ノークリサーチQuarterly Report
2011年冬版(Vol 014)
調査設計/分析/執筆: 岩上由高
2011年冬の中堅・中小企業におけるIT投資指標
株式会社ノークリサーチ(本社〒120-0034 東京都足立区千住1-4-1 東京芸術センター1705:代表伊嶋謙ニ03-5244-6691 URL:http//www.norkresearch.co.jp)では、中堅・中小市場における第14回目のIT投資実態調査を行った。
調査対象抽出条件: 年商500億円未満の国内民間企業1000社の経営層および管理職
調査実施時期: 2011年2月
※グラフは下記URLをご参照ください
(リンク »)
IT投資DIは前回から改善したが、世界情勢に起因する原油高や食品原材料高は不安要素
経済環境変化による影響が顕在化する前に、更新需要以外のニーズを発掘しておくべき
▼回復の兆しは見られるが、経済環境からのマイナス要因に警戒が必要
▼年商5億円~300億円における更新需要以外での訴求策を練るべき
▼業種固有の競争力維持/存続に向けた粘り強いIT活用提案が必要
▼各種DI値の変化⇒回復の兆しは見られるが、経済環境からのマイナス要因に警戒が必要
以下のグラフはIT投資DIおよび経常利益DIの変化をプロットしたものである。2010年11月にはIT投資DI、経常利益DIが共に落ち込んだものの、2011年2月は改善の動きが見られた。米国経済における回復の兆しや中国およびその他新興国における経済活動の活性化、国内においてもスマートフォン普及に伴う電子/デバイス関連の生産増などが主な要因として考えられる。
だが、世界各地の天候不順/自然災害に起因する食品原材料高や北アフリカ/中近東におけるデモ活動の活発化に伴う原油高に加え、国内政治においても予算関連法案の可決が不安視されるといったマイナス要素も目立つ。経済環境悪化に伴う急激なIT投資削減を回避するため、ITを提供する側としては中長期的な視点でユーザ企業の競争力/存続力を強化する説得力のあるソリューション提案が求められてくる。そのための端緒として、以下のページでは年商および業種に応じたDI値変化をプロットし、そこから得られる個別傾向について触れている。
[IT投資DIの定義]
今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した「IT投資意欲指数」
[経常利益DIの定義]
前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」
▼年商別のIT投資傾向⇒年商5億円~300億円における更新需要以外での訴求策を練るべき
以下のグラフは経常利益DIおよびIT投資DIの変化を年商別にプロットしたものである。
経常利益DIはいずれの年商帯においても前回調査時点から改善している。改善幅が比較的大きいのは年商300億円以上~500億円未満と年商50億円以上~100億円未満の年商帯だ。両者いずれも「日本国内および海外向けの需要が回復してきている」を経常利益改善の理由として挙げる割合が他の年商帯と比べて高い。前者は大企業とほぼ変わらない規模を有することによる業績回復力、後者は逆に企業規模がそれほど大きくないことから経済環境の上下が業績に反映しやすいものと考えられる。今後は前者の傾向が年商100億円以上~300億円未満へ、後者の傾向が年商5億円以上~50億円未満へと伝播していくと予想される。年商5億円未満の小規模企業については経常利益DI値そのものが低い値のままであり、今後も厳しい状況が続く。
IT投資DIについても2010年11月時点からは全年商帯において改善が見られる。改善幅が比較的大きいのは年商300億円以上~500億円未満と年商5億円以上~50億円未満である。前者については「業務効率改善が必要」に次いで、「中長期視点でITコストを削減するため、ハードウェアやソフトウェアの更新が必要」とする事由を挙げる比率が高く、今後の変化にも耐え得るIT基盤の構築を意識している。年商100億円以上~300億円未満もこれと同様の傾向を示している。一方、後者では「現状を維持するため、ハードウェアやソフトウェアの更新が必要」が多く挙げられており、更新需要主体である点に注意が必要だ。年商5億円以上~50億円未満においても同様の傾向である。年商5億円未満では「現状を維持するため、ハードウェアやソフトウェアの更新が必要」を挙げる割合が70%に達しており、業績が厳しい中で限られた更新需要にIT投資を絞る可能性が高いと予想される。
原材料高や原油高といった不安要素があるものの、経常利益DIが2010年11月時点から改善したことは大きなプラス要因だ。これを契機として、ITを提供する側としてはユーザ企業の意識を業務効率改善のためのIT投資へと向けていくことが重要である。
▼業種別のIT投資傾向⇒業種固有の競争力維持/存続に向けた粘り強いIT活用提案が必要
以下のグラフはIT投資DIの変化を業種別にプロットしたものである。いずれの業種もIT投資DIは2010年11月時点からは改善している。
特に改善幅が大きいのは小売業である。2011年11月時点で同業種のIT投資DIは大きく下降したが、2011年2月は「海外向け需要が回復している」などの事由によって経常利益DIが改善し、それに伴ってIT投資DIも回復する結果となった。だが、他業種と比べるとIT投資削減事由として「資金余力の不足」を挙げる比率が低く、IT活用の次の一手が見えていない状況には変わりない。小売業の業績改善に寄与し、かつ相応のIT投資が見込めるソリューションの模索が引き続き求められる。
建設業と流通業は他業種と比べてIT投資DI値が低い位置にある。これら二業種は経常利益DIが2010年11月から悪化していることが大きな要因だ。建設業においては建築資材の価格上昇、流通業においては消費者や企業の節約志向による移動の抑制といったことが業種固有の要因として挙げられている。これらの業種に対しては、初期投資を抑えつつ、実業務におけるコスト削減を実現できるサービス形態でのソリューション提案が有効と考えられる。
卸売業は2010年11月にはIT投資DI値が全業種の中で最もプラスに近い値であったが、2011年3月には経常利益DIが若下降したことを受けて、IT投資DIの改善幅が小さくなっている。中堅・中小の卸売業は国内市場への依存度が小売業と比べてやや高いため、国内の消費者や企業の節約志向が依然強いことが同業種の経常利益DIに影響したものと考えられる。しかし、小売業との各種取引の電子化など中長期的な視点にIT投資意向は存続しており、それらを無理なく進められるソリューションの提案が求められている。
上記以外の組立製造業、加工製造業、IT関連サービス業、サービス業(IT関連以外)に関しては経常利益DIの改善に伴って、業務効率改善および現状維持を事由としたIT投資も改善の兆しが見られる。ただし、更新需要が多くを占める状況は経済環境が悪化すれば再び強いIT投資抑制傾向へと後退する危険性も秘めている。業種固有の事情を踏まえ、企業の競争力維持や存続に寄与するソリューション提案を粘り強く継続することが重要な局面といえる。
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TEL 03-5244-6691 FAX 03-5244-6692
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用語解説
[IT投資DIの定義]
今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した「IT投資意欲指数」
[経常利益DIの定義]
前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」
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