東芝はコアコンピタンスを失った--分社化は正しい策でないと経営学者が警告

末岡洋子

2017-01-25 07:00

 東芝が大きく揺れている。経営危機により存続が危ぶまれる中、東芝が分社化を検討していることが明らかになったが、その場合「国内に技術が残らなくなる」と警告するのは、早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚氏だ。1月13日にサイコム・ブレインズで開催されたメディア向けの勉強会で、東芝の課題と今後の対策について助言した。

 長内氏は京都大学経済学部を卒業、ソニーに勤務した後に経営学の世界に入る。業務留学で入学した京都大学で博士(経済学)を取得、早稲田大学ビジネススクールでは製造業に特化した経営戦略を学ぶゼミを開いており、現在はハーバード大学GSAS客員研究員として米国に一年滞在し研究を続けている。

早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚氏
早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚氏

 東芝について長内氏はまず、2016年3月に発表した新しい経営方針がうまくいっていないとする見解を示した。東芝は、エネルギー(電力)、社会インフラ、ストレージの3つを柱に据えた構造改革をはかっている。

 まずは社会インフラ。「技術的には深いものを持っている会社だが、必ずしも業界トップではない」と長内氏は指摘、全社を支えるほどの強さを持つビジネスではないとする。ストレージについても、良好とは言いがたいようだ。「確かにフラッシュメモリは今現在をみると高付加価値ビジネスかもしれないが、フラッシュメモリの売り上げ増は(同じ事業部下にある)ハードディスクの売り上げ減につながる」とジレンマ状態を指摘。

 ここではまた、ライバルSamsungがフラッシュメモリに注力することを明らかにしており、価格競争が予想されるとも付け加える。「磐石とは言えない」というのが長内氏の見解だ。

 では残るエネルギーはどうか。予想通り、一番の問題が「原子力事業」と長内氏は言う。東芝は以前より、原子力以外に拡大するとしてきたが、実際のところはビジネスの半分以上が原子力という状態が続いている。拡大方向にあった震災前から、縮小方向に見直しをかけていないという。

 東芝は2016年、2005年に取得した原子力事業の米国子会社Westinghouse Nuclearの資産価値が想定を下回ることなどから、原子力事業で巨額の損失を計上している。それにも関わらず、2018年には原子力で全体の2割の売り上げを得ようとしていたという。

 このように3つの事業それぞれに不安材料を抱えているが、問題は事業レベルだけではなさそうだ。長内氏は「私見だが」と前置きしながら、「ストレージ、社会インフラ、エネルギーの3事業と東芝との間には、コアコンピタンスがない」と経営視点での問題を提起する。「共通の”東芝”として一つの企業であることの意義が見出せない状況だ」。

 長内氏がこの勉強会を行った後、東芝が半導体メモリ事業の分社化を進めていることが報じられている。長内氏はこの時、「事業を切り売りしていく事には、私は反対の立場だ」と述べていた。シャープの鴻海精密工業への売却はどちらかというと賛成の立場だったという長内氏は、シャープと東芝の状況の違いはシャープは企業が丸ごとだったのに対し、東芝はバラバラになると予想するからだ。

 「原子力事業を抱えたままだと東芝を受け入れてくれるところはおそらくないだろう」と長内氏、そうなると事業をバラバラに切り刻んで売られていくことになるが、その場合「日本国内に技術が残らなくなる可能性が高い」と警告した。

 解決策の1つが、原子力については国有化など国がケアすることだ。そして、技術力では他者に劣らないストレージや社会インフラを大切にしていく。「無理に市場経済の中で解決しようとすると、東芝が持っている他の技術や知的財産を含めて、東芝が消滅してしまう」――これは、最悪のシナリオであり、回避すべきだとした。

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