11月4日から12月2日まで開催されたオンラインイベント「ZDNet Japan Security Summit 2020 Go to デジタルノーマル~Digital as a New Normal 企業変革の未来航海図~」に、F5ネットワークスジャパンのNGINX テクニカルソリューションズアーキテクトである松本央氏が登場。「今のシステムを『DX』する方法を考えてみる~NGINXと考える、Modernization Platform~」をテーマに講演を行った。

激しく変化する状況で求められる「DX」
松本氏ははじめに、「最近、変化が激しいと思いませんか?」と投げかけた。テクノロジーの観点では、クラウドネイティブというキーワードとともにさまざまなテクノロジーが出現している。また、世界的な観点では新型コロナウイルスや国々の情勢がある。これらは数年前には予測できなかったことであり、企業の日々の活動に影響を及ぼしているとした。
こうした状況の中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を集めている。DXは2004年にスゥエーデン ウメオ大学の教授であるエリック・ストルターマン氏が提唱したもので、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義している。DXは、進化するITを駆使することで、企業活動を含めた日々の生活を新しくより良い方向に変革していくことといえる。
ITには、AIやVR/AR、クラウド、5G、ブロックチェーンなど、さまざまな技術がある。企業はこれらを活用して新しい製品や価値、あるいは業界を大きく変革してしまうようなチャレンジやソリューション、さらには組織、プロセス、企業の文化・風土も変えて事業を変革し、最終的には強い競争力を得る、他社に対する優位性を得ることが、企業におけるDXであると考えられると松本氏は言う。DXはこの変化のことであり、技術とアプリケーションの双方を最大活用することである。
では、企業がDXを進めていく方法は何なのか、松本氏は目的を設定することが重要であるとした。そして、目的によってアプローチも変わってくるが、方法としてはまず「どうなりたいか」を考え、その実現に対する課題を正しく捉え、課題を解決できる技術を理解することが必要。これを正しい順序で検討し、その実施には逆の順序で成果を積み上げていくことをポイントに挙げた。

(図1)DXを実現するためのアプローチ
DXの課題
DXを実践していくにあたり、多くの課題があることも事実。まずはトップがDXを正しく理解し、責任範囲と役割を設定することが重要である。松本氏は、経営層、部門長、現場という3つのレイヤーで責任範囲と役割、果たすべき成果を考えるという提案をした。経営層は、トップのコミットメントや経営戦略、ガバナンスといった観点でDXの目的やあるべき企業風土・文化について責任を負う。
部門長は、それぞれのオーナーシップで経営の感覚を持ちながら、設備・ITシステム、サービス、アプリケーションのサービススペックなど企業の原動力となる環境を整備していく。そして現場では、日々の業務として役割が細分化されていくので、アジャイルやCI/CD、あるいはDevSecOpsなどを果たすためのテクノロジーをいかに問題なく取り入れるのかが重要な責任となる。
ポイントとなるのは、優れた経営者が優れた経営判断の中でプランを立てることで、部門長がその戦略をもとに環境を高品質、高機能、見える化し、現場は要件を実現するテクノロジーを正しく活用すること。そのためにはコミュニケーションも大事で、たとえばトップがクラウドを導入して企業の原動力にしようと考えても、現場が担当できる範囲は限られている。経営の目線から現場まで一気通貫でのシナリオや目的意識、課題認識がないと、たとえテクノロジーが優れていても、DXという最後のゴールを果たすことは難しい。
DXは単体の技術で実現できるものではないし、その新しい技術をどう取り入れるのか、使いこなせる人はいるのかといった課題がある。また、どのような変革になるのかは未知の部分が大きく、変化が大きいほど企業の文化に切り込む度合いも大きくなる。松本氏は、「DXは、予見できないことも含めて適切に対処し、不完全性も含めて目的に向かっていく。この進め方が重要なポイントになる」とした。

(図2)DXを実現するための責任範囲と成果
DXを支えるテクノロジー
DXは、進化したテクノロジーを活用してより良い方向で進んでいくこと。特に企業においては、業界を変革するような新しいソリューションを作り、他社に対してより優位な形で事業を進めていくことが大きな課題になる。このテクノロジーは、まさにアプリケーションが該当すると松本氏は言う。これはGoogle検索や、タクシー業界を変革したUBERのように、新しいアプリケーションによって世の中をより便利にしていく。それがDXであるとした。
実際にDXを進めていくにあたり、企業には既存のインフラやサービス環境がある。この現行のIT環境をもとに進化したテクノロジーを取り入れ、DXを推進していくことになる。これを時間軸で見ると、既存のデータセンターで動作するモノリシックなアプリケーションが動いている環境が100%の状態から、たとえば新しくクラウドネイティブなアプリケーションを開発し、1年後にはそれが25%を占めるようになったとする。なお、経営者の視点では収益性と考えてもいい。

(図3)DXで進化するIT環境
新たなクラウドネイティブのアプリケーションが25%を占めれば、これはすでにDXが成功したともいえると松本氏。しかしこれが3年後に75%を占めるようになると、企業の収益の柱も大きく変化し、顧客に対するブランドも変革を遂げる。システム的には既存のものが25%残っている。しかし、これは新しいシステムに置き換えられないものと考えられる。現行のシステムと新たなシステムが共存することになるため、クラウドネイティブな技術を含めて自由に選択できるプラットフォームがDX推進の重要なポイントになる。そうしたDX推進に適したプラットフォームに求められる要件として、松本氏は「安定性」「アプリケーションに対する親和性」「可変性」「可搬性」を挙げた。
「NGINX」で実現するDX
DXの推進に適したプラットフォームとして、ここで「NGINX(エンジンエックス)」を紹介した。NGINXはもともとオープンソースとしてWebサーバからリバースプロキシ、キャッシュまで広く世界で利用されており、実に4.5億のWebサイトで動作している。現状でトップシェアのWebアプリケーションソフトウェアである。特に高速性、安定性からNGINXが選ばれている。
特徴としては、先ほどのDX推進に求められる高速かつ可変性を実現するアプリケーション基盤としての要件を満たしている上に、さまざまな環境で容易に動作するという特徴がある。たとえばハードウェアにLinuxをインストールして、そこで使うことはもちろん、仮想インスタンスとしてさまざまなクラウド、オンプレミスのクラウド環境やパブリッククラウドでも利用できるほか、コンテナにも対応する。
NGINXは、Webサーバ、またはプロキシとしてのみ知られていることが多いが、実はロードバランサー、APIゲートウェイ、キャッシュ、WAFに至るまでWebアプリケーションへのトラフィック制御に必要なあらゆる機能を、その軽量なフットプリントと高速性を維持したまま同じソフトウェアで実現できる。特にコンテナを用いたマイクロサービス環境にも親和性が高く最適だという点がDX推進におけるコンテナやクラウド環境への移行や既存環境との共存、さらには安定、高速なサービス提供の実現を支えるポイントになっている。さらに言えば、マイクロサービス化することでモダナイズされる環境でのアプリケーション開発サイクルの高速化=顧客へのよりよいサービスの迅速な提供を支える要素技術となっている。
NGINXは環境を問わず、コンフィギュレーションを変えながら使い続けることができる。オンプレミスから仮想システム、そしてコンテナ環境へと、テクノロジーの進化に対応しながら柔軟に拡張できることは、DXを支えるプラットフォームにとって重要なポイントとなる。
オープンソースをベースとし機能やサポートを強化した商用版オールインワンソフトウェアである「NGINX Plus(エンジンエックス プラス)」と、そのNGINX Plusを横断的に展開したときにそれを一元的に管理するソリューション「NGINX Controller(エンジンエックス コントローラー)」を揃えている。従来の部署間を超えたDX時代における開発や運用の役割連携を可能にするCI/CD、DevOps、DevSecOpsの環境で容易に運用、展開できる設計となっていることが特徴だ。

(図4)NGINX App Protectの特徴
そして「NGINX App Protect」は、F5ネットワークスとNGINXがともに事業を展開するようになったことで生まれたソリューションである。F5がミッションクリティカルな環境に提供しているWAFのナレッジを生かした、NGINX専用のセキュリティソフトウェア。高品質なWAFを自由に挿入し、お客様のWebアプリケーションを安全に使うことができ、F5がサポートも提供する。
これらNGINXが実現するModernization Platformは、DX推進に求められる要件を満たし、Webアプリケーションサーバーやロードバランサー、そしてコンテンツキャッシュなどを使いながら、お客様のアプリケーションの安定動作を可能にしている。もちろんコンテナ環境でも問題なく利用できる。さらに、外部ネットワークからアプリケーションを狙う攻撃や、内部のライブラリやコンテナに悪意あるプログラムが混入するリスクも回避できる。安定したアプリケーション環境を実現することで、DXを支えるアジャイルな開発を可能にすることができ、かつアプリケーションのロジックに集中することができるようになるため、DXを大きく進めることができるとした。

(図5)NGINXが実現するModernization Platform
松本氏は最後に、DXは目的や実現したいことを明らかにすることが重要で、その推進には社内、社外の予見できない影響もある。そのため柔軟性の高さが求められる。システム面ではアプリケーションのロジックに集中し変化に対応できることが重要で、NGINXであればその開発したアプリケーションを素早く展開し安定して提供し続ける最大限のプラットフォームを展開できる。NGINXは無料でトライアル版を試すことも可能なので、ぜひ一度試してみて欲しい。として、講演を締めくくった。