日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、昨今のテレワークやWEB会議の普及、プライベートな時間・空間を大切にしたいというニーズの高まりを受け、「聴きたい音」のみを届け、「聴かれたくない音、聴きたくない音」を届けないようにする究極のプライベート音響空間(Personalized Sound Zone)の構築をめざした研究開発を行っています。その一環で、ごく小さな空間に音を留める新たなスピーカーエンクロージャー設計技術を開発しました。これにより、耳に差し込まないオープンイヤー型でありながら音漏れを低減することで快適に自分だけの音響空間を楽しみながらも周囲の人とコミュニケーションをとることが可能となりました。本技術を利用したオープンイヤー型イヤホンはNTT R&Dフォーラム Road to IOWN 2022(※1)にて展示します。
1.背景
働き方改革や新型コロナウイルス感染の拡大により、私たちのライフスタイルはますます多様化しました。リモートワークやオンライン授業などイヤホンが必要となる機会も一段と増え、イヤホンはもはや生活必需品になりつつあります。
その一方で、長時間にわたる装着は耳への負担が大きく健康被害も懸念(※2)されるほか、カナルタイプなどの密閉度の高いイヤホンやヘッドホンは、外部からの音を遮断してしまうため、周囲の音が聞こえず呼びかけや車両の接近に気づきづらくなります。また、ネックスピーカーや骨伝導イヤホンのようなオープンイヤー型イヤホンは、周囲への音漏れ不安が使用時のデメリットとしてあります。
そこで、密閉型とオープンイヤー型のメリットを両立しデメリットを補い合う、音漏れが少ないオープンイヤー型イヤホンを実現可能なスピーカーエンクロージャーの設計技術を開発しました。
2. 本技術のポイント
空気の振動である音は、振動を起こす音源から波のように耳に伝わります。人は耳の鼓膜が振動して音を感知します。身近な音響機器でみると、スピーカーは電気信号を空気の振動に変換することで音を出す仕組みです。イヤホンは言わば小さなスピーカーであり、電気信号を受けた音の再生装置(ドライバーユニット)内のパーツを振動させて音を発します。一般的なスピーカーの発する音は全方向に広がります。オープンイヤー型イヤホンに顕著な「音漏れ」は、スピーカーから放射された音が周囲に拡散した状態です。
NTTが過去に開発した能動サウンド制御技術(※3)は、複数のスピーカーを配置して位相の異なる音波を制御することで、スピーカーの発する音を一定範囲内に留めることで実現する技術でした。今回NTTは新たにスピーカーを覆う筐体(スピーカーエンクロージャ)の側面位置に複数の穴を適切に開けることにより単一のスピーカーのみで音を耳元近傍の局所的な空間に留める新たなスピーカーエンクロージャー設計技術を開発しました。この技術は、スピーカーの前面から放射した正相の音波が耳に届いた際に発生する、耳で反射した音漏れに繋がる音波を、スピーカーエンクロージャーの側面の穴から放射した逆相の音波で抑圧することで、耳元から離れると音漏れが非常に小さくなることを実現しています。(図1参照)
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図1:音漏れを低減する新たなスピーカーエンクロージャーの原理のイメージ図
本技術を利用したエンクロージャと通常のエンクロージャを耳に装着した際の音漏れをシミュレーションすると、通常エンクロージャでは耳だけでなく広範囲にわたり高い音圧が観測でき音漏れが発生していることが確認できます。一方、本技術は耳元では高い音圧を観測しながら、頭部周囲の音圧は低く音漏れを低減していることが確認できます。(図2参照)
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図2: 通常エンクロージャと本技術のエンクロージャ構造を耳に装着した際に、頭部の真上から俯瞰した頭部周辺の音圧分布
また、本技術を用いたオープンイヤー型イヤホンの耳元の騒音レベルと15 cm離れた位置に置いた音漏れ測定マイクの騒音レベルを比べると、耳元では80 dBを観測しながら15 cm離れた音漏れ測定マイクでは43 dBとなり、大きく音漏れを低減できています。これを日常の周囲の音の騒音レベルと比較すると、耳元では通常イヤホンで音楽を再生する程度の大きさで聞こえていながら、15 cm離れた位置では図書館の静けさと同等になっていると言えます。(図3参照)
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図3: 耳元と15 cm離れた音漏れ測定マイクの騒音レベルの計測値の比較。(騒音レベルはA特性を考慮した等価騒音レベルで算出)
3.今後の予定
今回開発した技術は、快適さを損なうことなく聞かれたくない音を周囲に漏らさないことをめざし開発されました。今後も究極のプライベート音響空間の実現に向けた研究開発を推進し、航空機や自動車の座席、オフィスなど様々な場所での応用を検討していきます。また、オープンイヤー型イヤホンを活用し直接耳に届くリアルの空間の音に合わせて、イヤホンから再生する音を加えることで様々な情報を付与する新たな価値提供を目指した研究開発も行っていきます。
本技術を活用したオープンイヤー型イヤホンはNTTソノリティから発売(※4)されます。今後、NTTグループの各事業会社を通して、本技術に基づくサービスやソリューションを提供していく予定です。また、弊社が11月16日より開催するNTT R&Dフォーラム Road to IOWN 2022に展示します。
※1 NTT R&Dフォーラム2022 Road to IOWNのホームページ:
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※2 NHK 外耳炎とは?原因や正しい耳のケアについて解説 (リンク »)
※3 福井他, “究極のプライベート音空間を実現するメディア処理,” NTT技術ジャーナル. 2020.10, pp.52-56.
※4 NTTソノリティ, NTTグループ初のコンシューマー音響ブランド「nwm(ヌーム)」誕生
世界初のPSZ技術を用いたパーソナルイヤースピーカー2種を発表
~オープンイヤー型で音漏れが少ない、周囲ともつながるイヤホン~
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