ノークリサーチQuarterly Report 2012年夏版(Vol 019)
調査設計/分析/執筆: 岩上由高
2012年夏の中堅・中小企業のIT投資指標
株式会社ノークリサーチ(本社〒120-0034 東京都足立区千住1-4-1 東京芸術センター1705:代表伊嶋謙ニ03-5244-6691URL:http//www.norkresearch.co.jp)では中堅・中小市場における第19回目のIT投資実態調査を行った。本リリースはその結果速報をまとめたものである。
調査対象企業: 年商500億円未満の国内民間企業1000社の経営層および管理職
調査対象地域: 日本全国
調査対象業種: 組立製造業/加工製造業/建設業/流通業/卸売業/小売業/IT関連サービス業/一般サービス業/その他
調査実施時期: 2012年8月末
年商500億円未満の全体IT投資DI値は15四半期ぶりにプラス値へと転換、
ITコスト削減一辺倒から業績改善を目的としたIT活用への意識が高まる兆候が見られるが直近では中国や韓国との政治的対立が経済に与える影響も注視しておく必要がある
▼ 2012年5月時点と比べ経常利益DIは減少したが、IT投資DIは改善を続けてプラス値へ
▼販売や受注の単価上昇が見込めない状況下で、今後はIT活用による収益改善を期待
▼DI値は同じでも、業種によって「業務効率改善のIT投資」と「現状維持のIT投資」がある
▼ 2012年5月時点と比べ経常利益DIは減少したが、IT投資DIは改善を続けてプラス値へ
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業全体におけるIT投資DIと経常利益DIの変化をプロットしたものである。
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIは2.3ポイント下落したものの、IT投資DIは4.3ポイントの増加となった。リーマンショックの影響を受けて2008年11月にマイナスとなってから、IT投資DIの全体値がプラスとなったのは15四半期ぶりとなる。だが、本調査実施直後には中国や韓国との政治的な対立が深まっており、それらが一般企業の活動に悪影響を与える可能性も懸念されている。その懸念が現実のものとなれば、次回の調査(2012年11月)には再びIT投資DIがマイナスに転じる恐れもあり、今後の動向を引き続き注視していく必要がある。
次頁以降では年商別および業種別に各DI値の傾向を詳しく見ていくことにする。
[IT投資DIの定義]
今四半期以降のIT投資予算額が前四半期と比べてどれだけ増減するかを尋ね、「増える」と「減る」の差によって算出した 「IT投資意欲指数」
[経常利益DIの定義]
前回調査時点と今回調査時点を比較した場合の経常利益変化を尋ね、「増えた」と「減った」の差によって算出した「経常利益増減指数」
▼販売や受注の単価上昇が見込めない状況下で、今後はIT活用による収益改善を期待
以下のグラフは経常利益DIおよびIT投資DIの変化を年商別にプロットしたものである。
経常利益DIの変化を2012年5月と2012年8月で比較すると、年商5億円未満でプラス1.5ポイント、年商5億円以上~50億円未満でマイナス17.0ポイント、年商50億円以上~100億円未満でプラス3.0ポイント、年商100億円以上~300億円未満ではプラス4.5ポイント、年商300億円以上~500億円未満ではマイナス3.5ポイントとなっている。
経常利益が増加した理由としては、いずれの年商帯においても「自社の販売や受注における数量が増加している」を挙げる割合が5~7割と最も多く、「人件費などの固定費削減施策の成果が出てきている」が2~3割で続いている。一方で、「自社の販売や受注における単価が上昇してきている」は1割程度に留まり、販売/受注の単価や人件費を抑えることで収益を確保している状況がうかがえる。経常利益DIが減少した理由に関しては、年商100億円未満の企業層において「日本国内の需要はまだ回復していない」が3割程度と多く挙げられている。資金力が限られる中堅下位層(年商50~100億円)、中小企業層(年商5~50億円)、小規模企業層(年商5億円未満)においてデフレ環境への対応に依然として苦慮していることなどが背景にあるものと推測される。
特に年商5億円以上~50億円においては数量の増加によって収益をカバーしている傾向が強く、それに追随できていない企業が少なくないことが経常利益DIが大きくマイナスとなった要因の一つと考えられる。年商300億円以上~500億円未満においては他年商帯と比べ、経常利益の増減理由に「国内競合他社との競争に勝っている/負けている」を挙げる割合がやや多くなっている。
こうした企業間の競争が厳しくなることによって、経常利益DIが若干のマイナス値を示したものと推測される。
IT投資DIの変化を2012年5月と2012年8月で比較すると、年商5億円未満でマイナス0.5ポイント、年商5億円以上~50億円未満でプラス6.5ポイント、年商50億円以上~100億円未満でプラス3.5ポイント、年商100億円以上~300億円未満でプラス8.0ポイント、年商300億円以上~500億円未満ではプラス4.0ポイントとなっている。
年商5億円未満においては「現状を維持する以外、特にITに対して投資をする必要がない」という理由でIT投資を削減する意向が依然として強く、他の年商帯におけるIT投資DIがプラスとなった状況下においてもマイナス値のままとなっている。
年商5億円以上においては、IT投資を増やす理由として「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」が5~7割と最も多く、「現状を維持するため、ハードウェアやソフトウェアの更新が必要」の4割前後を上回っている。また、「中長期視点でITコストを削減するため、現システムの変更が必要」は1~3割程度に留まっている。販売や受注における単価の上昇が今後も見込めない可能性が高いことを受け、ITを活用することによる収益改善を重視する方向へと変化しつつあると考えられる。
特に中堅下位層(年商50~100億円)ではそうした意向が高いが、その一方「IT投資の必要性は感じているが、それだけの資金余力がない」という回答割合も高い。これが他の年商帯と比べてIT投資DIの値がやや低くなっている要因と考えられる。同年商帯に対しては、ITソリューション提案における投資対効果の説明と明示が特に重要なポイントとなってくる。
▼DI値は同じでも、業種によって「業務効率改善のIT投資」と「現状維持のIT投資」がある
次頁のグラフは経常利益DIの変化を業種別にプロットしたものである。業種毎の傾向は以下の通り。
組立製造業:
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIはプラス0.2ポイント、IT投資DIはプラス8.6ポイントとなっている。経常利益の増加理由としては「自社の販売や受注における数量が増加してきている」が多く挙げられている一方で、減少理由では「円高傾向が自社の利益を圧迫している」や「海外向けの需要はまだ回復していない」が他業種と比べて多く挙げられており、結果的に経常利益DIはほぼ横ばいとなっている。IT投資については「IT投資の必要性は感じているが、それだけの資金余力がない」が多く挙げられている一方で「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」も多く、投資を最小限に抑えた上でのIT活用による収益確保が求められている。
加工製造業:
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIはマイナス8.4ポイント、IT投資DIはプラス8.4ポイントとなっている。経常利益の増減理由を組立製造業と比較すると、増加理由では「在庫調整などの生産調整施策の成果が出てきている」が多く、減少理由では「個人消費や設備投資が以前よりも低調になってきている」や「原材料や燃料/電力のコスト負担が増加している」が多い。組立製造業と比べ、厳しい経済環境に対応して販売や受注を増やすための施策にはやや遅れが生じている可能性がある。
また、IT投資増加理由においても「現状を維持するため、ハードウェアやソフトウェアの更新が必要」が「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」よりも多く挙げられている。IT投資DIの値は近いが、組立製造業と加工製造業とで中身が異なる点に注意する必要がある。
流通業(運輸業):
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIはプラス6.9ポイント、IT投資DIはプラス8.8ポイントとなっている。経常利益DIはプラスとなっているものの、増加理由を尋ねた結果では「人件費などの固定費削減施策の成果が出てきている」が多い。またIT投資の増加理由については「取引先や顧客のニーズ変化に追随するためのシステム投資が必要」が比較的多い。
DI値はいずれもプラスとなっているものの、収益改善や戦略的なIT活用が進んでいる状態とはいえない点に注意する必要がある。
建設業:
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIはプラス5.6ポイント、IT投資DIはプラス12.8ポイントとなっている。経常利益の増加理由で「自社の販売や受注における数量が増加してきている」が多く挙げられる一方、減少理由では「自社の販売や受注における単価が下降または横ばい状態である」が他業種と比べて多い。また、IT投資増加理由では「現状を維持するため、ハードウェアやソフトウェアの更新が必要」の占める割合が他業種よりも高い。DI値はいずれも高いものの、薄利多売の状況下における現状維持主体のIT投資に留まる可能性がある点に留意しておく必要がある。
卸売業:
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIはプラス4.7ポイント、IT投資DIはマイナス5.4ポイントとなっている。経常利益の増加理由においては「自社の販売や受注における数量が増加してきている」が最も多いが、他業種と異なる特徴的な傾向としては「円高傾向が自社の増益に寄与している」がやや多い点が挙げられる。一方、IT投資の減少理由では「現状を維持する以外、特にITに対して投資をする必要はない」に次いで、「IT投資の必要性は感じているが、管理/運用する人材がいない」が比較的多く挙げられている。円高傾向が業績面でプラスに働く一方、そこで得られた原資をIT投資に活かせない状態といえる。
小売業:
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIは、マイナス2.4ポイント、IT投資DIはマイナス0.9ポイントとなっている。経常利益の減少理由としては、他業種と比べ「個人消費や設備投資での節約志向が悪影響を与えている」が多く挙げられている。IT投資の減少理由については「現状を維持する以外、特にITに対して投資をする必要はない」が最も多い。ITの活用が消費者の節約志向を打開する有効な手段となれば良いが、具体的な施策がまだ見つけられていない状況となっている。
IT関連サービス業:
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIは、プラス4.9ポイント、IT投資DIはプラス1.0ポイントとなっている。経常利益の増加理由としては、他業種と比べ「個人消費や設備投資が以前よりも活発になってきている」が多く挙げられている。個人向けのスマートフォン/タブレットが好調であることなどを踏まえ、それを見込んだサービス展開に関連したIT投資などが活発になっていることが一つの要因と考えられる。ただし、IT関連サービス業自身のIT投資については若干の増加に留まり、「IT投資の必要性は感じているが、それだけの資金余力がない」といった回答が比較的多いことなどがその背景にある。
サービス業:
2012年5月と2012年8月を比較すると、経常利益DIは、マイナス7.0ポイント、IT投資DIはプラス4.5ポイントとなっている。経常利益の減少理由としては「自社の販売や受注における数量が減少または横ばい状態である」「自社の販売や受注における単価が下降または横ばい状態である」「日本国内の需要はまだ回復していない」「個人消費や設備投資が以前よりも低調になってきている」などの複数の項目が同時に挙げられている。経常利益の増加理由も「人件費などの固定費削減施策の成果が出てきている」といった経費削減に起因するものが多く挙げられており、サービス業をとりまく環境は厳しくなっている。だが、IT投資の増加理由では「業務効率を改善し、収益を向上させるためのシステム投資が必要」が多く挙げられており、こうした厳しい状況をIT活用による効率化で乗り切ろうとする意向が垣間見える。
以下のグラフは経常利益DIの変化を業種別にプロットしたものである。業種毎の傾向については前頁に詳細を記載している。
以下のグラフはIT投資DIの変化を業種別にプロットしたものである。業種毎の傾向については前頁に詳細を記載している。
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