2016年中堅・中小企業のIT活用における注目ポイントと展望(業務システム編)

株式会社ノークリサーチは業務システムに関する2016年の中堅・中小企業におけるIT活用の注目ポイントと展望を発表した。

株式会社ノークリサーチ

2016-01-12 14:05

<業務システム導入の提案タイミングは業種毎の制度や動向を踏まえることが大切> ■卸売/小売/サービス:軽減税率対応だけでなく売上分析などの攻めのIT活用提案も重要 ■製造:「原産地規則」 「繊維ビジョン」 「地理的表示保護制度」はIT活用提案の新たな契機 ■流通業(運輸業)、建設業:人材不足が大きな課題、初期投資を抑えたIT活用提案が必要 ■ワークスタイル改革は「情報や空間のシェア」から「ヒトが担う作業の自動化」へと進化する
PRESS RELEASE(報道関係者各位) 2016年1月12日

2016年中堅・中小企業のIT活用における注目ポイントと展望(業務システム編)

調査設計/分析/執筆
株式会社ノークリサーチ
シニアアナリスト 岩上由高


株式会社ノークリサーチ(〒120-0034 東京都足立区千住1-4-1東京芸術センター1705:代表:伊嶋謙ニ TEL:03-5244-6691URL:http//www.norkresearch.co.jp)は業務システムに関する2016年の中堅・中小企業におけるIT活用の注目ポイントと展望を発表した。本リリースは2015年の調査結果を振り返り、そこから読み取れる2016年の年頭所感をまとめたものである。

下記のリリース内容は以下のURLにも掲載されております。
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<業務システム導入の提案タイミングは業種毎の制度や動向を踏まえることが大切>
■卸売/小売/サービス:軽減税率対応だけでなく売上分析などの攻めのIT活用提案も重要
■製造:「原産地規則」 「繊維ビジョン」 「地理的表示保護制度」はIT活用提案の新たな契機
■流通業(運輸業)、建設業:人材不足が大きな課題、初期投資を抑えたIT活用提案が必要
■ワークスタイル改革は「情報や空間のシェア」から「ヒトが担う作業の自動化」へと進化する


■卸売/小売/サービス:軽減税率対応だけでなく売上分析などの攻めのIT活用提案も重要
本リリースでは業種別に見た時の業務システムに関する注目ポイントと展望について述べる。以下のグラフは卸売/小売/サービス業の中堅・中小企業(年商500億円未満)のうち「2015年10月以降のIT投資額が前四半期と比べて減少する」と回答した企業にその理由を尋ねた結果のうち、回答割合の高い項目をプロットしたものだ。
「売上が低迷し、IT投資費用を捻出できない」や「景気が本当に回復するかをもう少し見極めたい」が比較的多く挙げられる一方、「製造設備や店舗などIT以外の投資を優先したい」の回答割合は低い。したがって、売上や景気への懸念からIT以外を含む投資全般に慎重になっている状況がうかがえる。2017年4月からの消費税率改正と軽減税率導入はこうした傾向をさらに強める可能性がある。卸売/小売/サービス業にとっては増税が消費に与える影響に加え、仕入/売上における税額算出への対応が少なからぬ負担となってくる。2017年4月の時点では税率区分毎に金額を明記しておくことで現行の算出方法を概ね適用できる「区分記載請求書等保存方式」が採用される。だが、2021年4月以降は「適格請求書等保存方式」が導入される。この方式では仕入税額の算出対象として、登録番号を交付された課税事業者が発行する適格請求書を用いなければならない。つまり課税対象でない事業者からの仕入れに対し、税額を上乗せして算出することを厳密に禁止する方向となる。さらにいずれの方式においても課税売上高などに応じた一定期間の特例が設けられており、実業務の上では数年に渡って仕入/売上の税額算出の方法が細かく変化していくことになる。
上記に述べた税額算出方式の変化は卸売/小売/サービス業に限ったことではないが、税率の異なる商材やサービスを取り扱うことになるこれらの業種においては特に大きな影響を及ぼす要素となる。中小企業向け支援として軽減税率対策予算が組まれていることもあり、ITソリューションを提供する側には軽減税率導入を商機と捉える見方もある。だが、数年間に及ぶ業務負担増に絡めた形で販売管理システム更新の提案を行うことはユーザ企業のIT活用意欲を減退させる可能性もある。消費税率改正に伴う「不可避のIT投資」と売上分析などによる「攻めのIT投資」を明確に切り分け、業績改善につながる販売管理システム提案にも並行して取り組むことが重要と考えられる。


■製造:「原産地規則」 「繊維ビジョン」 「地理的表示保護制度」はIT活用提案の新たな契機
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対し、生産管理システムが持つべき機能や特徴(今後のニーズ)を尋ねた結果のうち、回答割合が高い項目をプロットしたものだ。原価管理に関連する項目が多く挙げられており、収益性の更なる改善が重視されていることがわかる。製造業の中でも多くの中堅・中小企業に及ぶ広い裾野を持つ自動車関連では新興国における需要の鈍化や、独VW社の不正に起因する業界全体の規制強化に伴うコスト増による影響が広く波及する可能性もある。平成28年度税制改正では中小企業向けの支援として「新たな機械装置の投資に係る固定資産税の特例」が盛り込まれたが、現段階では生産管理システムなどのソフトウェアは対象となっていない。こうした一連の状況を踏まえると、製造業向けに生産管理システムなどを提案/販売する側としては初期投資負担を抑えたソリューション立案が求められてくると考えられる。
製造業全体で見た場合にはプラスの要素も幾つかある。その中でも注目すべきと考えられるのが、TPP合意に伴う「原産地規則の活用」と「繊維ビジョン」、および食品製造に関連する「地理的表示保護制度」である。それぞれ、以下で順に見ていくことにする。
原産地規則:
「原産地規則」とは、ある製品の製造においてTPP域内(TPP参加国内)での「部品調達」および「付加価値」(組立作業など)の合計割合が55%以上であれば、TPP域内での関税について優遇措置を受けられるというものだ。さらに製品の種別によってはこの条件がさらに緩和される。これによって、「中小の部品生産メーカは国内での生産を続け、組立/加工の一部をTPP参加国で行う」といった柔軟な選択も可能となる。技術力はあるが、海外移転が難しかった中小製造業にとっては好機といえるだろう。
一方、「同じ東南アジアの中でも、TPP非参加のタイから参加国であるベトナムに製造拠点を広げる」といった海外展開の拡大も考えられる。平成27年度補正予算案や平成28年度予算案には中小企業の海外展開を支援する幾つかの支援事業もあり、これらを活用した海外展開事例も出てくるものと予想される。
繊維ビジョン:
TPP合意を受け、今後は衣類やタオルといった繊維製品の米国などにおける輸入関税も順次引き下げられていくことになる。
この点を踏まえ、中国を始めとする海外での製造が多くを占めていた繊維産業において国内生産比率を再び高めようとする経済産業省による施策が「繊維ビジョン」である。繊維関連の製造業者とアパレル小売業の連携強化なども盛り込まれており、その実現手段としてのIT活用も期待できる。中長期に渡る施策となるが、ITソリューションを提供する側としては新たな市場として注視しておく価値がある。
地理的表示保護制度:
「地理的表示保護制度」とは、農林水産物(例. 米、野菜など)、飲食料品(例. 豆腐、オリーブ油など)、加工品(木材、生糸、真珠など)が特定地域の持つ特性(気候、風土、伝統的な製法など)と強く結びついている場合、それについて国がお墨付きを与える制度である。農林水産省が主導し、2015年6月から運用が開始されている。この制度を活用することにより、特色を持った地方の食品製造業がeコマースによる通販へ取り組むなどといった動きが予想される。また、同制度による産品登録を受けた後も、企業側は品質管理に関するチェックを受ける必要がある。(ただし、チェック方法は厳格には定められていない)そのため、ITソリューションを提供する側としては品質管理を担うシステム/サービスの提案にもつながる可能性がある。
このように製造業に限って見た場合にも、様々な制度や施策が進められている。業務システムの提案/販売を考える上ではこうした動きにも目を向けておくことが重要となってくる。


■流通業(運輸業)、建設業:人材不足が大きな課題、初期投資を抑えたIT活用提案が必要
以下のグラフは中堅・中小企業(年商500億円未満)の流通業(運輸業)、建設業、サービス業における2015年の経常利益DIの推移をプロットしたものだ。(四半期ごとの定点観測調査では製造業や小売業なども含む8業種の区分で調査を行っているが、ここではそのうちの3業種のみを抜粋している)
[経常利益DIの定義]
前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」 を指す。例えば2015年7月時点での値は2015年4月時点と比較した場合の経常利益増減の実績値となる。
サービス業と比べて、流通業(運輸業)と建設業はDI値の変化が激しい(業績の変動が大きい)ことがわかる。以下では変動の大きい2つの業種についての注目ポイントと展望の要約を記載する。
流通業(運輸業):
以前は荷主による値下げ要請や燃料費の上昇などが業績を押し下げる要因となっていたが、適正料金収受に向けた取り組みや燃料価格の下落によってこうした懸念は徐々に解消されつつある。中堅・中小の流通業ではトラック運送が比較的多く見られるが、近年はドライバーの高齢化や人手不足が大きな課題となっている。eコマースに伴う配達需要も堅調ではあるが、2016年以降の見通しについては慎重な見方も少なくない。こうした中、昨年から今年にかけては中堅・中小規模のトラック運送業者が買収されるケースが幾つか見られる。2015年11月の三井倉庫ホールディングスによる丸協運輸の買収はそうした例の一つだ。人材不足の解消や業態の拡大に向けて、今後もこうした買収が行われる可能性もある。中堅・中小企業向けに配車管理システムなどを提案/販売するIT企業はこうした動向も注視しておく必要がある。
建設業:
公共事業(被災地の復興や道路などの社会インフラ修繕など)の需要は今後も堅調が予想されるが、中堅・中小の工務店にとっては資材価格上昇や人材不足が懸念事項として挙げられている。前者については上昇幅の落ち着きや発注額への折り込みが進みつつあり、状況は改善に向かっていると考えられる。一方、人材不足については流通業(運輸業)と同様に建設業においても大きな課題として残っている。2015年に発覚した杭打ち不正問題によって、作業工程管理の更なる厳密化が求められれば、工数増に伴う人材不足がさらに顕著になる可能性もある。本リリースの「新規IT活用領域編」(※)では建設現場におけるスマートフォンやドローンの活用について触れた。これらに共通するのは、「少ない投資額で大きな業務効率改善が期待できる」という点だ。中堅・中小の建設業向けにITソリューションを提供する側としては初期投資を抑えつつ何らかの効果が期待できるIT活用提案を練っておくことが重要となってくる。
※ (リンク »)
ここまで、卸売/小売/サービス業、製造業、流通業(運輸業)、建設業における業務システム提案に関連する注目ポイントと展望について述べた。やや大企業寄りにはなるが、その他に2016年に動向を注視すべき業種としては金融・保険がある。
2016年5月末には改正保険業法が施行され、保険代理店などは顧客の意向を把握した上でのダイレクトメール送付や事業報告書の提出などが求められ、それに関連するIT基盤の整備が必要となる。また、銀行におけるIT企業への出資制限緩和も検討されており、いわゆる「FinTech」への取り組みも更に活発になる可能性がある。これについてはやや過熱気味の感もあり、「ブロックチェーン」のように金融ビジネス自体に影響を与える可能性のある新しい技術と従来から存在する会計/決済サービスを区別/整理しておくことも重要と考えられる。


■ワークスタイル改革は「情報や空間のシェア」から「ヒトが担う作業の自動化」へと進化する
2015年には「ワークスタイル改革」というキーワードが注目を集めた。ノークリサーチではこの用語を以下のように定義している。
ワークスタイル改革:
「ワークスタイル変革」と呼ばれることもある。IT活用によって従来の慣習(場所、時間、連絡手段など)に束縛されない業務の進め方を創出しようとする取り組みを指す。具体例は非常に幅広く、以下のようなものが該当する。
・コラボレーションツールやWeb会議システムなどを用いて社内や拠点間の意思疎通を円滑化する
・スマートデバイスやデスクトップ仮想化などを用いて社外(屋外、自宅など)でも業務の遂行を可能にする
(関連用語:「モバイルワーク」「テレワーク」)
現時点で「ワークスタイル改革」を掲げるソリューション例を見ると、「コラボレーションツール(グループウェアなど)による情報共有」や「デスクトップ仮想化などを用いた遠隔での業務遂行」といったように、「情報や空間をシェアするもの」が比較的多く、上記の定義もこうした「シェア」を踏まえた内容となっている。そして、ワークスタイル改革の更なる進化の方向性の一つとして考えられるのが 「ヒトが担っている作業(主に定型化が可能な業務)の自動化」である。
それを示唆しているデータが左下のグラフだ。これはワークフローを導入済みの中堅・中小企業(年商500億円未満)に対して、ワークフロー製品/サービスが持つべき機能や特徴(今後のニーズ)を尋ねた結果のうち、機能面に関する項目をプロットしたものだ。情報や空間がシェアされていても、ヒトからヒトへの業務引き渡しが円滑でなければ企業全体のパフォーマンスは向上しない。定型的な業務の場合には、「次に何をしなければならないか?」の判断をヒトが行うよりも、ワークフローで管理された業務フローに沿って進めるようにした方が迅速/確実である場合もある。グラフ中に挙げられた「ヒトが行う作業も含めた全体の効率化を実現できる」や「定型的な業務フローの遂行を支援することができる」といった項目が挙げられていることは、「ヒトが担っている作業の自動化」の必要性を中堅・中小のユーザ企業も気づき始めていることを示している。
さらに右上のグラフはCRMを導入済みの中堅・中小企業(年商500億円未満)に対し、CRM製品/サービスが持つべき機能や特徴(今後のニーズ)を尋ねた結果のうち、機能面に関する項目をプロットしたものだ。「ワークフロー関連の機能が包含されている」が最も多く挙げられていることから、やはりヒトからヒトへの業務引き渡しを円滑にすることが求められているといえる。
その上で「顧客の嗜好に合わせた商材や情報を提供できる」といった項目が挙げられている。例えば、顧客の購買履歴分析を担う社員Aと販促メール送信を担う社員Bがいたとする。社員Aはある商品のWebサイト上での閲覧数は高いものの、購入に至らないことが多い点に気づいていた。もしこれが情報収集のための閲覧であったとすれば、閲覧から数日経過した段階で販促メールを送るというアプローチが有効となる。だが、日々の業務の中で社員Aから社員Bに対してこうした伝達が行われるとは限らない。 「ワークフロー関連の機能が包含されている」および「顧客の嗜好に合わせた商材や情報を提供できる」というニーズが指し示しているのは真にこうした課題への解決策であると考えられる。この場合であれば、「ある商品を閲覧したが、購入に至らなかった顧客に対し、翌日に該当する商品の魅力を伝える販促メールを自動的に送る」といった仕組みを導入することが有効な対策となる。こうした仕組みは「MA(Marketing Automation)」と呼ばれ、多様化するニーズに対応する取り組みとして注目が集まっている。
こうした「ヒトが担っている作業の自動化」は以前にも「BPM(Business Process Management)」や「EPM(Enterprise PerformanceManagement)」などのソリューションとして存在していた。だが、これらの多くは大企業を想定しており、中堅・中小企業が実践することは容易ではなかった。今後は中堅・中小企業にも導入/運用が可能な「ヒトが担っている作業の自動化」に関する取り組みが生まれていくものと予想される。つまり、2016年以降のワークスタイル改革は「情報や空間のシェア」に加え「ヒトが担う作業の自動化」へと進化していくと考えられる。


本リリースで参照した市場データを含む調査レポート一覧

本リリースは2015年に発刊された以下の調査レポートを元に、2016年の注目ポイントと展望に関する考察を行った結果をまとめたものである。
「2015年版 中堅・中小企業のITアプリケーション利用実態と評価レポート」
13種類の業務アプリケーションにおける「導入社数シェア獲得/拡大の施策」や「ユーザ企業のニーズ」を網羅
レポート案内(試読版を含む):
(リンク »)
ダイジェスト(サンプル):
『ERP』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『生産管理』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『会計管理』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『販売・仕入・在庫管理』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『給与・人事・勤怠・就業管理システム』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『BI・帳票関連ツール』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『ワークフロー』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『グループウェア』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『文書管理・ファイル管理・オンラインストレージサービス』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『セキュリティ関連ツール』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『運用管理・資産管理システム』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『バックアップ関連ツール』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
『CRM』の利用実態とユーザ評価
(リンク »)
価格:180,000円(税別)

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株式会社 ノークリサーチ 調査設計、分析、執筆:岩上由高
東京都足立区千住1-4-1東京芸術センター1705
TEL 03-5244-6691 FAX 03-5244-6692
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