セキュリティと生産性の両立という企業の課題
組織全体のセキュリティと従業員の生産性をどう両立させられるかは、IT 管理者にとって常に頭を悩ませる課題の 1 つだ。セキュリティを強化しようとすると、それを守るために管理が厳格化され、手間や時間がかかるようになり、業務効率は落ちてしまう。一方、従業員の生産性を追求しようとすると、柔軟性と引き換えにセキュリティ リスクが高まり、さまざまなインシデントを招いてしまうこともある。
トレードオフの関係にあると思われがちなセキュリティと生産性だが、近年はツールが進化したことで両立の可能性が探られている。従業員の安全を守りながら、従業員が気持ちよく業務をこなす環境が提供できるようになってきているのだ。
その 1 つがセキュリティの担保されたブラウザの利用である。Gartner の調査結果 ※1 では、2030 年までにエンタープライズ ブラウザはシームレスなハイブリッド ワークを実現するプラットフォームの中心になると示している。たとえば、もしある業務を行う際にセキュリティを確保するためにユーザーが何らかのツールを操作したりソフトを更新したりする必要があれば、業務効率を損ねてしまうだろう。そこで毎日使用しているブラウザの中でユーザーが特別に意識することなく自然とセキュリティが強化され、普段通りの操作で業務をこなすことができれば、業務効率は落ちることはなく生産性向上が期待できる。
こうしたセキュリティと生産性を両立した企業向けブラウザが「Chrome Enterprise」だ。今回はその具体的な機能やメリットを紹介していく。
エンドユーザーの生産性を向上させる優れた基本機能と拡張機能
Chrome Enterprise を業務プラットフォームとして採用すると、エンドユーザーである従業員は慣れ親しんだ Chrome ブラウザで日々のさまざまな業務をシームレスに行うことができるようになり、働きやすさだけでなく、一人ひとりの業務効率を最大限引き出すことにつながる。
Chrome ブラウザの基本機能として、安全性を担保しながら業務効率向上を支援する機能が備わっている。例えば、あらゆるサイトで安全に、そしてスムーズにパスワードを利用できる「パスワード マネージャー」や、セキュリティ パッチなどが適用された最新の状態であるかをブラウザが確認できる機能がある。また、簡単な設定でプライバシーを管理できる機能や安全にネットを閲覧できる「セーフ ブラウジング機能」を備える。
パフォーマンスについても、高速でレスポンスのよい UI を備えるだけでなく、検索バーを使った効率良い作業環境の提供や、省エネモード、メモリセーバーなどの機能を使った安定した環境を提供できるのも特長だ。
利用環境としても、Windows だけでなく、Mac、Android、iOS などクロス プラットフォームに対応し、OS の各バージョンにも幅広く対応することで、業務で求められる既存システムとの互換性も担保されている。
こうした基本機能だけなく拡張機能を使うことで、エンドユーザーにとって使いやすく働きやすい環境を整え、劇的に生産性を向上させることができる。拡張機能は豊富なものが存在しており、例えば Google 翻訳技術を用いて、閲覧しているページや任意の箇所を翻訳できる「Google 翻訳」ブラウザ拡張機能のように、Google が開発・提供しているものもある。ほかブラウザ上でワンクリックでタスクを Google ToDo リストに追加して管理する画面を表示するものや、あらゆる Web サイトにて音声認識でフォーム上に入力可能にするものなど、サードパーティの企業からさまざまな拡張機能が提供されている。UI を変更して自分好みにカスタマイズする拡張機能も提供されている。
IT 管理者がセキュリティと管理を強化できる
「Chrome Enterprise Core」
拡張機能は、「Chrome ウェブストア」を通じてさまざまなものを利用でき、業務効率化に大きく役立つツールである一方で、中には必ずしも自社のポリシーに適合した十分なセキュリティが確保されているとは限らない。そのため、IT 管理者としてはこの利用を統制したいというニーズがあるだろう。

この生産性とセキュリティの間で生じるジレンマの解消に役立つのが、Chrome ブラウザの IT 管理者向け機能である「Chrome Enterprise Core」である。これを利用すれば、従業員が利用しているChrome ブラウザを一元管理でき、この拡張機能を含めて、運用の一元化やポリシーの一括制御、保護の強化などを実現できる。
具体的には、拡張機能のリスク監査やインストール制御、アクセス基の属性や端末に基づく最適なセキュリティ ポリシーの柔軟な適用が可能。また、ブラウザの状態やログを可視化するレポート機能によって状況を詳細に把握することを可能にしたり、更新のスケジュールやバージョン管理を自在に操り、常に最高のパフォーマンスを維持することができる。
このように Chrome Enterprise Core が提供する各種機能の中でも、拡張機能のリスク監査やインストール制御は、生産性とセキュリティを両立させるうえで大きなポイントになる。拡張機能は生産性を上げるためのツールとして従業員に役立つ機能であることは先述のとおりだが、もしその管理を厳格化してしまえば生産性を阻害してしまう可能性もあり、ここでもトレードオフのジレンマが生じる。
そこで、Chrome Enterprise Core では、拡張機能のリスクを判定し、ホワイトリストやブラックリストで制御したり、リクエストの承認フローを用いてユーザー要望に応えるなど、利便性と安全性を両立した拡張機能の運用が可能だ。また、不正なサイトへのアクセスをブロックしたり、不審なファイルのダウンロードを防いだりするためのセキュリティ機能を管理者側であらかじめ設定をすることで、安全性を確保しながらも、業務効率を最大限に引き出すことが可能となる。そして重要なのは、この管理をブラウザ上で簡単に実施することができるという点である。

拡張機能管理の画面例
企業向け「Chrome ウェブストア」でも新しい機能が追加
Chrome ウェブストア自体にも、企業向けに拡張機能を安全に利用しながら生産性とセキュリティを向上できる新しい機能として、「Chrome Web Store for Enterprise」がリリースされている。
この機能によって、企業は事前承認された拡張機能を簡単に見つけて直接インストールできるようになるほか、有害な可能性のあるアドオンや検証されていないアドオンをユーザーがインストールするリスクを最小限に抑えられるようになった。
さらに、ブロックされている拡張機能用のタグを表示したり、限定公開の拡張機能を検索バーで直接フィルタしたりすることで、承認されている拡張機能をこれまで以上に簡単に見つけられるようになっている。

サードパーティ提供によるリスクスコアの確認も簡単に行える
さらに Chrome Enterprise では、Chrome Enterprise Core の管理機能に加え、より高度なセキュリティを提供する有償のソリューション「Chrome Enterprise Premium」も提供されている。Chrome Enterprise Premium を利用すると、より高度なアクセス制御やデータ保護、リスク監査などを実現できる。
このように、Chrome ブラウザを利用すると、エンドユーザーの生産性や働きやすさを追求しながら、セキュリティ運用を効率良くシンプルに実施することが可能になる。一方、セキュリティを厳格に運用しすぎることでエンドユーザーの業務効率を低下させてしまう事態も避けることができる。
セキュリティと生産性の両立という点もメリットだが、Chrome Enterprise Core は追加コスト無しで提供されているため、コストをかけずに既存のセキュリティを強化したいというニーズに応える。業務の多くがブラウザに依存する今の時代、ぜひ有効活用していきたいソリューションと言えるだろう。
※1 Gartner, Emerging Tech: Security — The Future of Enterprise Browsers, Dan Ayoub, Evgeny Mirolyubov, Max Taggett, Dave Messett, 14 April 2023.