データ活用型組織への“ジャーニー”
それでは、企業や組織はこうした理想的な姿へどのように変化していけばよいだろうか。テクノロジーを生み出すだけでなく、自らそれを実践して変革を成し遂げようとしているマイクロソフトの事例を取り上げたい。
同社のエグゼクティブバイスプレジデントで最高財務責任者(CFO)を務めるAmy Hood氏は、財務部門がデータを活用し将来を予測して行動できる組織へと変革する道のりが決して平坦ではなかったと振り返る。
「ほとんどのCFOは、まず各業務のフェーズを簡素化、効率化することを目指そうとする。しかし、財務部門の業務は自社のあらゆるビジネスに関係しているため、あらゆる状況を知り理解し、これからを予測し、ベストな行動に実現していく大切な役割を果たす存在である」(Hood氏)
財務部門がそのような価値を自社に提供するには、当然ながら、あらゆるデータの所在や状況を把握し、どのように利用されるのかを理解し、それらが適切に管理されているかを確認することから始めなければならない。同社においても、かつてはそれが手作業に委ねられていたという。
エグゼクティブバイスプレジデント CFOのAmy Hood氏
「データがサイロ化し、連携せず、集約もされていない。定義も一貫性がない。その把握に作業の70%が割かれてしまう。私たちは、それを “マニュアルアナリスト”と呼び、データから洞察を得るために負担を強いられる。いかに優秀な人材を採用しようとも、コピー&ペーストのような作業を終われてしまう」(Hood氏)
そこで、SAPによる財務システム、120に上るデータソースをAzureに移行した。クラウド化により、まずは財務部門の業務を改善していくためのベースを整えた。次に、データへのアクセス性を検討した。ここでのポイントは、セキュリティやプライバシーのコントロールを確保しつつ、ユーザーがデータへ容易にアクセスして活用できるようにすることだった。Hood氏は、「洞察へのアクセスを“民主化”する」と表現する。
ここまではデータ活用のための土台作りである。本題は、データから洞察を得て予測し行動するための仕組みだ。ちなみに、財務部門には約3000人が在籍する。このような規模でどう仕組みを整えたのか。
「財務部門としてもデータを分析し予測を行っているが、決して専門家ではない。実はデータサイエンティストは1人しかおらず、多数のデータサイエンティストを抱える必要性は少ない。なぜなら、財務部門が本当に必要としている能力は既に持ち合わせているからだ」(Hood氏)
財務部門の業務は専門性が高く、その業務に必要とされるデータの分析や洞察の獲得、将来の予測は、業務に携わる財務部門自らが行うのが自然な理だろう。「課題だったのは、方法が分からないということだった」とHood氏は言う。
データサイエンティストが支援したのは、財務部門がテクノロジーを活用するための方法を獲得することだ。そうして例えば、機械学習技術で予想の精度を高めた。予測の差異が改善され、従前の3%から1.5%に半減するだけでも財務における効果は計り知れないという。Hood氏は、“マニュアルアナリスト”の手作業が大きく削減される意義も大きなものだとする。本来果たすべき役割と価値提供のための必要なリソースを確保できたからだ。
ここまででマイクロソフトの財務部門における変革は成功したかに映る。だが、Hood氏は、DXの取り組みにゴールはないと指摘する。「変革とは、小さな取り組みの積み重ねだ。1つのことからより多くの改善すべきことが見えてくる。データ基盤の整備はとても大変だが、これができると自由を手にできる。さまざまな業務プロセスを見渡せるようになり、1つずつ変えていくことで、業務プロセス全体が再構築される」(Hood氏)
変革を推進するのは人であり、テクノロジーはそのための方法である。テクノロジーが変革を加速させる“魔法”でないことは当然だ。組織の変革を推進するリーダーに向けてHood氏は、「データ活用に近道はない。正しく取り組めば必ず報われる。リーダーはデータ活用の道筋をしっかり時間をかけて考えるべきだ。そして、変革の取り組みに意見を言える人材も含めてほしい。挑戦し、失敗し、学び、改善するために欠かせない。成果を急ぐのではなく、最初のことに多くの時間を割くべきである」とアドバイスを送る。
最後に、日本でもおなじみのStarbucksコーヒーにおけるデータやテクノロジー活用での基本的な考え方を紹介しよう。社長兼CEOのKevin Johnson氏によれば、それはパートナー(Starbucksの従業員)と顧客を起点に据え、「人間がより人間らしくあるために活用する」ということだ。
パンデミックにより店頭でコーヒーを楽しむことが困難となり、もちろんStarbucksのビジネスも厳しさに直面する。しかし、コーヒーを販売すること自体がビジネスの目的ではない。「コーヒーをお客さまに提供する。つまり、人を相手にしているのだ」(Johnson氏)
同社は、そのためにテクノロジーへ投資し、AIが店舗の意思決定を支援する仕組みを構築している。コロナ禍の現在は、感染状況や社会情勢、顧客の動向や好み、感情といったデータも利用して、顧客は安全にコーヒーを楽しめる環境づくりを工夫する。こうした取り組みの起源には、10年来というモバイルを生かした変革もあったといい、同社では早くからモバイルアプリでコーヒーを注文でき、ユーザーの好みに応じてレコメンドするような機能も提供してきた。店内で時間を過ごすことができない現在でも、顧客がモバイルでコーヒーを求めることができ、店舗のパートナーも顧客に最適なコーヒーをテイクアウトで提供できる。
「最初に重視したのは、テクノロジーでパートナーと顧客がよりつながるための支援をするということだった。モバイルアプリでの体験をパーソナライズし、お気に入りや購買履歴が分かりやすくなり、提案もできる。すばらしい体験を創造することだ」(Johnson氏)
企業や組織の変革の有り様は実にさまざまだろう。現在はそれを可能にするテクノロジーがある。新しい価値を創造し提供し、それを新しい日常のビジネスとしていく“ジャーニー”への一歩を今こそ踏み出していただきたい。
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2021年2月26日(金) 13:00-17:30(予定)