この数年で生成AIが急速な広がりを見せるなか、現在ビジネスシーンではAIエージェントに対する注目度が急速に高まっている。AIエージェントの活用で何が変わるのか、どう活用していけばよいのか、現在多くのビジネスパーソンが模索しているところだろう。7月10日に開催されたオンラインイベント「ZDNET Japan AI fluency Conference」に、アトラシアン エグゼクティブプロダクトマーケティングストラテジスト 渡辺隆氏が登壇。「『組織としての生産性』を高めるAIエージェントと生成AIの活用法」をテーマにセッションを行い、企業がAIエージェントにどのように向き合っていくべきか解説した。

アトラシアン株式会社 エグゼクティブプロダクトマーケティングストラテジスト 渡辺 隆 氏
AIエージェントの導入で期待できる
3つの効果と活用時のポイント
AIエージェントは、AI技術を活用して自律的にタスクを実行するソフトウェアである。特徴としては、生成AIのようにテキストや画像などを生成するのではなく、①「ユーザーの指示やあるイベントをトリガー」として、②「複数のサービスやAIエージェントと連携」し、③「要求されたタスクを自動的に実行して、目標を達成するまでを支援」するという部分が挙げられる。現在、多くの業務系デジタルツールにAIエージェントの実装が進んでいる状況だ。
AIエージェントに期待できる効果としては、次の3点が挙げられる。
1つ目は、「業務の効率化」。AIエージェントを活用することで従来人がこなしていた複雑な業務をソフトウェアが実行してくれるようになり、ミスが大幅に削減される。
2つ目は、「リソースの最適化」。24時間365日稼働するので、その分社員のリソースを再配置できる。
3つ目は、「イノベーション」。生成AIと同様に、企業がイノベーションを起こすためにサポートをする存在として期待ができる。
このAIエージェントを、企業ではどのように使っていくべきか。例えば、出張時に上司に申請をして新幹線やホテルの予約をするようなエージェントの使い方も現在のテクノロジーでは実現はできるだろう。ただそれでは特定の社員の業務効率化にとどまり、AIエージェントの潜在能力を最大限引き出せているとはいえない。そういった個別のプロセス最適化に活用するよりも、全社員が活用する問い合わせ業務などの会社にとって「インパクトが大きい業務領域」や、レポートの作成や営業ストーリーの作成といった「定型的だが複雑な処理」、さらにブレストなどの「イノベーション支援」のように、より複雑・高度な業務で活用すべきである。
そのような目的のもとでAIエージェントを企業内で利用する際には、社内に散在しているデータ、特に「非構造化データ」をどのように戦略的に管理し、活用するかが重要になる。非構造化データとは、RDB(リレーショナルデータベース)に格納されていない、ITやマーケティング、営業の各部門で活用されている独自のデータであり、ビジネスに関する貴重なナレッジも多く含まれている。
ただし非構造化データを活用するにあたっては、それぞれが別々のフォーマットで別々の場所に散在しているという問題が立ちはだかる。例えば、複数のクラウドサービスに保管されたデータや、SlackやTeamsでチャットのやり取りの過程で添付されたファイルの中から必要かつ十分なデータを検索することは難しい。営業のナレッジに至っては、属人的に管理されているケースも少なくない。生成AIやAIエージェントを高い精度のもとで活用するためには、そういった非構造化データやナレッジをいかに活用できるようにするかがポイントになる。
企業内の非構造化データを集約し
役割に応じたエージェント機能を提供
そのような問題がある中で、アトラシアンでは会社の非構造化データを集約し、それを活用できる仕組みを作るための枠組みを提供する。
例えばプロジェクト管理製品では、IT系であればバグの一覧、マーケティングであればキャンペーンの管理や新製品のローンチプラン、営業であればミーティングメモやアカウントプランの作成、開発プロジェクトであればプロジェクト憲章といった具合に、それらを全てアトラシアンのクラウドプラットフォームの中で一元的に管理できるようになっている。
そして製品には、役割に応じた「エージェント」が提供されている。会議の中から洞察を出す、顧客とのミーティングのインサイトをとる、自分が作ったコードをレビューする、システム運用でインシデントが起きた時のトリアージをサポートするなど、役割に応じて最適化されたすぐに使えるエージェントが含まれているのが、アトラシアンの特徴である。
実際の利用イメージを見ると、例えばIT部門で発生する問い合わせ業務の場合、社員がPCにログインできないケースでは、Slackで問い合わせをすると、エージェントがPCにログインできない場合の解決策をドキュメントから参照してユーザーの画面に表示する。それでもログインできない場合、人がそこにアサインされる形となる。これはIT部門だけでなく、人事や総務、法務、など問い合わせを受けて処理をする幅広い部門で活用することができる。
また、アイデア出し・ブレストのケースでは、例えばマーケティング部門がイベントを実施し、その後どうフォローをすればクオリティが高いリードを獲得できるのかを話し合う場合、「ホワイトボードエージェント」に質問を投げると、AIが効果的なリード発掘のアイデアを提示し、リードをどのようにセグメンテーションしていくかについて複数の案を提示してくれる。成功事例や関連質問も出てくるため、メンバーはそれらの回答をたたき台として、どんどんアイデアを膨らませていくことができる。エージェントは、新規事業を起こす際や営業戦略の立案などでも活用できる。
企業内の全てのチームに対して、ナレッジの蓄積と活用、タスク管理、すぐに使えるAIエージェント、そして動画による非同期コミュニケーションをオールインワンで提供するAtlassian Teamwork Collectionが今年4月に発表された。
リーダー層主導のもとで
戦略的なAIコラボレーターを育成せよ
こういった形でAIエージェントやそれを実装したデジタルツールを活用するとどのような成果が見られるのか。まずは、アトラシアンの研究機関が2024年11月に豪州、米国、インド、ドイツ、フランスで約5千人のナレッジワーカーを対象に実施した、AIの利用に関する調査結果を紹介したい。そこでは、AIの活用レベルを、AI未使用をステージ0として4までのステージ、3つの利用レベルに分類して質問を行っている。
注目すべきは、ステージ3と4の「戦略的なAIコラボレーター」と括られた人たちの仕事の仕方である。分析したところ、そのポジションに属する層はAIを活用して労力に対するROIを2倍にしているという結果が示されたほか、AIとともに働くことによって1日に100分以上の節約、週5日労働でおよそ1日分の労働時間を削減できたという結果が出ている。つまりAIやAIエージェントは、ステージ1・2の単純なユーザーレベルではなく、戦略的なコラボレーターとして活用することによって劇的な生産性向上を実現している訳である。

企業としてそのようなAI活用の成果を享受するためには、マネージャークラス以上のリーダーシップが重要になる。より具体的に表現すると、「リーダーが実験を受け入れていく」ことが大切だ。AIは進化のスピードが激しいため、企業がうまく採用するためには実装実験を重ねていくことが重要になる。リーダーが実験を受け入れ、AIを試したり学んだりするように動機付けをすれば、社員がAIの戦略的コラボレーターになる可能性が高まり、個々の能力をより早く伸ばすことができる。実際に同調査では、「リーダーがAIの実験を推奨している」と回答した人は、そうでない人に比べて生産性が高い(55%時間を節約)という結果が出ている。
企業がAIエージェントや生成AIを活用して高い成果を上げるためには、個人としてどう活用するかを模索するのではなく、組織としていかに活用の文化を育んでいくかが重要になる。アトラシアンの製品には、開発者、運用担当者、マネジメント、全ての社員など、役割に応じたAIエージェントが組み込まれ、非構造化データを効率的に管理する仕組みも用意されている。そこにリーダーの強い意識を重ねて戦略的なAIコラボレーターを育成していくというシナリオが、企業におけるAIエージェント実装および最適活用の最短ルートといえるだろう。

