キリンホールディングス株式会社(社長 磯崎功典、以下キリン)と花王株式会社(社長 長谷部佳宏、以下花王)は、和歌山県立医科大学(理事長・学長 宮下和久)が主宰し、NPO法人ヘルスプロモーション研究センター(理事長 有田幹雄、以下HPRC)が取りまとめているコホート研究※2「わかやまヘルスプロモーションスタディ」に参画し、2022年11月から内臓脂肪と、免疫の司令塔(プラズマサイトイド樹状細胞、以下pDC※3)の活性※4について、その関連を調査する研究を共同で実施しました。
近年、肥満がウイルス感染症の重症化につながる※5など、肥満と免疫の関連性が注目されており、本研究では、内臓脂肪と免疫活性の関連性を調査しました。内臓脂肪が多いとpDC活性が低い(免疫機能が低い)こと、また、内臓脂肪が多く、かつpDC活性が低いと、新型コロナウイルス感染症・インフルエンザの罹患リスクが高いことを日本で初めて※1確認しました。この事実は世界でもまだ論文報告されていない※6発見です。今回の研究成果は、宮城県で開催される第44回日本肥満学会・第41回日本肥満症治療学会学術集会(2023年11月25日(土)・26日(日))で発表します。
※1 PubMed及び医中誌Webに掲載された論文情報・抄録情報に基づく
(2023年11月22日現在 「pDC活性×内臓脂肪×感染症罹患」で検索 ナレッジワイヤ調べ)
※2 疾病の要因と発症の関連を調べるための観察的研究の手法のひとつ。
特定の疾病要因に関わっているグループと無関係のグループを作り、それぞれの
グループの中での対象疾病発生率を算出することで、要因と疾患発症の関連性を調べることが可能。
※3 細菌やウイルスが体内に入ってきたときに重要な働きをする司令塔役の免疫細胞。
pDCが活性化することによって、NK細胞やT細胞、B細胞などさまざまな免疫細胞が
活発に働きウイルス感染から防御する。
※4 ウイルス感染を模した刺激を与えた際の抗ウイルス因子をつくるpDCの割合
※5 Ghilotti F et al. J Epidemiol. 2019; 48(6): 1783-1794.
Popkin BM et al. Obes Rev. 2020; 21(11): e13128.
※6 PubMed及び医中誌Webに掲載された論文情報に基づく
(2023年11月22日現在 「pDC活性×内臓脂肪×感染症罹患」で検索 ナレッジワイヤ調べ)
■共同研究成果(概要)
[画像1: (リンク ») ]
<日本初※1となる発見>
1.内臓脂肪が多い人では、pDC活性が低いことが認められた。
2.内臓脂肪が多く、pDC活性が低い人は、そうでない人と比較し、
新型コロナウイルス感染症・インフルエンザに罹った割合が高かったことを確認した。
<得られた示唆>
内臓脂肪量が少ない状態を保ち、pDC活性を高く維持することが、新型コロナウイルス感染症・インフルエンザへの罹患リスクの低減につながることが示唆された。
キリングループは、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定し、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV※7先進企業となる」ことを目指し、人々の健康に貢献していく「ヘルスサイエンス事業」の育成を進めています。キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します。
※7 Creating Shared Valueの略。お客様や社会と共有できる価値の創造。
花王は、2019年4月にESG戦略「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」を策定しました。また、2021年からは、「未来のいのちを守る~Sustainability as the only path」をビジョンに掲げた中期経営計画を推進しています。今後も、経営にESGの視点を導入し、事業の発展と、消費者や社会へのよりよい製品・サービスの提供をめざし、パーパスである「豊かな共生世界の実現」に向けて取り組んでいきます。
キリンと花王は、両社の研究力を掛け合わせ、人々が健康に暮らせるためのさらなる健康価値の探索を続けていきます。
■共同研究成果について
<背景・目的>
肥満は、世界保健機関(WHO)によって「異常あるいは過度の脂肪の蓄積により健康リスクが高まった状態」と定義されており、慢性疾患のリスク上昇につながります。肥満が健康にもたらす影響については、世界各国で研究が進められていますが、近年、肥満はウイルス感染症の重症化につながる※8など、肥満と免疫の関連性が注目されています。
当研究は、2011年から和歌山県在住の方を対象に行われている「わかやまヘルスプロモーションスタディ」の一環として実施しました。生活習慣病に関連が深いとされる内臓脂肪型肥満の研究に長年取り組んできた花王と、免疫領域での研究を35年以上続けてきたキリンが共同研究を行うことで、内臓脂肪とpDC活性の関連の解明をめざすものです。
※8 Pranata R et al. Clin Nutr ESPEN. 2021; 43: 163-168.
<わかやまヘルスプロモーションスタディとは>
和歌山県の地域住民を対象として、各種疾患の発症に関わる遺伝および環境要因を明らかにすることを目的として、2011年から和歌山県立医科大学が主宰し、現在はHPRCと共同で進めているコホート研究です。
これまでは生活習慣や生活習慣病と筋肉量に関する研究を進め、筋肉量の減少と動脈硬化の発症の関係や転倒歴と自発運動量の関係など、いくつもの成果を見いだしてきましたが、免疫機能に関する研究を行うのは今回が初めてです。
キリンと花王は、わかやまヘルスプロモーションスタディを通して内臓脂肪量とpDC活性の関連を明らかにすることで、将来的に、お客様の健康リスク低減を目指した取り組みを進めていきます。
<研究方法>
2022年11月に和歌山県にて、50~55歳の住民223名を対象とした特定健診を実施し、花王が生活習慣や内臓脂肪面積のデータを取得し、キリンが血液中のpDC活性に関するデータを測定しました。それらのデータを相互に共有し、内臓脂肪とpDC活性の関わりを共同で研究・解析しました。群分けは次のように行いました。
内臓脂肪面積について:全被験者の中央値である77cm2を基準とし、77cm2以下の人を内臓脂肪が低い群、77 cm2より多い人を内臓脂肪が高い群としました。
pDC活性について:全被験者の中央値である9.52%を基準とし、9.52%以下の人をpDC活性が低い群、9.52%より多い人をpDC活性が高い群としました。
<結果>
結果1.:内臓脂肪面積とpDC活性の関係性
内臓内臓脂肪面積とpDC活性の関係性を調べた結果、内臓脂肪面積値が高い群は、低い群と比較して、有意にpDC活性が低いことがわかりました(図1)。
[画像2: (リンク ») ]
結果2.:内臓脂肪面積とpDC活性が、感染症の罹患に及ぼす影響
内臓脂肪面積値が高い群は、低い群と比較して、オッズ比※9として7倍高く、新型コロナウイルス感染症に罹患していました。一方で、pDC活性の値が低い群は、高い値の群と比較した場合、オッズ比として5倍高く、新型コロナウイルス感染症に罹患していました。
さらに、内臓脂肪面積とpDC活性の高低による相乗効果を確認することを目的に4群に分けて解析したところ、内臓脂肪面積値が高く、pDC活性の値が低い群は、内臓脂肪面積値が低く、pDC活性の値が高い群と比較して、オッズ比として20倍高く、新型コロナウイルス感染症に罹患していました。同様の結果が、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの両方の罹患との関係でも確認できました。
※9 オッズ比は、ある事象の起こりやすさを表す際に用いられる値のこと。
オッズ比が大きい場合、その値と起こりやすさは正の相関を示す。
[画像3: (リンク ») ]
[画像4: (リンク ») ]
<共同研究成果>
本共同研究により、内臓脂肪面積値が高い人では、pDC活性が低いことが、日本で初めて※1わかりました。また、内臓脂肪面積やpDC活性はそれぞれ、新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの罹患しやすさに影響を及ぼし、内臓脂肪面積値が高く、かつpDC活性が低い場合は、罹患が特に起こりやすいことが示唆されました。
このことから、内臓脂肪面積値が高く、pDC活性が低い人は、内臓脂肪量と免疫機能の両方をケアすることが重要である可能性があります。
プレスリリース提供:PR TIMES (リンク »)
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