ノーク伊嶋のSMB短観09年正月版弐の太刀:テクノロジ編

株式会社ノークリサーチでは、2009年のSMB市場に関連するテクノロジ動向について予測を行った。

株式会社ノークリサーチ

2009-01-14 00:00

悪化する景況感の中で、09年にはどのようなテクノロジが注目されるのかをベンダ、チャネル、ユーザの各視点からの分析を踏まえ、年初のスコープとして提言するものである。本年も「SMB短観」としてSMB市場に関する様々な定点観測や専門的な分析を継続的に行い四半期毎に発表する(2月、5月、8月、11月の各9日発行予定)。
[09年のSMB関連テクノロジキーワード]
① SaaS≠GUIを持つアプリケーションのネット越しでの利用
② クラウドコンピューティングは個別の具体論へシフト
③ サービス化とセキュリティの新たな関係性に注目
④ 仮想化の焦点はサーバからクライアントPC環境へ
⑤ IoD代替としてのエンタープライズサーチが再注目される
⑥ キャリアに依存しないモバイルアプリケーション流通の形成?

① SaaS ≠GUIを持つアプリケーションのネット越しでの利用
2009年も引き続き注目を集めるキーワードである。しかし、既存ISVのSaaS参入は当初の予想と比べるとあまり進んでいない。その理由はSaaSの対象とされてきたアプリケーションの多くがグループウェアやメールといった情報系アプリケーションであり、それらをSaaSとして利用することのメリットが見えにくかったからである。ところが、2008年後半からはセキュリティ対策、クライアントPC管理、データバックアップといった自社内での実施コストや難易度が高い業務をSaaSとして提供するケースが増えてきた。つまり、「SaaS=GUIを持ったWebアプリケーションを社外に預け、インターネット越しに利用する」から「SaaS=自社のIT関連業務の一部(GUIを持つアプリに限定されない)を社外に預けてインターネット越しに利用する」という広がりが見られたのが2008年である。2009年はユーザ側がこうした「GUIを持たないSaaS」を活用する場面が更に増え、SaaS市場成長の主要な牽引力になると予想される。

② クラウドコンピューティングは個別の具体論へとシフト
2008年はクラウドコンピューティングという用語の定義付けに注目が集まった年だったといえる。しかし、クラウドコンピューティングは特定のソリューションではなく、むしろIT利用の一形態と捉えるべきだ。2009年は抽象論を終え、「どんなサービスを何のために利用するのか?」「そうすることでどんなメリットが得られるのか?」といった具体論へと重点が移っていく。H/WやN/Wといったインフラ(IaaS)、開発プラットフォーム(PaaS)、個々のアプリケーション(SaaS)の各リソース階層について、クラウド的利用の是非が個別サービスの名称を用いて議論されるようになるだろう。
そうした中で特に注目すべきポイントは下記である。
大手ユーザ企業向けには「プライベートクラウド」の提案が有効
クラウドコンピューティングの議論では、全ての企業が自社内にITリソースを持たないという将来像が描かれることが少なくない。特に中堅・中小企業にそうした動きを期待する向きもある。しかし、多くの中堅・中小企業は何をサービスとして利用し、何を自社内に留めるべきかの判断をすることが難しく、クラウドコンピューティングの活用はそれほど急速には進まないと予想される。その一方で期待されるのが大企業における「プライベートクラウド」の構築である。クラウドコンピューティングのメリット(仮想化されたITリソースの有効活用など)を自社内やグループ企業間で享受するという考え方である。この場合、情報システム部門は一種のサービスプロバイダ的な位置付けとなる。

既存海外大手はグローバルなエコシステムを形成
Salesforce、Google、Amazonといった既存クラウドサービス提供大手は今後更に互いの連携を深め、グローバルなエコシステムを形成していく。単独クラウドサービスで事業継続性や柔軟なシステム連携を実現することは難しい。そのため、複数クラウドサービスが形成するエコシステムへのニーズが今後増していくと予想される。しかし、日本国内ではNECや富士通などの大手ベンダ、KDDIなどのキャリア、NTTデータなどのSIerがようやくXaaS基盤を提供し始めた段階であり、ISVやSIerも依然として様子見状態である。2009年はこの差を縮めるための具体的な案件での試行錯誤を積む時期となることが期待される。

③ サービス化とセキュリティの新たな関係性に要注目
セキュリティという言葉が表す範囲は広範に渡る。クラウドコンピューティングやSaaSと関連して、ここでは特に以下の三つのポイントを挙げておきたい。

セキュリティ対策のサービス化が進む
セキュリティ対策の仕組みがサービス化する傾向にある。例として、パターンファイルをクライアントPC内で管理せずにパターン照合をサービス化するといった例が挙げられる。世界のどこかで発生したインシデントを素早く共有し、対策を講じるという目的に対して、サービス化は有効な手段であるといえる。2009年はセキュリティベンダ各社が自社のセキュリティ対策ツール類にサービスの要素を取り入れる取り組みが進むと予想される。

ソーシャルツールを安全に利用する仕組みが必要
TwitterやLINKedInといったいわゆるソーシャルツールを業務で活用することについては賛否両論ある。自社のニーズを満たすツールが既に低コストで提供されているのであれば、それらを自社システムに連携させた方が素早く安価なシステム構築が可能となる。ソーシャルコラボレーションはそうした取り組みであり、エンタープライズマッシュアップにもそうした事例が多い。しかし、ソーシャルツールの利用にはセキュリティリスクが伴うこともまた事実である。社外秘のデータを過失または故意にマッシュアップされた画面上でソーシャルツール側にコピーしてしまい、それが不特定多数に開示されるといった危険が懸念される。ソーシャルツールのメリットを享受しつつ、こうしたリスクを回避するためにはクライアントPCのGUI全体に対するセキュリティの仕組みが必要となる。例えば、URLを元に各ソーシャルツールに対して許可されるデータ種類を定義しておき、OLE2やDDEの処理をフックして、社外秘データのユーザ操作によるコピー&ペーストを制限するなどの試みが考えられる。実現は容易ではないが、2009年にはこうした試みの研究が進むのではないかと期待される。

サービスプロクシ・アプライアンスの可能性
企業内の業務システムの一部がサービス化することによって、企業が扱うデータは社内に留めるものと、社内とSaaS間を行き来するものに分かれてくる。現在はアプリケーションがその区切りとなっているが、サービス化の単位はモジュール単位へと細分化され、どのデータが社内限定であるかをユーザ側が識別することは困難になってくる。その際に必要となるのが「サービスプロクシ」である。セキュリティラベルが付加されたデータを識別し、社内外宛に適切なルーティングを行うといった動作イメージになる。それを実装する具体的な手段としてはソフトウェアで機能追加が可能なUTMアプライアンスなどが有力候補である。自社内のデータ管理が難しい中堅・中小企業が自社業務の一部をサービス利用へと切り替える過程においては、こうしたサービスプロクシ・アプライアンスが重要な役割を果たすと予想される。

④ 仮想化の焦点はサーバからクライアントPC環境へ
ここでは中堅・中小企業市場におけるサーバ/クライアントPC環境/ストレージのそれぞれの仮想化について今後の展望を見ていくことにする。2009年はサーバ仮想化が順調に普及を続ける一方、クライアントPC環境の仮想化が大きな注目を集める。ストレージの仮想化が本格的に普及し始めるのは2010年以降となる。

サーバの仮想化
中堅・中小企業向けにはブレードの初期導入と合わせて提案されてきたサーバ仮想化だが、今後はラック型でのサーバ仮想化が普及していくと予想される。
その理由としては
・仮想化用途を意識したマルチコア/大容量メモリのラック型サーバの登場
・システム構築を担当するSIerは運用に手馴れたラック型を選択する傾向が強い
・先が見えない経済不況の状況下ではベンダ固有の筐体を持つブレードよりも異種ベンダ混在が容易なラック型による構成を選択する可能性がある
といったことが挙げられる。
とはいえ、ブレードも依然として堅調を維持すると予想される。中堅・中小企業では自社でサーバルームを持ちたくても持てないというケースも少なくない。そうした企業層に対しては自立型の筐体を持ち、ストレージも含めた統合型ブレードが「ミニチュアサーバルーム」として魅力的である。したがって、2009年の中堅・中小企業においては、サーバ仮想化用途ではラック型の採用が進むものの、全体としてはブレードとラック型が同程度の成長率でタワー型を代替していくと予想される。

クライアントPC環境の仮想化
仮想化対象となるITリソースの中で2009年に最も多く変化すると予想されるのが、クライアントPC環境の仮想化である。クライアントPC環境のセキュリティリスクと運用管理負荷はユーザにとって大きな課題の一つである。従来はそれを解決する手段としてシンクライアントやアプリケーションのWeb化などが検討されてきた。しかし、いずれの方法も新たなH/W投資コストや開発コストが発生する。そのため、これらの対策はクライアントPC台数が多くスケールメリットが出しやすい大企業での採用が大半だった。しかし、2008年になって既存のクライアントPC環境をそのまま利用しつつシンクライアントと同等の効果を得られる「デスクトップ仮想化」や既存のアプリケーションをネットワーク越しに配布可能な「アプリケーション配信」といった技術が大手ベンダから本格的に提供され始めた。MicrosoftのMED-V/APP-VやVMWareのVMWare View/Thinappなどがその代表例である。中堅・中小企業のみならず、IT投資を抑えたい大企業にとっても既存H/W資産を流用できるソリューションは魅力的である。したがって、2009年には「デスクトップ仮想化」や「アプリケーション配信」が注目を集めると予想される。特に「アプリケーション配信」は既存のスタンドアロンアプリケーションやクライアント/サーバアプリケーションをあたかもWebアプリケーションのように管理できる技術であるといえる。その意味では既存ソフトウェアパッケージのSaaS化を促進する手段としてISVに着目される可能性もある。

ストレージの仮想化
ストレージにおける仮想化は、既にある程度ストレージ統合が進んでいる大企業においても事例がまだ少ない点や、運用管理の難易度が上がることの懸念から本格的な普及には至っていないのが現状である。中堅・中小企業においては、まず仮想化の前提となるストレージ統合を進める必要がある。ストレージ統合の行方を大きく左右するのがサーバ統合である。サーバ統合が進み、ファイルデータだけでなく業務アプリケーションのデータストアを統合するニーズが高まれば、NASからIP-SAN(主にiSCSI)への移行も加速され、ストレージ仮想化への下地が整う。ラック型をベースに仮想化を主体としたサーバ統合を進めた場合には、IP-SANを活用したストレージ統合へと進みやすい。一方、統合型ブレードによるサーバ統合を進めた場合は、全てをエンクロージャ内で完結させるメリットを享受するため、ベンダ独自の手法でストレージもエンクロージャ内に同梱し、各ブレードサーバでそれを共有するケースが多くなる。いずれも一長一短だが、前者は比較的サーバ台数やデータ量の多い中堅企業、後者はサーバが10台未満の中小企業で主に採用されると予想される。中堅・中小企業においては、2009年はサーバ統合と同期してストレージ統合が進む年である。そのため中堅・中小企業でストレージ仮想化が本格的に利用されるのは2010年以降になると予想される。

⑤ IoD代替としてエンタープライズサーチが再注目される
大企業においては社内に拡散したデータの効率的な活用が課題となっている。ベンダは個々の情報処理システムの壁を越え、任意のアプリケーションが必要な時に必要なデータにアクセスできる「Information on Demand」ソリューションを訴求しようとしている。中堅・中小企業においてもデータの有効活用は重要課題であるが、IoDのような大掛かりな仕組みを導入することは難しい。そこで再度注目される可能性があるのが、エンタープライズサーチである。エンタープライズサーチでは様々なデータソースへのコネクタが提供されているため、社内に分散したデータへのアクセスがある程度可能となる。検索結果に対してフィルタを掛けることで、社員属性に応じたアクセス制御も可能である。つまり、エンタープライズサーチを社内に分散したデータの「ビュー」として活用するわけである。IoDのようにデータの重複排除や名寄せといった高度なデータ統合はできないが、セキュリティを担保した上で必要なデータへのアクセス手段をユーザに与えるという観点では現実的な手段であるといえる。数種の業務システムを個別に構築し、社内に散在したデータに悩む中堅企業がセキュリティ対策と情報の見える化を両立させるためのソリューションとしてエンタープライズサーチの適用を再度検討する動きが出てくるものと予想される。

⑥ キャリアに依存しないモバイルアプリケーション流通の形成?
ISVやSIerが携帯端末向けのソリューションを提供する際に最も頭を悩ますのがキャリア依存の問題である。「Android」とそのマーケットプレイスである「Android Market」はモバイルアプリケーション開発の主導権をキャリアから一般の開発者へと開放するものとして期待されている。だが、課金の仕組みをどうするか?についてはまだ具体的な姿が見えてきていない。700MHz帯域入札の折にはGoogle自身がキャリアへ参入するのでは?との憶測もあったが、Googleの主たる目的がオープンアクセス条項を通すことにあったという見方が大勢だ。また、Google自ら販売するSIMロックフリーの「AndroidDev Phone1」についても、開発者に対して実機によるテスト環境を提供するためのものだ。したがって、Google自身がキャリアや端末メーカの役割を果たす可能性は低い。
一方、DoCoMoなどが「Android」の採用を表明しているが、これはオープン化への取り組みというよりは自社の開発コスト削減を模索する動きと捉えるべきだろう。SymbianOSやLinuxと並行して「Android」を採用し、国内外の端末メーカ各社の競争を更に活性化させる狙いもあると見られる。キャリア主導で課金体制の整備が進んでしまうと、アプリケーション配布の点でもキャリア依存が生じてしまう懸念がある。そうした背景を受けて、日本Androidの会ではオープン性を維持したマーケットプレイス開設の準備を進めている。Googleが「Android Market」における課金ゲートウェイをどのような形で提供するか?がキャリアに依存しないモバイルアプリケーション流通の実現を大きく左右することになる。いずれにしても、2009年がその節目の年になることは間違いない。

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