
HCL ソフトウェア ブランド統括ディレクターの中島治氏
既存顧客を大切にしたい
HCLは、2019年7月にIBMからNotes/Dominoなどの製品群の買収を完了したばかり。これらの製品が正式にHCL製品として提供されるようになったのは買収後のことだが、すでに両社は2017年10月に共同でNotes/Dominoの新バージョンを開発すると発表していた。中島氏によると、2018年10月にリリースしたNotes/Domino V10からHCLが開発を担当していたということだ。
今回リリースしたV11について中島氏は、「HCLでは、顧客の意見を吸い上げ、市場の要望を理解して製品にフィードバックした上で新バージョンを出すというスタンスだ。新規ビジネスを獲得することだけにフォーカスするのではなく、既存顧客を大切に守り、顧客の声を聞いて製品やソリューションとして提供したい」と述べている。
HCL NomadでNotes/Dominoアプリのモバイル利用が可能に
ジャパン・キーノートでは、HCLの臼井修氏がHCL Nomadを紹介した。HCL Nomadは、以前Domino Mobile Appsと呼ばれていたもので、Notes/DominoのアプリケーションがiPad上でそのまま利用できるというものだ。App Storeから直接iPadに導入し、Notes/Domino メンテナンスを保有するユーザーであれば追加費用を支払うことなく利用可能だ。

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HCL Nomadが進化した点について、臼井氏は「メールのデータベースがNomadで開けるようになった。いままでNotes/Dominoで使っていた業務を外出先で簡単に使えるようになる」と語る。
現在公開されているのはiPad版のみだが、iPhone用のHCL Nomadもベータ版が用意されているという。iPad版と同様、Notes/DominoのアプリケーションがそのままiPhone上で利用できるもので、「年内には提供できるだろう」と臼井氏はいう。(12月20日提供開始)

HCLの臼井修氏
また臼井氏は、「Notes/Dominoのビューやフォームが開発できるスキルさえあれば、そのままモバイル用ビジネスアプリケーションが構築できる。通常iPhoneやiPad用のアプリは、Swiftで構築し、端末への配布も考慮しなくてはならないが、HCL NomadであればApp StoreからダウンロードしたHCL Nomadを通じて自作のビジネスアプリケーションにアクセスできる。運用管理やiOSのアップデートもHCL Nomadが吸収できる」と説明する
iPad用トラブルチケット管理アプリを紹介
講演では、iPad用のサンプルアプリとして、トラブルチケット管理アプリのデモが披露された。このアプリは、HCLがコミュニティメンバーの中から任命した製品エキスパート、HCL Masterが協力して構築したものだ。
HCL Masterを代表して登壇したのは、ケートリック 代表取締役の田付和慶氏だ。トラブルチケット管理アプリについて田付氏は、「トラブル対応スタッフがiPadを持って現場に急行し、トラブル対応する際に使ってもらうことを想定している」と述べ、実際に利用している場面を再現。トラブルを起こしたパーツの写真をiPadで撮影し、その場でデータベースにアップロードする様子や、文書を保存する際にSlackと連携できることなどを説明した。
「工場などの過酷な労働環境では、油が飛び散ったり粉塵が舞い上がったりしているが、iPadはファンがついてないため壊れにくいとされている。そういった環境で、なおかつオフラインで利用することも想定し、このアプリを用意した」と田付氏。開発にあたっては、「従来のNotesからデザインをブラッシュアップすることに一番注力した」としている。

ケートリック 代表取締役の田付和慶氏
同アプリは、「ビューやフォーム、LotusScriptといった、従来のNotes/Domino V6以降の技術でほとんど作られている」と田付氏。ただし、Slack連携に関しては、「LotusScriptからHTTPリクエストが可能になるというV10の機能を活用した」という。
iPadでアプリケーションを利用するには、Web化やXPagesによる開発も選択肢として考えられるが、田付氏は「HCL Nomadであれば、Notesクライアントのセキュリティと同等のレベルが担保できる点が強みだ」と述べている。
Notes/Dominoのメリットをあらためて考える
このように、Nomadを活用するなどして新たな体験を届けようとしているHCLだが、中島氏はNotes/Dominoがオールインワンソリューションであることこそ真のメリットだと強調する。つまり、1つのソリューションで、データベース機能から検索エンジン、メールサーバー機能、HTTPサーバー機能、サーバー冗長化機能、システム連携機能、ディレクトリ機能、認証とアクセス制御機能、アプリケーション開発環境、管理機能まですべてを提供できるところに強みがあるという。
また、Notes/Dominoのライセンスはユーザー数によって課金されるため、「アプリケーションの数や、利用するクライアントの種類・数に影響を受けることがない点も大きなコストメリットだ」と中島氏。同氏は、「働く環境が変化し、iPadやiPhone、Androidなどさまざまなデバイスを利用するようになっても、新たな投資は必要なく、すべての機能を最大限利用できる」と主張する。
HCLの鴨志田喜弘氏も、コストメリットについて「例えば5人のユーザーを抱えるグループが、個別のユーザーIDとは別に共有IDを取得し、合計6つのIDを利用する場合でも、ライセンスは5人分で済む」と説明。「脱Notesを検討する際には、今一度Notesのコストメリットと移行の限界について考えてほしい」と述べている。
鴨志田氏が“脱Notes”の失敗例の1つとして挙げるのは、文書が正しく再現できない可能性がある点だ。Notes/Dominoは、リッチテキストで文書が作成できるだけでなく、アクセス制御や検索、リンクなどの機能を含めた文書型データベースである。移行先で文書の見た目だけが再現されたとしても、文書同士の関係が維持できず、「文書リンクが欠如したり、リッチテキストや記号が崩れたりする。データの移行はできても、アプリケーションとしての再現性は確保できず、結果として使えなくなることもある」という。

HCLの鴨志田喜弘氏
また、Notes/Dominoはアプリケーションの開発や展開に必要なすべての機能を網羅するオールインワンの統合環境であることから、「サーバーや開発ツールなど、さまざまな製品や技術を組み合わせて多数のアプリケーションを展開するよりも、管理や運営の負担とコストが大幅に軽減できる」と鴨志田氏はいう。Dominoサーバーを1つ追加することで、ディザスタリカバリ対策も可能になる。
さらに鴨志田氏は、Notes/DominoがHCL Nomadによるモバイル対応を進めていることや、DQLによって他システムからのデータも活用できる形に進化している点を強調。将来性は高いとして、「新しい利用方法を取り入れ、今後もNotes/Dominoのデータやナレッジを活用してもらいたい」と述べた。
HCL Software Digital Solutionsのセールス責任者で、アソシエイトバイスプレジデントを務めるFrancois Nasser氏は、IBMからの買収が完了してからの約半年の間に、「4万ユーザーを抱える南アフリカの顧客が再度HCL製品を使うことになった。また、北米のトップ5に入る銀行の顧客は、3年前にHCL ConnectionsからMicrosoft SharePointに移行したが、やはりHCL製品に戻ることが決まった」として、同社の勢いをアピールした。
新たな地平へと踏み出す「Notes/Domino」--キーワードは「イベントドリブンアーキテクチャ」