2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」へ記載された「2025年の崖」は、レガシーと言われる旧来のシステムに固執し利用し続けることで、その企業のビジネス自体が大きく後退し、時代の流れの中で取り残されることを意味している。こうした警告が現実味を帯びたものとして受け取られるなか、組織としての情報システム部門も、旧来のシステムと同じように「後退し時代に取り残される」危険をはらんでいる。そこで、今回SaaSの利用動向と課題調査に関するアンケート調査の結果を中心に、「生き残る」だけではなく情シス部門が「生まれ変わる」には何が必要なのかを考えてみる。
アンケート概要
いま多くの企業が取り組んでいるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、一言で置き換えると、「新しいビジネスやサービスをITによって生み出す取り組み」であり、ビジネスを直接担う業務部門だけでなく情報システム部門が、アプリケーション開発などに主体的にかかわる必要が出てくる。
つまり、システム自体もレガシーから新しい環境に合わせたものに変化すると同時に、情報システム部門もレガシーなバックオフィスの位置付けから脱却し、新しい業務の進め方を模索していく時代に入ったということだ。そこで、今回は、まず情報システム部門が主体で進めているであろうSaaSの利用動向の実態を探るとともに、同部門が抱える実情についてもアンケート調査を実施した。
今回の調査は、朝日インタラクティブがZDNet Japan読者を対象に2019年9月4日から10月18日に実施した。有効回答数は305。回答者のプロフィールは、下記グラフに示したとおりである。
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情報システム部門を取り巻く環境は厳しいまま
まず部門を取り巻く環境についての回答を見てみよう。IT部門の所属人数は、1~5名が最も多く40.3%で、次いで21~50名が15.7%、6~10名が13.8%となった。従業員規模別に見てみると、1~5名というのは従業員10~50名未満の企業で最も多く、93.3%となった。また従業員300~500名未満の企業から所属人数が6~10名の割合が増加し、従業員1000名~2000名未満の企業では、6~10名、10~20名、21~50名という割合が均等に表れてくる。
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こうした状況のなか、「今お持ちのIT課題は何ですか(2つまで)」という問いに対しての回答は、社内人材のリソースやスキルの不足が最も多く、システムの老朽化、IT投資の予算化が難しい、明確なIT戦略が無い、と続いた。
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また、「課題解決のために具体的に取り組まれていることはなんですか」という質問に対しては、統合、集約化などサーバやストレージ環境の見直しがトップで、次いでRPAなどによる業務の自動化推進、ネットワーク/セキュリティの再設計、構築と続いている。
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かつてと比較すれば、IT予算はよい傾向に?
続いて、IT予算について見てみよう。「2018年度と比較した年間IT投資額」では、全体では横這いが最も多く42.6%で、増加傾向が34.8%となっている。「横這いか増加傾向」と回答した企業の数が最も多かったのは従業員規模別が100~300名未満の企業で、50社中42社にものぼった。次いで多かったのは500~1000名未満の企業で、39社中34社となった。
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また、「おおよその年間IT投資額」では、1億円以上が30.5%と最も多く、500万円未満が22.3%と続いた。従業員規模別では、300~500名未満の企業では500万~1000万円、1億円以上と回答した企業がほぼ同数となり、500~1000名未満の企業でも1000万~2000万円、1億円以上と回答した企業がほぼ同数となっている。また、従業員1000名以上の企業はいずれも1億円以上という回答が最も多い。
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身を削る改革から、生まれ変わるための一歩を踏み出す
ここまでのアンケート結果から、IT部門を取り巻く環境は、予算的には5~10年前の猛烈なコストカット要求は多くの企業で収まりつつあるようだが、人的資源の面でいえばスキルなどに不安があり、人数的にも足りていないという感覚があるようだ。
もちろん、部門として必要な作業には優先順位をつけて取り組まれている。優先されているのは、オンプレミスのシステムに対する改善が主で、ネットワークとセキュリティまわり、そして業務システムに自動化アプリを入れて省力化、という取り組みが上位にランクされた。
それに対して、AWS(Amazon Web Services)などパブリッククラウドの積極的採用や業務アプリケーションのSaaS化などアプリケーションモダナイゼーションの実施、仮想化統合、SDx(※1)などによるプライベートクラウド化の推進といった先進性の高い取り組みは、まだ、少数派という結果となっている。こうした取り組みは、コスト低減にも大きく貢献するはずで、現在も採用する企業がもっと多くなってもよさそうなはずだが、そのようにはなっていない。新しい取り組みよりも、オンプレミスのシステムのITコストを適正化することが業務の最優先となっているのではないだろうか。
ユーザー部門や企画部門が、アプリケーション導入に大きく関与
今回の調査では、業務アプリケーションの導入にあたり主導する部門についてもたずねている。そのなかで、情報システム部門とは切り離して、ユーザー部門や企画部門などの戦略部門がアプリケーション導入を主導する動きが見られる。業務アプリケーションに関しては、実際にその業務に携わる部門の方が深い知識をもっており、機能面で十分かどうかを実情に即して判断できるという面があるのだろう。また、特に新しい業務領域やソリューションにおいては情報システム部門とは異なる部署が主導してSaaSなどのクラウドサービスの利用を進めているのではないだろうか。
とはいえ、全社的なセキュリティ、コンプライアンスなどの観点から適切なアドバイスを送ったり、導入の際に他システムとのデータ連携を図り自動化したりするなど、情報システム部門が果たす役割は少なくないはずだ。
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どんな領域からクラウドを活用していくか
レガシーなオンプレミスシステムを、一気に無くすのは難しい。しかし、いったん旧来システムの役割を限定してしまったうえで、新しいアプリケーションの導入については、クラウドファーストを前提に進めていくことが、システム部門の運用負荷をこれ以上増加させないことにつながり、一般ユーザーへのサービスの質も向上することが期待できるはずだ。では、どのようなことからクラウド化を進めていけばよいのか。
朝日インタラクティブは、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの後援により、「ZDNet Japan & AWS Partner Network AWSセミナー2019 熱血!クラウド活用塾」を2019年9月から4回にわたって開催。そのなかで、「働き方改革」「業務システムのクラウド化」「運用の自動化」「データドリブン経営」をテーマに、各企業のレベルに応じたクラウドサービスの利用について考えてきた。
こうしたソリューションを活用することで、徐々にクラウド化を進めていくというというスタンスが現実的なのかもしれない。
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規模の大小を問わず今日の日本企業の大きな課題はIT人材の不足であり、これは今後さらに厳しさを増していくであろう。そうした環境におかれても、攻めのITのための余力を確保して実行していくには、第3回の「運用の自動化」を中心とするクラウドサービスを活用するなどで、インフラ領域における情報システム部門の負荷軽減につながる。また、第1回の「働き方改革」、第2回の「業務システムのクラウド化」で紹介したような部分ではユーザー部門や企画部門と、第4回のデータドリブン経営に関わる部分では、経営層や関係部署と緊密な連携をとり、自社のセキュリティやコンプライアンスに則って、他のシステムと連携した全社最適の効率的なシステムを目指すことが、情報システム部門に求められてくる。
クラウドサービスをうまく活用して、全社が一体となってIT化を進めていくことが、人材不足の時代においてDXを進めていくうえでの大きなポイントと言えるだろう。
※1 Software-Defined anything。ソフトウェアの定義化のこと。