― ZDNet Japanにて昨年10月よりクラウディアン社の企業ブログ、【海部美知 for Cloudian】「ビッグデータとクラウドストレージ」が好評連載中です。「クラウドは『ネットの脳』」、「クラウドストレージは『クラウドの記憶』」といったユニークな表現で話題となっています。このブログを執筆している海部美知氏とクラウディアンの太田社長と本橋経営企画室長の3人をお招きし対談インタビューを行いました。
― まず、これまでの連載を振り返ってのご感想を簡単にお聞かせください。
海部:私は、いつもはシリコンバレー的な視点でモノを見ることがどうしても多いのですが、今回の連載ではインフラ部分の技術や現場の感覚などにも触れることができて、とても勉強になりました。上のレイヤーで動いている最先端のビッグデータ潮流と、それを支えるインフラ技術が、同期したりずれたりしながら、どんどん変化しながら進んでいる感じがわかりました。
太田:クラウディアンは日本とシリコンバレーで開発し、NOSQLデータベースのオープンソース化もしていますが、連載第五回目のブログにあるような長髪・ヒゲ・ポニーテール、はたまた辮髪というよりは、短髪・背広にネクタイでビジネスをすることが多いです(笑)。
本橋:最近実施した企業を対象にした調査では、ビッグデータを支えるインフラ技術である分散型オブジェクトストレージ製品を知っているという回答は未だ50%程度でしたが、そのなかでもCloudianの想起率(マインド・シェア)が一番高いという結果でした。海部さんのブログのユニークなタイトルや、わかりやすく面白い解説のおかげで注目してもらえるようになったと感謝しています。
― そもそも、海部さんとクラウディアン社との組み合わせは意外な感じがしましたがブログを執筆されることになったきっかけを教えてください。
ENOTECH Consulting CEO 海部美知氏
海部:私はシリコンバレーに20年以上在住し、情報通信分野を専門とするコンサルティングを提供しています。これまで、ブログや多数メディアに記事を執筆してきており、主に米国のITや通信のトレンドを分析して紹介しています。著書では「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本:アスキー新書刊」に続く第2作目「ビッグデータの覇者たち:講談社現代新書刊」が4月に発売されたばかりです。気になる技術や経営の動向としてビッグデータに注目し勉強している際に、その技術開発と製品化をしているクラウディアンの本橋さんからお話をいただきブログを執筆させていただくことになりました。
本橋:私たちの話はとかく技術寄りになりがちなので、もっと受け手の視点から伝えたいと思い海部さんに白羽の矢をたてました。共通の知人がいたこともありますが、著書「NOSQLの基礎知識:リックテレコム刊」を差し上げ、「私たちができるわかりやすさはこれが精一杯です」とお願いしました。(笑)
― さて、注目度が高まった理由として、ブログのタイトルにもある「ビッグデータ」を一般紙の記事でも多く見かけるようになったという点もあると思いますが、この「ビッグデータ」ブームを、どのように観ていますか?
海部:「ビッグデータとクラウドストレージ」連載第一回目のブログに書きましたが、ウェブ2.0以降、膨大な個人ユーザーのデジタルデータが集まるクラウドは「ネットの脳」になったと考えています。ビッグデータを使った絞り込みと予測のおかげで、検索広告・レコメンデーション・フリーミアム・会員制サービスなどといったウェブ2.0以降のネットビジネスでマージンを生み出せる産業が成立しました。ネットビジネスだけでなく、一般企業での業務効率化や顧客サービスの向上、公共部門や学術研究など、広い範囲での応用により、従来の技術ではできなかったことが今後できるようになっていくと考えています。
クラウディアン CEO 太田洋氏
太田:私たちが「ビッグデータ」という表現を使ったのは2010年のことです。Twitterには1日あたり12TBという、従来の常識を遥かに超えるデータの大波(ビッグウェーブ)が押し寄せていました。これを従来型の技術と力技とお金で解決するのではなく、Cloudianが採用するような低コストのインフラ技術を利用してはどうかと伝えていました。最近はその使い方にテーマが移り「分析」や「データ・サイエンティスト」ととともに語られることが多くなったという印象です。対応する技術はもはや当たり前になったということなのかもしれませんね。
― なるほど。海部さんはビッグデータが引き起こす現象を新しい産業やビジネスの誕生、クラウディアンでは新しい技術の視点から観ている訳ですね。では、ブログのもうひとつのタイトルである「クラウドストレージ」について聞かせてください。
太田:私たちが提供するCloudianは、汎用サーバーをハードウェアとして使い、アマゾンS3と同等のクラウドストレージ・システムを構築できるソフトウェア製品です。日本ではニフティの「ニフティクラウドストレージ」、NTTコミュニケーションズの「Biz ホスティング Cloudn(クラウド・エヌ) Object Storage」をはじめ国内外のクラウドストレージ・サービスに採用されています。
海部:私は、「クラウドストレージ」の特長を「カンバン方式」(連載第三回目ブログ)と呼んでいます(笑)。
クラウドサービスでは、急激に活動が増えたり減ったりすることが多く、ピーク時の必要容量に十分な規模のストレージを最初から用意したら、値段が高い割にほとんどの時はガラガラに空いてるという、「田舎の高速道路」状態となってしまいます。そうでなく、必要なときに必要なだけ注文でき、すぐに使える、といういわば「カンバン方式のハードディスク」が「クラウドストレージ」だとも言えます。
クラウディアン 経営企画室長 本橋信也氏
本橋:Cloudianはサーバー3台の内蔵ディスクに収まる程度の「スモールデータ」からでも利用することができ、データが増えても、専用ストレージ装置のような設備置換やデータ移行不要で、サーバー台数を増やしてゆくだけで、ストレージ容量を拡張できます。そのため、最初から大きな「箱」を買うのではなく、データ量に応じて簡単に低コストでストレージの容量を増やせるため、TCOを抑えた企業ストレージとしても利用できます。
― 従来からインターネット経由でデータをストレージするサービスというのはありますが、何が違うのでしょう?
太田:代表的なクラウドストレージ・サービスでは、分散型オブジェクトストレージ方式が採用されています。この分散型オブジェクトストレージ方式は、連載第三回目のブログにも紹介されていますが、インターネット経由での大量ファイルの移動や、複数データセンターへのデータ配置に適しています。
従来からインターネット経由でデータをストレージするサービスはありますが、ファイルストレージ方式が主流で、多くはローカル利用に最適化された堅牢で高価な専用ストレージ装置を顧客毎に割当て提供しています。そのため、低額の従量制料金や容量無制限というサービス条件は提供してこなかったのではないかと思います。
海部:一般的に、こういったITインフラをインターネット経由で提供するサービスは、「ホスティングサービス」と呼ばれてきました。連載第二回目のブログでお伝えしたとおり、クラウドサービスと従来のホスティングとの最大の違いは「スケールアウト」できるかどうか、ということになります。
ラスベガスの会議で出会ったホスティング業者は、地域密着的な地方の中小サービスプロバイダーが多かったですが、「ビッグデータの大波だ、データが多すぎてストレージが足りない」というシリコンバレーのようなひっ迫状況は、アメリカでもまだ地方には及んでいないという印象でしたが、今後徐々に地方にも及んでいくと思います。 (連載第五回目のブログ)。