Broadcomによる買収後、SymantecやCarbon Blackは「その動きが見えにくくなった」と言われてきた。だが今、両ブランドはBroadcomのエンタープライズセキュリティ戦略の中で、自らの役割と価値をあらためて打ち出そうとしている。
本連載では、Broadcomと戦略的パートナーであるTD SYNNEXが、両社のリーダーや開発責任者へのインタビューを通じて、製品の現在地と市場への姿勢、そしてその背景にある思想を描き出す。クラウドとAIが交錯する時代に、両社がどのような信念をもってセキュリティの未来を形づくろうとしているのかーーその歩みを丁寧に伝えていく。
TD SYNNEX株式会社は、グローバルディストリビューターであるTD SYNNEX Corporationグループの一員として、ハードウェアからソフトウェア、クラウド製品まで幅広いITソリューションを顧客に届けている。外資系企業としてグローバルベンダーとのリレーションを生かしつつ、日本市場特有の商慣習やニーズを生かしながらITソリューションを提供していることが特徴だ。
その同社がBroadcomとパートナーシップを締結し、SymantecやCarbon Blackといった企業向けセキュリティ製品を国内向けに販売することとなった。この戦略の裏にある思いを、TD SYNNEX株式会社 ブロードコムビジネス部門長兼ファイナンス部門長の松澤太郎氏に尋ねた。
会社概要とセキュリティビジネスのこれまで
TD SYNNEXのサイバーセキュリティ領域におけるこれまでの取り組みを教えてください。
松澤氏:TD SYNNEXは、長年にわたりサイバーセキュリティ分野を手掛けてきました。2018年にネットワークセキュリティ製品を担当する専属チームを立ち上げ、2021年からは、グローバルでのTech DataとSYNNEX Corporationの合併に伴い、Tech Dataの強みであるサーバーやストレージ、ネットワーク、セキュリティ分野への投資を徐々に強化してきました。
しかし、サイバーセキュリティ製品は販売して終わりではなく、その後のサポート体制が求められます。こうした経緯から、これまでは積極的な拡大が難しい状況でしたが、今後はTD SYNNEX日本法人としても、エンタープライズセキュリティのビジネスをさらに強化していく状況にあります。
日本のサイバーセキュリティ市場における今の課題は何でしょう。
松澤氏:ご存じの通りサイバーセキュリティの脅威は日々高度化、複雑化しています。適切に対応しなければ情報漏えいなどの事故が発生し、甚大な損害が生じるでしょう。対策のレベルアップが求められる一方で、対応に当たる人材は間違いなく不足しており、お客さまはますます難しい環境に置かれています。
脅威が高度化していく中、かつてのようにエンドポイントだけ守ればいいというものではありません。ネットワークも含めてエンドツーエンドでどう守るか、そして、万一侵入された場合に大切な情報資産をどう守るかといった対策も必要になってきます。包括的な対策が求められるようになり、難易度は非常に高まってきています。足下の業績に影響を与えるコストという観点と、中長期的に会社の資産を守る観点のバランスを取りつつ、早期にサイバーセキュリティに投資していくことが大事だと思います。

TD SYNNEX株式会社
ブロードコムビジネス部門 部門長 兼 ファイナンス部門 部門長
松澤 太郎氏
Broadcomとの提携
そんな中でBroadcomとの提携に至った経緯をお聞かせください。
松澤氏:グローバルでのTD SYNNEXの実績を踏まえ、先行していた北米・中南米に続いて、日本でも2024年10月にBroadcomからお声がけをいただき、SymantecとCarbon Blackに関して、グローバルでパートナーシップを結ぶことになりました。
TD SYNNEXとしてもサイバーセキュリティは成長分野と捉えています。これまでのディストリビューションとは全く異なる新たなビジネスモデルに取り組み、サイバーセキュリティ領域で付加価値を提供していく大きなチャンスととらえています。
今回のパートナーシップにおいてBroadcomはソフトウェアメーカーとして、研究開発や製品そのものの設計、開発を進めるほか、グローバルでのSymantecやCarbon Blackのマーケティングに注力します。一方TD SYNNEXは、各地域の商習慣を理解している立場から、市場に根ざしたマーケティングと販売活動、アフターサポートを一括して担います。
バリューチェーンの後半を丸ごと担う立場として、TD SYNNEXは、従来のディストリビューターよりも大きな裁量権を持つ形でパートナーシップを結んでいます。具体的なマーケティング活動はもちろん、これまで日本市場のお客さまがSymantecやCarbon Blackに対して抱えていた課題に対し、直接的に手を打てるだけの権限と責任を持って、取り組んでいきます。
具体的にはどのような課題に取り組んでいくのでしょうか。
松澤氏:2024年11月に契約を結んで体制を整え、2025年2月から正式に販売活動を開始しました。それに伴い、パートナーさまやエンドユーザーさまとコミュニケーションを取り始め、直接声を伺う機会も増えています。
私の印象として、SymantecやCarbon Blackの製品そのものについては高い評価をいただいており、使い続けたいという意向をお持ちのお客さまがたくさんおられます。一方で、Broadcomによる買収後の取引条件や購入までのオペレーションについては大きな懸念を抱えているとも認識しています。
例えば、契約を更新したいけれども見積りを含め手続きが一向に進まない、あるいは時間を要してしまうといったさまざまな課題がありました。こうした状態ではいくら製品が優れていたとしても、お客さまやパートナーさまが懸念を抱えてしまうのはもっともです。
TD SYNNEXとしては責任を持ってこうした過去の問題にしっかり対応し、より良い製品を使いやすい形でお届けすることで、お客さまにも、パートナーさまにも安心いただける環境を整えていきたいと考えています。いわば、TD SYNNEXが体を張って不安を払拭し、皆さまの声に応えていきます。
課題を踏まえ、どんな手を打っているのでしょうか?
松澤氏:今は主にパートナーさまとお話をしていますが、その中でまずはTD SYNNEXの役割をしっかりと説明し、流れを変えていきたいと考えています。
例えば、価格に関してはわれわれがある程度裁量権を持っており、安定した価格で提供していきます。また、見積もり依頼から受発注までのオペレーションについても、この半年で改善を進めており、実際にスピード感がかなり変わってきたという声もいただいております。
アフターサポートについても、TD SYNNEXとしてグローバルで必要な投資を行い、しっかり整備を進めています。既に、かつてのSymantecのサポートメンバーを再招集し、2月1日からサポートを提供し始めました。Symantecの製品やお客さまサポートに対する情熱や責任を持つメンバーがそろい、クオリティの高いサポートを提供し始めており、徐々にポジティブな声をいただき始めています。
ゼロからのスタートで、契約から3カ月足らずでケイパビリティを構築していく中ではいろいろ苦心するところもありましたが、TD SYNNEXにとっても非常に重要なビジネスと位置付けてフォーカスし、しっかり投資しながら進めてきました。
グローバルの製品力と日本市場に根ざした取り組み
Broadcomとはどのような関係を築いていますか。
松澤氏:Broadcom側でも2024年後半に体制が変わり、SymantecやCarbon Blackの事業を担うEnterprise Security Group(ESG)のゼネラルマネージャーにバイスプレジデントのJason Rolleston氏が就任し、方針も大きく転換しました。
以前は、より脅威にさらされるリスクの高い大手のお客さまの要望に応えながら、大企業にフォーカスしてクオリティの高いサイバーセキュリティソリューションを提供してきました。今後は、そうして出来上がった高品質なソリューションを、大企業はもちろん、中堅・中小企業の皆さまにもより幅広く届けていきます。エンドポイントだけでなく、ネットワークセキュリティや万一の際の情報漏えい対策に至るまで、またオンプレミスだけでなくクラウド環境も含めて包括的な対策を実現し、日本の商習慣に詳しいTD SYNNEXならではのノウハウを生かし、パートナーさまと協力しながら、モニタリングも含め運用しやすい形でお届けしようという取り組みを進めています。
同時にBroadcomとも密にコミュニケーションを取り、日本からの要望、さらにはグローバルの声を届けながら、しっかり製品にコミットし、投資し続けていく姿勢を示していきたいと考えています。
こうした取り組みを通して、再スタートというと大げさかもしれませんが、かねてより高いSymantecやCarbon Black製品への信頼感のもと、質の高いソリューションを届けていく体制を構築していきます。
最後に、今後のTD SYNNEXのエンタープライズセキュリティビジネスの方向性についてお聞かせください。
松澤氏:繰り返しになりますが、サイバーセキュリティを取り巻く課題の解決に向けて、まずはSymantecやCarbon Black製品を安心してご利用いただける環境を整え、さらに中長期的に見ても継続的に投資を続けていくことをしっかり発信して皆様さまご理解いただけるよう、責任を果たしていきます。
その中でTD SYNNEXは、Broadcomとの連携のもと、マーケティングから販売、アフターサポートを行う立場から、独自のパートナープログラムの構築を考えています。お客さまの規模に合わせて最適なパートナーさまにリーチいただき、さらにTD SYNNEXから必要な製品知識やサポートを柔軟に提供することで、お客様によりフィットした形でソリューションをお届けし、安心してお使いいただける体制をより強化していきます。
Broadcomとの連携により、SymantecやCarbon Blackを日本市場で再展開するTD SYNNEX。その背景には、グローバルと日本市場を結ぶ新たな戦略がある。次回はBroadcom側の視点から、この協業の意図と日本市場への期待を聞く。


