映画「007」シリーズの新作、「スカイフォール」が近く公開となる(12月1日予定)。本作は23番目の作品となり、初作が公開されたちょうど50年前からは世相も様変わりしている。本作もそれを反映し、インターネット時代ならではの敵が登場しているのが、ZDNetとしては極めて興味深いところだ。
少し具体的に述べると、冷戦時代の作品テーマに見られた国家間の諜報合戦の場面は、今回ない。国家間の紛争にかわって、アメリカ同時多発テロ事件以降に強まった、いわゆる「テロとの戦い」というわけでもない。では敵が何なのか、というのは触れないが、いま世界的に警戒感が高まっている「サイバー攻撃」が本作でリアルに描かれるのは、特筆すべき事項だ。特に序盤のストーリーの展開に大きく関わっている。しかも最近の世界的なセキュリティ関連の事件を積極的にモチーフにしており、セキュリティに関連する立場の人であれば、思わずニヤリとしてしまう場面が矢継ぎ早に展開されるのだ。
ジェームズ・ボンド役はダニエル・クレイグ
マルウェアを使ったインフラへの攻撃が実際に確認された事例として、イランの核施設を狙ったコンピュータウイルス、スタックスネット(Stuxnet)は記憶に新しいだろう。このウィルスは核施設の制御システムを乗っ取り、機器を動作不能にしたり、不正なコマンドで故障に陥れるとされる。この存在が明るみに出てから、インフラに対するサイバー攻撃がテロの一手段として警戒されるようになった。果たして本作では、施設内のガス供給システムを狙ったサイバー攻撃の場面が登場する。システムの制御を奪った敵がガス管のバルブを全開にし、爆発を引き起こして施設を半壊させるというものだ。
このようなことが実際に可能なのか?と考えてしまうが、実は決して、絵空事ではないようなのだ。社団法人日本ガス協会では「ガスの安定供給に向けた情報セキュリティ対策」という報告書をまとめているが、ガスの供給系統である「遠隔監視制御システム」では、供給ライン圧力や流量の監視に加え、確かにシステム経由で遠隔遮断弁や圧力調整機などの制御が可能とある。こうしたシステムが攻撃者の制御下に陥るのは、あってはならない状況だ。報告書では制御系システムのセキュリティ対策として、インターネット等の外部ネットワークとは分離運用すること、などと挙げている。だが前述のスタックスネットは、ネットワークから隔絶されたシステムであっても、USBメモリなどを媒介に侵入する。ネットがなくても「人」がウイルスを媒介するわけだ。
こちらはベン・ウィショー演じる「Q」
今回の映画でも似たような場面がある。敵がわざと逮捕され、ウイルスが仕込まれたPCを押収させることで、まんまとウイルスをシステムに侵入させるというものだ。体を使い、まさに本来の意味通りの「トロイの木馬攻撃」をさらっと行なってみせる敵の姿は、その余裕が実に心憎い。
ともかく総じて言えるのは、50年前から社会情勢が一変し、「007」で扱うテーマも大きく変ったということ。サム・メンデス監督の本作では「ファイアウォール」「暗号化」など、セキュリティやネットワークに関する用語が、説明なしにどんどん出てくる。劇中でもジェームズ・ボンドは、当り前のようにスマートフォンを使いこなしていた。
こうしたテクノロジーなしには生活が成り立たなくなってきた現代、果たしてボンドは、どのような活躍っぷりを見せるのか。その答えは、ぜひ劇場で詳しくチェックして頂きたい。
●出演者
ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム、レイフ・ファインズ、ベレニス・マーロウ、ナオミ・ハリス、ベン・ウィショー with アルバート・フィニーand ジュディ・デンチ as "M"
●監督
サム・メンデス
●主題歌
アデル「Skyfall」
●脚本
ニール・パーヴィス&ロバート・ウェイドandジョン・ローガン
●プロデューサー
マイケル・G・ウィルソンandバーバラ・ブロッコリ
●ウェブサイト
http://www.skyfall.jp/
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