2017年 ERP投資額シミュレーションに基づくソリューション訴求の優先度決定
調査設計/分析/執筆: 岩上由高
ノークリサーチ(本社〒120-0034 東京都足立区千住1-4-1東京芸術センター1705:代表:伊嶋謙ニ TEL:03-5244-6691URL:http//www.norkresearch.co.jp)は「ERP投資額シミュレーションに基づくソリューション訴求の優先度決定」に関する分析結果を発表した。本リリースは「2016年版 中堅・中小企業におけるクラウドERP導入の動向予測レポート」のデータに対し、発展的な分析手法である「カスタムリサーチ・プラス」を適用した実施例である。
<投資額シミュレーションによって、今後注力すべきERPソリューションを選別する>
■今後のERP導入提案では「有望なソリューションに絞ってリソースを集中させる」ことが大切
■共通の「基礎データ」にSIer毎の「個別実績」を組み入れたERPソリューション選別法が有効
■「ERPに所定のオプションを加えた場合の全体投資額」などもシミュレーションが可能となる
用いた手法: 「カスタムリサーチ・プラス」(ベイズ推定を用いた投資金額の予測)
対象データ: 「2016年版中堅・中小企業におけるクラウドERP導入の動向予測レポート」
カスタムリサーチ・プラスの詳細: (リンク »)
対象となった調査レポートの詳細: (リンク »)
■今後のERP導入提案では「有望なソリューションに絞ってリソースを集中させる」ことが大切
ユーザ企業におけるIT投資の対象分野は多岐に渡るが、ERP/基幹系システム(以下、まとめて「ERP」と記載する)は依然としてIT投資全体の多くを占める分野の1つとなっている。しかし、ERP導入ソリューションも多様化しており、IT企業にとっては『どのERP導入ソリューションに注力すべきか?』の判断が難しくなってきている。
下図の左側に示した数表はあるSIer「S社」において、アパレル製造卸売業向けに提供している2つの販売管理ソリューションの実案件データである。2つのソリューションの違いは以下の通りである。
ソリューションA: 既存のマスターデータを活用してそれらを連携させる
ソリューションB: マスターデータを新規構築してデータを集中管理する
ソリューションBはソリューションAと比べて平均投資額は高いが、「標準偏差」の欄が示すように投資額のバラつきも大きい。
社内リソースや計画達成度を踏まえるとAとBどちらか一方の有望なソリューションに絞る必要があり、1案件当たり1600万円以上の売上が必要となる。では、1600万円以上の案件がより多く見込めるソリューションはAとBのどちらだろうか?従来は定量的な判断基準に基づいて上記の意思決定を下すことは容易ではなかった。こうした課題を解決する手段の1つが「カスタムリサーチ・プラス」(ノークリサーチが提供する調査サービス)で用いられる「ベイズ推定を用いたシミュレーション」である。下図の右側が示すように基礎データから得られたERP投資額の分布状況に対し、S社におけるソリューションAおよびBの実績を組み入れることでソリューションAとBの投資額をシミュレートすることができる。次項以降ではその実例を紹介する。
(ここではIT企業にとっての収益という観点から見たソリューションの優先度付けに焦点を当てているが、実際の個々の提案/訴求においてはユーザ企業のビジネスを改善/発展させるという観点も考慮した選択が重要であることは言うまでもない)
■共通の「基礎データ」にSIer毎の「個別実績」を組み入れたERPソリューション選別法が有効
下図の青線で示したヒストグラム(度数分布)は年商500億円未満の企業700社に対し、今後一年以内に導入するERPの初期投資金額を尋ねた結果である。(元となるデータは「2016年版中堅・中小企業におけるクラウドERP導入の動向予測レポート」に収録されている)
過去における同様の調査などを踏まえると、このERP投資金額の分布は下図の数式で示された対数正規分布に従っている。
対数正規分布は数式中に赤色で示した「平均(u)」と「標準偏差(s)」によって定まる。(確率分布を定める値は「パラメータ」と呼ばれる)だが、ここで「u」と「s」の値を一意に定めることはできない。なぜなら下図の結果も1つのサンプルであり、もう一度同じ条件で調査を行ったとしても下図のヒストグラムと全く同じ結果が得られるとは限らないからである。つまり、豊富な基礎データがあったとしても「u」と「s」 は一意に決められるものではなく、これらのパラメータ自体を確率変数と見なす必要がある。
ここでは詳細を割愛するが、基礎データに基づいて「u」と「s」の確率分布を求めた結果が下図の右下のグラフである。これらの分布は「S社におけるソリューションAやBの実績」を組み入れる前の一般的な状況を示したもので、「事前分布」と呼ばれる。
この『事前分布』に『個別のデータ』を反映する手法が「ベイズ推定」であり、得られた結果は『事後分布』と呼ばれる。ここでは上記の「u」と「s」の分布が『事前分布』、前頁のソリューションAとBにおける10件ずつの実績が2つの異なる『個別のデータ』ということになる。これらに「ベイズ推定」を適用した『事後分布』は多くのユーザ企業を対象とした基礎データを前提としながら、S社におけるソリューションAとBの実績を組み入れたパラメータの分布ということになる。 この事後分布を得ることで 「自社の実績だけでは判断を下すだけの件数に満たず、一般の調査結果を参照するだけでは自社の状況と比較できない」という課題を解決することができる。次頁ではこうした手法の具体的な活用例について述べる。(ベイズ推定を用いたシミュレーションの詳細は右記を参照 (リンク ») )
■「ERPに所定のオプションを加えた場合の全体投資額」などもシミュレーションが可能となる
実際に「ベイズ推定によるシミュレーション」の結果を示したものが以下の図である。 基礎データから得られた「パラメータの事前分布」にソリューションAとBの「個別データ」をそれぞれ適用し、「パラメータの事後分布」を得る。さらに、この事後分布パラメータを対数正規分布に適用してERP投資額のシミュレーションを行う。シミュレーションにはMCMC法(Markov Chain Monte Carlo Method)を用いた。(MCMC法の詳細は右記を参照 (リンク ») )
下図の最下部に示した2つのヒストグラムが前頁の青線で示した基礎データにソリューションAとBの個別データを組み入れたERP投資額の度数分布ということになる。
「1600万円以上の案件がより多く見込めるのはAとBのどちらか?」を知りたい場合には、得られたシミュレーションデータにおいて1600万円以上のデータが幾つあるか?を比較すれば良い。実際に確かめてみると、ソリューションAにおいて1600万円以上の案件が占める割合: 63.6%ソリューションBにおいて1600万円以上の案件が占める割合: 66.7%となる。したがって、ソリューションAとBのどちらか一方に注力する必要がある場合はソリューションBを選んだ方が高い収益を期待できる。ここで重要なのはERP投資額の具体的なシミュレーションデータ(「ソリューションAでは***万円、***万円、….、***万円」といった具体的な投資額の数値列)が得られているという点だ。
例えば、S社が「需要予測に基づく在庫最適化オプション」を提供しており、これまでの経験から、ソリューションAにおけるオプション適用率は28%、オプション適用時の追加費用はERP本体の3割ソリューションBにおけるオプション適用率は30%、オプション適用時の追加費用はERP本体の1割であることがわかっているとする。具体的なシミュレーションデータが既に得られているので、上記の条件を適用した場合にオプションも含めた全体の投資額が幾らになるか?も容易に計算できる。実際に確かめてみると、
「ソリューションA+在庫最適化オプション提案」において1600万円以上の案件が占める割合: 73.6%
「ソリューションB+在庫最適化オプション提案」において1600万円以上の案件が占める割合: 72.0%
となり、逆にソリューションAの方がBよりも高い収益を見込める。既存のマスタデータを利用するソリューションAはERP本体の導入費用ではBよりも安価だが、在庫最適化オプションを適用する追加費用は若干高くなるため、オプションも含めた比較は肌感覚だけでは難しくなる。このようにERP本体の投資額だけでなく、オプション適用時に全体の投資額がどうなるか?を定量的に試算できる点も「ベイズ推定によるシミュレーション」の大きなメリットの1つである。
参考リリースと関連調査レポート
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2016年版中堅・中小企業におけるクラウドERP導入の動向予測レポート
今後一年以内に何割のユーザ企業がERP/基幹系システムを刷新し、クラウド環境へと移行していくのか?
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