「ASEANビジネスの再構築を」ベーカー&マッケンジー法律事務所 穂高氏
ASEAN地域で「単一市場と単一生産基地」「ヒト・モノ・カネの動きの自由化」を掲げるASEAN経済共同体(AEC)。2015年12月発足に向けて進出企業や市場を狙う企業からの関心が高まっている。セミナー冒頭で主催者のIIJは、「AECに対する声は一様ではない。AECを見越した経営を進めてきており問題ないという企業もあれば、最近の状況にあわせ戦略を練りなおしているという企業もある。現地を知る専門家によるリアルな声を届けたい」と、セミナーの意義を説明した。
続いて、基調講演にベーカー&マッケンジー法律事務所でパートナーを務める穂高弥生子弁護士が登壇。「ASEAN経済共同体(AEC)の最新動向」と題し、AECの最新動向を解説しながら、日本企業がどのような事業戦略を展開していくかのヒントを示した。ベーカー&マッケンジーはASEAN加盟10か国中7か国に拠点を有し、AEC案件に関する取扱実績も多い法律事務所として知られる。AECについて早くからタスクフォースを結成し、日本企業以外にも域内・域外の進出企業を支援してきた。
ベーカー&マッケンジー法律事務所
パートナー 弁護士
穂高 弥生子 氏
穂高氏はまず、AECについて、「言語、民族、政治、宗教などが異なる非常に多様性を持った共同体であり、できるところから少しずつ統合に向け取り組んでいるのが内情だ。外からは何が起こっているのか見えにくいところが課題だ」と説明した。2007年に採択したAECブループリントは「1. 単一市場と生産拠点」「2. 競争力ある経済圏」「3. 平等な経済発展」「4. グローバル経済への統合」の4つを戦略目標として掲げている。
たとえば、 単一市場と生産拠点では、物品の自由な移動、サービスの自由な移動、投資の自由な移動などが重要な要素になっている。ただ、目的達成に向けた非関税障壁の撤廃、基準認証の統一化、サービス業参入自由化などの各施策は、それぞれ進捗度合が異なっており、AECの目的がすべて実現し「統一市場」が完成するにはまだ時間を要するのが現状だという。
物の移動に関して、ASEANにおける製造拠点の再編の方向性や、地域統括拠点を設置する際の課題などを解説した。まず、製造拠点の再編については、越境交通協定(CBTA)により入出国の手続き簡素化、車両の相互乗入れ、経済回廊などの道路をはじめとするインフラ設備などの整備が進められるなか、地続きのメコン流域を中心として単一の生産拠点化が進んできているという。製造拠点の再編には、大きく、集約化と分業化という2つの方向性がある。
集約化は、たとえば、タイ、マレーシア、インドネシアそれぞれで生産していた日用品について、タイはシャンプー、マレーシアは歯ブラシなど、品目ごとに国に集約して生産し、規模の経済を追求するもの。分業化は、工業製品について部品の調達から、加工、組立までをそれぞれの国で行っていたものを、部品の調達、加工、組立などの作業の特性に応じて国ごとに分業するというものだ。
「進出企業にアンケートを行ったところ、ASEAN地域での製造を集約化するとの回答は89%、分業化するとの回答は56%、集約化と分業化の双方を実施するとの回答は47%だった。どこの地域が安く労働力を確保できるか、熟練工がいるか、ターゲットとする市場はどこかなどを考慮した戦略が求められる。ASEANを単一の経済圏とすることによりこれまで各国が担っていた役割が変わってきた」(同氏)。
誘致政策の動向も注意が必要だ。製造拠点として誘致に積極的だったタイが外資奨励策を転換し、単純な製造業には恩典の付与をせず、地域統括会社の誘致に転換するなど、政策も変わってきた。また、地域統括拠点の役割も重要になってきた。ASEAN進出にあたっては、シンガポールに統括拠点を設ける会社が多いが、優遇税制などのメリットを享受できていないケースも多いという。統括拠点の強化が求められる中、自社の業種、業態にはどの国の地域統括会社誘致策がフィットするのか十分検討することが必要とした。
穂高氏は「日本は、他の地域に対する投資と比べて、ASEANビジネスから得ている利益が大きいのが特徴だ。ASEANから引き続き利益を得るためには、ASEANビジネス再構築の過程で戦略を再検討していく必要があるだろう」と提言した。
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