力の管轄地域が突出しており、社数の絶対数も多い。この結果を踏まえると、災害対策や節電対策に関連したIT活用への取り組みは東京電力の管轄地域が主体になるものと予想される。
以下のグラフは「東日本大震災を踏まえたIT投資を実施/検討する際に重視する事柄」を尋ねた結果である。「災害時のみならず、通常業務においても業績改善やコスト削減の効果を得るようにしたい」が最も多い。災害対策に限定されたものではなく、平常時にも何らかの効果が期待できるソリューションが望まれているといえる。
だが、二番目には「想定外の支出であるため、対策が不十分であっても可能な限り費用を抑えたい」が挙げられている。中堅・中小企業はIT予算が限られているため、喫緊の課題に際しては初期投資の費用のみに着目した場当たり的な投資を行ってしまいやすい。ソリューションを提供する側としては初期費用だけでなく、運用/管理のコスト(ユーザ自身が行わなければならない各種作業も含めて)を明示し、ユーザ企業がIT投資の妥当性判断を正しく下せるように支援することが極めて重要である。その時点では導入に至らない提案であったとしても、ユーザ企業の立場を尊重した提案活動を行った事実はユーザ企業の記憶に残る。中長期的に良好な関係を築くためにも、震災の突発的なニーズに端を発した不完全なソリューションの提案は避けた方が無難である。
次頁では中堅・中小企業が震災に関連して新たに実施/検討もしくは関心を寄せているIT活用項目について具体的に分析している。
【新たなIT活用項目】既存システム構成を維持した節電対策が主体だが、ニーズは多種多様
以下のグラフは「東日本大震災を踏まえて新たに実施/検討または関心のあるIT投資項目」を尋ねた結果である。IT投資の見直し/変更の有無については電力会社の管轄地域が重要な分析軸であったが、実際にどのようなIT活用が新たに検討されているのかという点については企業規模である年商が重要となってくる。以下ではIT投資項目別に下記データから得られるポイントを記述する。
[機器設定や運用ルールの変更による対処]
節電対策としては最もコストがかからないため、各年商帯でも上位に挙げられている。注意すべきなのは企業規模が大きくなるにつれて、この選択肢を挙げる割合も高くなっている点である。PC台数の多い高年商企業の方がコスト負担が大きくなるため、特に一次的な節電対策という観点では追加投資を伴わないこれらの対策を優先しやすくなるものと考えられる。
[ハードウェア関連の投資]
電気料金が値上げされる可能性も加味した恒久的な節電対策と災害時の停電対策を併せて実施するという観点では低消費電力機器への入れ替えと電源装置の設置などといった取り組みが多く挙げられている。全体としてデータセンタやクラウドへの移行よりも、手元にある機器を堅牢にする対策が多く挙げられており、既存システムへの影響度が低い対策が選ばれていることがわかる。
[データバックアップやディザスタリカバリ]
年商が下がるにつれてデータバックアップを挙げる割合が高くなっている。これは潜在的に常に存在しているデータバックアップのニーズが震災によって喚起されたものと見ることができる。ただし、事業継続という観点ではデータバックアップだけでは不十分であることも多く、目的や費用対効果を明確にしておくことが重要である。一方で、遠隔地にも業務システムの複製を設ける本格的なディザスタリカバリに新たに取り組む企業は1割程度に留まっている。
[取引先/販路の変更への対処や連絡手段の確保]
取引先/販路の変更対応やスマートフォンやソーシャルサービスによる連絡手段の確保といった災害発生時への備えについては年商帯においても割合が低く、中堅・中小企業は節電対策とデータ保護に主眼を置いていることがあらためて確認できる。
[データセンタやクラウド事業者の活用]
社内設置システムをデータセンタやクラウド事業者へ預けるという対策は年商50億円以上の中堅企業では15~20%程度挙げられており、とり得る選択肢の一つとなっている。ただし、「停電が発生しない自社の他オフィスへシステムを移転」という回答も同程度あり、データセンタやクラウド事業者への委託には中長期的なメリットが伴うことが必要と考えられる。既存アプリケーションのSaaS/クラウドへの切り替えについては通常時と同様に「現在と同じアプリケーションであること」をより望む傾向が見受けられる。また、既存のデータセンタやクラウド事業者からの見直し需要はそれほど高くない。
[サーバ仮想化技術の活用]
サーバ仮想化による消費電力削減や対障害性の強化は年商50億円以上の中堅企業で10~25%程度挙げられている。
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