現在、出版物や音楽、動画、記事などのコンテンツを届けるコンテンツビジネスの世界が様変わりしつつある。コンテンツ事業者と消費者の関係性は、従来の流通プラットフォームを通じた一方通行型から、オウンドメディアや配信プラットフォームサービス、SNSなどを介してダイレクトかつ双方向な形へと変化を遂げている。テクノロジーの進化に伴って、趣味嗜好を解析したレコメンデーションなど、サービス提供者からの積極的なアプローチが可能となり、ファン化の要素を加えた新しいビジネスに注目が集まっている状況だ。
2023年4月26日に、株式会社コンテンツデータマーケティング(以下、CDM)、朝日インタラクティブ株式会社共催によるオンラインイベント「Uniikeyz of the Day act.1 コンテンツビジネスは『IDx※』で次の時代へ」が開催され、コンテンツ×ファンビジネスを展開する企業とシステムベンダーが登場、ビジネスインパクトについて語った。ここでは、コンテンツ×ファンビジネスに必要な要素と、それらを実現するためのバックエンドのテクノロジーを、technical sessionの中から抜粋して紹介する。
※IDx:IDを集積し、利用すること
D2C時代のECインフラ3つの柱とは
コンテンツ×ファンビジネスやコンテンツマーケティングを展開する際に必要となるのが、サービス提供者が消費者、つまりファンと直接繋がりを持つことができるD2C(Direct to Consumer)の仕組みである。
D2Cビジネスでは、ECモールを通さずに自社のECサイト上で直接自社製品を販売する販売方式を採るが、従来の直販ECとは異なる側面を持つ。スカイアーチネットワークス マーケティング部 サービス企画課 シニアエキスパート 安藤祐輝氏はD2Cの特徴として、「SNSによる認知の拡大とデータの活用」を挙げる。
株式会社スカイアーチネットワークス
マーケティング部 サービス企画課 シニアエキスパート
安藤 祐輝氏
「一般的な直販ECの場合、事業者がマーケットプレイスや自社サイト、SNSをそれぞれ個別に管理している。D2Cはデータ解析に注力し、ネットショップとプロダクト、SNSがシステム全体でブランディングされている。さらに顧客がSNSを使う事を前提としており、SNSでの拡散で認知にレバレッジをかけていく。それによって共感ベースで継続的な購入を狙ったビジネスモデルとなっている」と、安藤氏は話す。
その上でD2C時代のECインフラには、「クラウドネイティブでビジネスの『アジリティ(機敏性)』を加速していくこと、『オブザーバビリティ(可観測性)』のシステムでサービスの全体状況を観測すること、『セキュリティ』運用を効率化することが必要」(安藤氏)であり、同氏はAWS上での効率的な対応を推奨する。
アジリティには、クラウドネイティブでシステムの設計・構築をしていくことで対応する。その際に、一般的なIaaS構成ではなくコンテナを活用して可用性を向上させ、CI/CDパイプラインを使ってデプロイまでの工程をAWS上で自動化する。これにより、機能変更に柔軟に対応できる。
オブザーバビリティに対しては、統合監視サービスを活用。AWSと連携する「New Relic」を導入すると、単なるサーバー監視にとどまらず、コンテナ、モバイル、ブラウザー、アプリケーションまでダッシュボードで確認でき、ビジネスとシステムの様々な属性の人たちがKPIも含めたサービス全体の状況を把握できるという。
セキュリティについては、IAM(Identity and Access Management)の認証認可の管理やコンテナ脆弱性のスキャン、DDoS攻撃対策、侵入検知・侵入防御、インシデント対応など複数の項目があるが、それらはAWSのセキュリティサービスの活用で対応可能であるという。ただし継続的に自社のシステム部門のみで対応していくことは困難であるため、マネージドセキュリティサービスを利用することを安藤氏は推奨する。
スカイアーチネットワークスでは、AWSにおけるアカウントの作成・請求代行から、クラウドネイティブな設計構築、New Relicのダッシュボード提供とインフラ保守、AWSのセキュリティ運用まで、AWS総合支援サービス「SKY-OPT」として提供。特にマネージドセキュリティでは、AWSが定めるセキュリティ運用のベースラインをクリアした、国内唯一のAWS Level1 MSSPパートナーという位置付けである。
音声市場のトレンドとコミュニティの可能性
ファンコミュニティを形成するためのコンテンツ領域では、現在音声によるデジタルコンテンツが注目されつつある。特に、グローバルでポッドキャストサービスのマーケットが右肩上がりで拡大。PwC発表のデータによると、2017年から2026年の年平均成長率は20%超であり、日本でも電通が発表した2022年の広告費データでは、デジタルオーディオのカテゴリーが他より伸長率が高い状況となっている。
ポッドキャストのビジネス活用例として増えているのが、企業やブランドが展開する「ブランデッドポッドキャスト」である。世界の音声市場についてJAVE MARKETING CMOの柿沼以生氏は、「米国では既存のメディア企業がポッドキャストを配信し、動画配信サービス事業者がポッドキャストを原作として映像化するというトレンドも生まれている。日本でも、この2-3年でブランデッドポッドキャストやオウンドのポッドキャストは増えている」と市場の盛り上がりを説明する。
株式会社JAVE
MARKETING CMO
柿沼 以生氏
「ポッドキャストの強みは、再生維持率の高さとエンゲージメントにある。音声やポッドキャストをうまく活用することで、リスナーと持続性のある接点の構築、価値の提供が可能になる。音声の特性を生かした没入型体験をうまく活用することで、リスナーとのエンゲージメントを醸成し、そこからファンコミュニティを形成でき、収益源の構築や1stパーティデータの入手が可能になる」と、柿沼氏は話す。
ポッドキャストを配信するためには、コンテンツを制作し、専用のホスティングサービスを活用する必要がある。海外の動きを見ると、SpotifyやAmazonなど音声コンテンツに注力しているテック企業が関連企業を買収して内製化している状況であるとのこと。国内ではそのような動きはないが、JAVEがブランデッドポッドキャストの制作に加えて、自社開発の「Sonicbowl」というポッドキャストのホスティングサービスを展開している。
株式会社JAVE
IT CTO
森脇 聡氏
Sonicbowlでは、ポッドキャスト登録・配信機能に加えてコンテンツ管理や分析・広告管理といった収益化支援、コミュニティ構築といった一連のサービスを提供。さらにエンタープライズユースに向けて、「チームコラボレーションの機能、社内外のスタッフに使ってもらえるような権限管理機能、ログイン通知や多要素認証、ログを保存するセキュリティ機能に加え、プロフェッショナルサポートやカスタマイズなど、法人向けサービスとしての機能強化を進めている」(JAVE IT CTO 森脇聡氏)という。
また同社は、1月からCDMと共同で、音声配信に特化した会員制オウンドメディアを構築するSaaS「Audikeyz」も開始。会員管理においてCDMの「Uniikey」を共通IDとして利用することで、海外や国内の各種個人情報・プライバシー保護法令や規制への順守も支援し、コンテンツオーナーがコンテンツビジネスに集中できるようになっている。市場では、音声ビジネスの環境が着実に整いつつある状況である。
最新のデジタルマーケティングを支援するAmazonとAWS
D2Cビジネスやコンテンツ×ファンビジネスを展開する際には、顧客データを活用したデジタルマーケティングが必須である。ところが昨今ではデータ量が増加する一方で、個人情報保護の観点から、Webのトラッキングのメカニズムなどを使用して第三者が取得したデータである「3rdパーティデータ」の活用に規制がかかる流れが加速しており、そこにどう対応していくか考えなければならない状況となっている。
他にもデータの取り扱いについては、企業側では多くの組織がデータ活用の仕組みの整備に課題を抱えており、ユーザー側もリテラシーやプライバシー面でサービス事業者のデータ活用に懸念を抱いている。そのような状況で、アマゾン ウェブ サービス ジャパン 事業開発本部 Digital Marketing シニア事業開発マネジャー 松本鋼治氏は、「今後のデータ利活用のキーワードは、『安心/安全』『環境整備とデータの組み合わせ』『利活用の高度化』という3つの観点に集約される。その上でデータ活用は、『溜める』『繋げる』『活かす』という3つのステップに整理される」と説く。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
事業開発本部 Digital Marketing
シニア事業開発マネジャー
松本 鋼治氏
溜めるフェーズでは、顧客のニーズに応えつつ消費者のIDの拡充と購買データの蓄積を進め、1st Party Dataをリッチにしていくべきである。Amazonでは、無料配送、決済、返品など、Prime会員が受けているサービスを他社のECサイトでも受けられるBuy With Primeや、リアル店舗で手のひらの認証を通じて個人の認証、決済、入場を可能にするデバイスAmazon Oneの提供等を通じ、ID拡充などの施策を展開し始めている、とのことである。
繋げるフェーズでは、企業内外のデータを繋ぎ、事業強化や新規事業創出を検討する動きが活発化しているとのことである。例えば、小売業では、自社運営の広告メディアである「Retail Media」が増え、クライアントのデータも取り込み、小売の購買データと広告のデータを繋ぎ合わせた新しいソリューションの開発も始まっているという。また、1st Party データ保持者同士が、保有するデータを組み合わせて双方で分析を可能にする「Data Clean Room」サービスにも注目が集まってきている。Amazonでは、Amazon Advertisingのデータと、クライアント企業が保持するデータを組み合わせて分析出来るAmazon Marketing Cloudを提供しており、またAWSでは、クラウドストレージサービスであるAmazon S3ユーザー同士でお互いの元になるデータを共有またはコピーしたり、AWS の外に移動したりすることなく、集合的データセットの分析とコラボレーションが出来るAWS Clean Rooms、更にその2つのクリーンルームを組み合わせて高度な分析ができるAmazon Marketing Cloud Insights on AWSを提供している。
活かすフェーズでは、個々人の最適体験を追求するためのパーソナライゼーションと、データの外部提供・外部販売という観点があると説く。AWSでは、前者では機械学習サービスのAmazon Personalize、後者では、3rdパーティデータの検索・収集・連携が可能な「AWS Data Exchange」等の仕組みを提供しているほか、Amazonからも出品者や開発者向けの「Amazon Selling Partner API」が提供されているとのこと。
「データを利活用したい企業は、AWSを利用することで、データを蓄積することのみならず、様々なお客様とのコラボレーションを実現し、自社のデータをより活かしていくことが可能となる。さらに、AWSにより、自社のデータを世界中の顧客に提供することや、微に入り細に入った分析も実現できる。これからも、AWSやAmazonを通じて、皆様のDXを加速していただきたい」(松本氏)