コロナ禍の影響拡大と共に、リモートワークはすっかり当たり前のものになったが、それに呼応して別の課題がいくつも現れてきた。その一つが、コミュニケーションツールの変化と、それに合わせた問い合わせの増大だろう。あなたの身近でも、リモートワークや急なデジタルシフトで、情報システム部門や人事・総務部門への問い合わせが増えてしまっていないだろうか。
「ZDNet Japan Summit 2020 Goto デジタルノーマル」の「Event5 働き方&業務改善」セクションに登場した株式会社ユーザーローカルの林敬之氏は、「問い合わせ業務効率化のニューノーマル、AIチャットボット活用の最前線と成功ポイントを公開」と題して、社内の問い合わせ業務を自動化する、AIチャットボットを使った具体的な活用事例を紹介した。
ユーザーローカルは、ビッグデータ・自然言語処理・人工知能の3つの技術を軸にして、Web解析ツールやSNS解析ツールなどを提供している企業だ。昨年には、東証1部への上場を果たしたことで知っている方も多いだろう。そして、ユーザーローカルが提供しているツールのひとつが、自然言語処理などを活かしたAIチャットボットである。

AIチャットボットで、問い合わせの1次対応を自動化
チャットツールは、LINEやSlack・Microsoft Teamsなどでお馴染みのコミュニケーションツールとして普及している。チャットボットは、このチャットツール上で、自然な会話の流れを再現しながら自動応答をおこなうツールである。
林敬之氏は、自社のチャットボットの利用シーンから説明を始めた。
「チャットボットには、2つの利用パターンがあります。まずは、なにを質問したらいいか分からない人向けに、あらかじめ用意しておいた選択肢をクリックしてもらう方法です。もう一つが、質問内容が最初から分かっている人向けに、"年末調整のやり方"といった質問文を入力してもらう方法です。こちらは、あいまいな質問にも対応しながら、優先度の高い順に複数の候補を表示していきます。
チャットボットは、ビジネスチャットや社内ポータルと連携して利用できます。そして、必要な情報にたどり着けなかった場合だけ、メールや電話・有人チャットにつなぐことができます」

このようなAIチャットボットを活用することで、複数の問い合わせに同時に24時間対応が可能になる。また、知見の集約や一元化にも効果を発揮するという。
「問い合わせは、定型的なものや、この資料を読めばわかるよといったものが多くを占めています。これをAIチャットボットで対応して、複雑な問い合わせのみ有人オペレーターが対応できれば、問い合わせ対応業務の大幅な効率化を実現できます」
では、リモートワークや社内コミュニケーションに、AIチャットボットがどうして有効なのだろうか。その理由について、LINEやSlackなどチャット型ユーザーインターフェースのコミュニケーションツールが普及したことを指摘した。
「すでに、全世代平均で8割以上の人がスマートフォンを保有しています。また、日本人口64%がLINEを利用しています。Slack・Teams・LINE WORKSなど、ビジネスチャット市場も急拡大しています。そのため、利用者からみると、新たなツールやチャンネルを覚えなくても、使い慣れたユーザーインターフェースで利用できます。電話やメールで問い合わせる文化から、自己解決を促すスタイルに変えていくことができるのです」
テンプスタッフで、社内問い合わせ対応業務を自動化
ユーザーローカルでは、すでに500社以上にチャットボットを提供している。今回は、その具体的な活用事例として、テンプスタッフの社内マニュアルの運用改善について取り上げた。
「テンプスタッフでは、営業部門が約300、間接部門が約40の部署に分かれているそうです。そして、パソコンの追加といった業務のために、間接部門が多くの業務マニュアルを作成して、社内イントラのいろいろな場所に配備していました。
そのため、営業部門からすると、必要な情報が探しにくくなっており、"とにかく電話、まず電話"という状態になっていました。間接部門側も、電話で作業が中断したり、マニュアルが使われなかったりしており、どちらも業務効率が低下して、労働時間が長くなる一因になっていました」

「そこで、LINEのように直感的に使えて、少しのキーワードを入力するだけで必要な情報にたどり着けるAIチャットボットを導入しました。
その結果、自己解決に必要な時間が95%あまり短縮できるようになり、"知りたい情報にアクセスしやすく、社内システムでNo.1"といった声も寄せられたそうです」
成果を出すため、利用率を向上させる工夫
さらに、チャットボットの効果を発揮させるため、テンプスタッフでおこなってきた工夫についても紹介した。
「まずは、FAQの更新頻度を増やしました。このとき、社内への告知をあえて小出しにして、周知する回数を最大化しました。更新を告知する内容も、単に"FAQを更新しました"とするのではなく、"iPadを紛失した!どうする?iPadと検索してみてください"というように、具体的で目を引くスタイルにしました。
それから、チャットボットの選択メニューでは、選択肢として"GW期間中の注意点"・"年末調整"といった季節や時期に合わせた特集を一時的に追加したり、チャットボットをキャラクター付けすることで、ユーザーに親しみを持ってもらったり、回答が得られなかった言葉をランキングで確認できるので、それを集中的に更新したりといった取り組みをおこなってきました」

このほかに、株式会社ディップやLIXILの事例も紹介し、リモートワークの開始に合わせてどのようにAIチャットボットを活用したのか紹介した。
ユーザーローカルが提供するAIチャットボットは、平均95%の回答率を誇る高機能な会話エンジンを持っている。また、改善点が分かりやすいレポート機能をなどを備えており、回答品質の継続的な向上が可能になっている。さらに、回答率などの各指標に応じて、専任チームが改善をサポートしてくれるという。
リモートワークが後押しする、働き方やコミュニケーションの改革に対応するには、こうした省力化ツールの導入が不可欠だろう。興味があれば、こうしたツールも試してみては如何だろうか。