コロナ禍による緊急事態宣言で、多くの人たちの日常生活が変化した。これは一時的なものなのか、それとも新しい働き方や社会の変革が、その姿を現したものだろうか。
「ZDNet Japan Summit 2020 Go to デジタルノーマル」の「Event5働き方&業務改善」セクションに登場した日立製作所の広瀬希氏は、「日立社員のリアルなリモートワーク、見せちゃいます」と題するウェブセミナーをおこなった。
二児の母親である広瀬氏は、全国の小中高校が3月に臨時休校となった際、セキュアで快適な業務環境をすばやく利用できたと述べた。これは、同社が、多様な働き方に対応するため20年にわたりIT環境や制度を整えており、またテレワーク環境自体が継続的に改善されていったためだという。
どうしてすぐに快適な在宅勤務が実現できたのか、どんな環境を利用しているか、日立製作所のリアルについて語った。
日立が、急転直下で在宅ワークを始められた理由
新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐことを大きな目的として、在宅勤務が大きく広がった。3月の政府による緊急事態宣言により、従業員の出勤を70%削減してほしいという要望が出された。
日立でも、全社の平均在宅勤務率は7割に上ったという。また、5月には、緊急事態宣言の解除後も、在宅勤務を変革のドライバーとする働き方改革を推進し、ジョブ型人財マネジメントへの転換を加速させると発表した(※1)。
「緊急事態宣言が解除された現在、従業員には、"一人ひとりのライフスタイルに合わせて、働きやすいと思える職場環境をめざして、これからのニューノーマルを作っていきましょう"というメッセージが伝えられました。
当社では、従業員の働き方にフォーカスした変革が、すでに本格始動しています。そのためには、安心して働ける場所や、家庭と仕事の両立、効果的なコミュニケーションといった、すべての環境を再設計する必要があります。オフィス前提の働き方だったこれまでと異なり、人を中心に、幸福度と快適性・生産性といった要素を高めながら、場所に依存しない柔軟な働き方へと移行を進めています」
「じつは、当社では20年来、人材が活躍できる環境づくりとして、制度とIT環境の整備を進めていました。
もともとは、女性を対象にして、家庭と仕事の両立を支援することからスタートしましたが、その後は、多種多様な人材を支援する方向へと拡大して、現在は、長時間残業の縮減や、仕事と介護の両立支援などをする目的で、タイム&ロケーションフリーの働き方を推進しています。
そのために、シンクライアントによるVDIの導入やWeb会議の導入といった、IT環境の整備も進めてきました。
私たちが一番効果を感じているが、このVDI環境です。20年かけて、トライ&エラーを繰り返して、十分にセキュリティが担保された環境が実現できました。そのおかげで、私も、安心して在宅勤務を始めることができました」
VDI環境によるリモートワークのメリット
VDIとは、Virtual Desktop Infrastructureの略で、仮想デスクトップインフラのことだ。VDIには、ユーザー部門だけでなく、情報システム部門・人事総務部門にも効果が期待できという。
「ユーザー部門のメリットは、時間や場所に依存しない働き方による生産性の向上です。
たとえば、小学校の授業参観や懇談会が午後1時から3時まである場合、働ける場所が職場だけだと、午後半休をとらないといけません。でも、シンクライアントとVDIを使って自宅で作業できれば、懇談会のあとも仕事を再開できます。午前中も家で仕事をすると決めてしまえば、通勤時間も不要になります。そのおかげで、生活の利便性が向上したと感じています。
情報システム部門のメリットは、サーバーへの集約による、運用管理の効率化とセキュリティの向上です。一般的にVDI環境では、仮想デスクトップのマスターイメージを用意して、これをコピー・展開して、各従業員のプロファイルを適用しています。そのおかげで、セキュリティパッチが必要な場合も、このマスターイメージに適用するだけですべての仮想マシンに反映されます。また、従業員が勝手に環境設定を変更するリスクも避けることができます。
人事・総務部門のメリットは、時間や場所に依存しない働き方を推進できることです。人が20-30年働くとしても、いつでも同じ条件では働くとは限りません。家庭に軸足をおく期間もあれば、仕事にばりばり打ち込む期間もあるでしょう。もしかしたら、趣味と仕事を両立しながら生活していく人も登場するかも知れません。
そのとき、それぞれのライフステージ・ライフスタイルに合わせて働く環境を提供できるでしょう。
このような働き方を提供できるなら、効率よく働く優秀な人材を、長く・多く確保できるようになるでしょう。また、在宅勤務が当たり前になれば、通勤時間や通勤費用が大幅に削減できるでしょう」
実際に、どのように在宅勤務を行っているのか
日立では、VDI環境に接続できる3種類のデバイスが利用可能になっているという。
「シンクライアントは、VDI環境のアクセスに特化したデバイスで、ローカルにデータを保存できないようになっています。
FATクライアントは、業務アプリケーションをローカルで実行でき、データもローカルに保存できます。このとき、クラウドにも一部のデータを分散して配置することで、両方がそろわないと参照できないようにして、安全性を高めています。
EMMクライアントは、エンタープライズモビリティ管理を備えたデバイスで、当社では会社が提供するスマートフォンが該当します。情報システム部門の管理が前提となっており、ローカルにデータを保存可能ですが、もしも失くしてしまった場合には、リモートでデータを削除できます。
また、会社が許可したアプリ一覧からユーザーが選んでインストールするようになっており、そのためにVMware AirWatchを導入しています。
このEMMクライアントでとくに役に立ったのが、Web会議ツールです。私が在宅勤務をはじめた3月ごろは、Web会議も、シンクライアント上のVDI環境でやっていました。そうすると、VPNやWeb会議のトラフィックで社内のネットワークを圧迫してしまい、昼間など会議が集中する時間帯は音質も悪くなりました。そこで、EMMクライアントを多く配布して、公衆モバイルネットワークからWeb会議を利用できるようにしました」
お客様にもリモートワークの解決策を提供
こうしたVDIといくつかのデバイスを使い分けることで、セキュアでありながらリッチな業務環境を在宅でも利用できるという。日立では、約20年にわたる実績と、自分たちが利用者となった経験をもとにして高品質・高信頼なソリューションを提供しているのだ。
このソリューションは、お客様にも提供しており、損害保障ジャパンの事例を公開していると紹介して、セミナーをしめくくった。
※1日立製作所ニュースリリース:在宅勤務を変革のドライバーとする働き方改革を推進-ジョブ型人財マネジメントへの転換を加速
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2020/05/0526.html